第33話 村人との断絶
畑に立ち入った翌日から、
村の空気は、はっきりと変わった。
誰も、露骨に避けはしない。
挨拶も、返ってくる。
ただ――
距離が、一定になった。
朝、市場へ向かう途中。
カイルは、いつもの露店の前で足を止めた。
「……今日は、野菜は?」
声をかけると、
商人は、少し困った顔をした。
「ああ……今日は、いい」
「余ってるぞ」
「分かってる」
それでも、
手は伸びてこない。
「規制が出たろ」
商人は、周囲を気にしながら言った。
「一応、
あの畑の作物は……
扱わない方がいいって」
「誰が?」
「……役所が」
役所、という言葉が、
妙に重かった。
「禁止じゃない」
商人は、慌てて付け足す。
「ただ、
“確認が取れるまで”ってだけだ」
それは、
拒否ではない。
保留だ。
だが、
保留は、
いつだって拒否に近い。
「……分かった」
カイルは、それ以上言わなかった。
歩き出すと、
背中に視線を感じる。
恐れではない。
様子見だ。
昼過ぎ、
畑の外で、子どもたちの声がした。
いつもなら、
勝手に入り込んでくる。
だが、今日は柵の外だ。
「入っちゃダメなんだって」
「危ないんでしょ」
「ドラゴンの……」
最後の言葉は、
小さく、
でも、確かに言われた。
カイルは、
畑の中から声をかける。
「何も起きてないぞ」
子どもたちは、
一瞬だけ顔を上げ、
それから、
一歩下がった。
「でも……」
誰かが、そう言い、
言葉を続けられなかった。
カイルは、
それ以上、呼び止めなかった。
夕方。
家の前で、
年配の女が立ち止まる。
何度も、
野菜を受け取っていた人だ。
「……カイル」
声は、優しい。
「身体は、大丈夫かい」
「ああ」
「なら、いい」
それだけ言って、
去っていく。
野菜の話は、
出なかった。
その夜、
畑は、静かだった。
音がないわけではない。
だが、
人に向かう気配がない。
カイルは、
畝に腰を下ろし、
土に触れる。
「……悪いな」
誰に対しての言葉か、
自分でも分からない。
畑か。
村か。
それとも、自分か。
遠くで、
犬が吠える。
以前なら、
畑の匂いに寄ってきていたはずだ。
今は、
一定の距離で止まっている。
見えない線が、
確かに引かれていた。
カイルは、
ゆっくりと立ち上がる。
「……畑を守るってのは」
言葉を探し、
見つからず、
飲み込む。
誰も、
間違っていない。
誰も、
悪意を持っていない。
それでも――
畑は、
もう“村の中”にはなかった。
夜風が、
柵を越えて吹き抜ける。
畑は、
それを受け入れ、
静かに、
人から離れていった。




