第50話 管理できないものが、残った
季節が、一つ巡った。
村は、静かに立て直されている。
空き家は取り壊され、
新しい倉庫が建ち、
水路も整備された。
特別管理区域の線は、
地図にも、地面にも残っている。
だが、
それ以上の動きはない。
触れない。
近づかない。
語りすぎない。
それが、
この土地の新しい常識になった。
畑は、変わらない。
柵の向こう、
見える位置にありながら、
誰も入らない。
入れない。
上空に、ドラゴンはいない。
少なくとも、
目には見えない。
だが、
空気の重さは、
今も変わらない。
固定された空間。
ずれた位相。
奪えない場所。
カイルは、
畑の中央で土に触れている。
季節は巡る。
芽が出る。
育つ。
実る。
誰も食べない。
誰も売らない。
それでも、
畑は続く。
村の子どもたちは、
遠巻きに眺めることはある。
「あそこ、竜の畑だろ」
「入れないんだって」
「危ないんじゃないの?」
大人は、訂正しない。
危険とは言わない。
安全とも言わない。
ただ、
「触れない方がいい」とだけ教える。
管理できないものは、
分類の外に置かれる。
禁止ではない。
神聖でもない。
ただ、
枠の外。
領主は、
年に一度、報告を受ける。
「変化なし」
「侵入試行なし」
「被害なし」
安定している。
それで十分だ。
管理社会は、
今日も正しく動いている。
税も集まる。
水も流れる。
秩序も保たれる。
たった一つの例外を除いて。
カイルは、
空を見上げる。
かつて、
そこにあった白銀の影はない。
だが、
分かる。
均衡は保たれている。
畑は、
誰のものでもない。
奪えない。
利用できない。
管理できない。
だが、
壊れもしない。
村人の一人が、
通りすがりに呟く。
「結局、何だったんだろうな」
誰も答えない。
説明はない。
記録も曖昧だ。
ただ、
一つだけ確かなことがある。
人は、
正しい手順で、
正しい判断を重ねた。
その結果、
正しく扱えないものが、
一つ残った。
それだけだ。
カイルは、
土を握る。
温度は、いつも通り。
世界は続く。
畑も続く。
交わらないまま。
管理できないものが、
残った。
そして、
それで、終わりではなかった。




