第111話 エピローグ 遠い畑
夜だった。
見たことのない空だった。
星の並びは違う。
風の匂いも違う。
土の色も、
少しだけ違っていた。
それでも。
畑があった。
小さな畑。
誰かが耕した跡がある。
整えられた畝。
芽が並んでいる。
まだ若い葉が、
夜風に揺れていた。
その畑の端に、
一人の少年が立っている。
空を見上げている。
知らない星。
知らない夜。
だが。
「……あれ」
少年が指を伸ばす。
空の奥。
星のさらに奥。
小さな光が揺れている。
星ではない。
少し遅れて、
少し不規則に揺れる光。
遠い灯。
誰かの火。
少年はしばらく見ていた。
意味は分からない。
距離も分からない。
ただ、
そこにある。
それだけは分かる。
足元の土を踏む。
柔らかい。
少し温かい。
少年はしゃがみ、
芽に触れる。
葉は柔らかい。
生きている。
そのとき。
かすかな感覚が足元から伝わる。
どくん。
小さな鼓動。
少年は顔を上げる。
また来る。
どくん。
ゆっくりと。
弱く。
だが、
確かに。
少年は何も言わない。
ただ、
土を踏む。
空を見る。
遠い灯が揺れている。
知らない誰かの夜。
知らない世界。
それでも。
繋がっている。
どくん。
どくん。
鼓動は続く。
遠く。
深く。
静かに。
少年は立っている。
畑の中で。
それだけだった。




