相談する人と相談される人
近くに手頃な部屋があったので、3人で入っていく。3人が座るには十分な広さで、俺とヨシエ委員長は椅子に座り、マコトはソファでくつろいでいる。恋愛相談に関係が無いというのはわかるが、それにしても余裕すぎるとは思った。
そんな様子を見たからなのか、ヨシエ委員長もリラックスした様子だった。そんなところに、転移の事とか、魔源樹の事とか、この体の事とかを話していく。話が進むにつれて顔がどんどん険しくなっていった。
「というわけだ。」
「ちょ、ちょっと待ってね。まだ追いついてないから。というか、あなたは知ってたの?」
「さっき聞いた。」
話を理解できていないというより、気持ちが追いついていないという雰囲気だった。一方で話を振られたマコトはソファに寝転がっていて、全く正反対の振る舞いをしている。
「さっきって、よくそんなに落ち着いていられるわね。」
「ンなこと言われてもな。あんまり考えたってしょうがないだろ。」
「あのねぇ。」
ヨシエ委員長が腰に手を当てながら説教モードに入りかけたので、もう少し話を進めることにする。マコトの開き直っている感じには、少し驚く所もあるがこれがいいところなのだろうとは思う。
「まぁまぁ、あんまり責めないでやってくれて。マコトも最初は驚いてたんだからさ。」 「別に責めてるわけじゃないけど。」
「時久の言うとおりだぞ。俺はちゃんと相談に乗ったんだからよ。」
「えぇ?」
信じられないといった仕草をしている。このままでは埒が明かない感じになってしまうが、一方で場が和んでいるのも確かだった。マコトなりに気を使ってくれているのだろうと思いつつフォローもする。
「相談に乗ってくれたのは本当で、おかげで方針は決まったよ。」
「そうなの?」
俺の言うことは素直に受け取ってくれた。なのでマコトと話したことを続けて説明する。みんなにも伝えるべきか、今はやめた方がいいとなった。どうなったら伝えても問題ないか、世界に受け入れられれば大丈夫だろうとなった。どうすれば受け入れられるのか、俺達が何なのかわからなければ話が進まないとなった。どうやって調べるのか、俺がアレンに会いに行けばいい。でもどうなるかわからないし、会いに行く前に話をしたかった。
「私には伝えてもいいって思ったのは置いておくとして、よく私に相談しようって思ったわね。」
「え?ダメか?」
「ダメっていうか、ココアちゃんはともかくアリシアさんとはあんなことがあったのよ?私がどうこう言えるわけないじゃない。」
腕組みをしながら反対している。正直に言うと全く気にしておらず、そんな事もあったなと思い出す程度だった。ハーレムがどうこうで対立してしまった時の事を言っているのはわかるが、あれは結婚観の違いをお互いにわかっていなかっただけだと思っている。
クレアさんをデンメスから救おうとしていた時は、むしろ2人は意気投合しているように見えた。恋愛観については似ているのだろう。聞きたいのは結婚観というより恋愛観についてだったので、聞いても問題ないというか意見を聞いてみたいと思っていた。
「別にいいんじゃない?」
「そういうわけには、」
「頭固いねぇ。時久が聞きたいって言ってるんだからいいじゃん。」
相変わらずソファに寝そべっているマコトが援護してくれるが、ヨシエ委員長はそれを睨みつけるだけで逆効果のようにも見えた。
「アリシアの気持ちを代弁して欲しいわけじゃないんだよね。委員長ならどう思うのかなって。」
「それを聞いてどうするの?」
「参考にするけど?ああ、アリシアと違う気持ちかもしれないっていうのはわかってるよ。でもさ、ほら俺もアリシアだけを妻にするつもりだったろ?だからごっちゃになっちゃいそうでさ。」
腕組みをしたまま椅子の背にもたれかかって考え込んでいる。マコトは何故か笑い出していて、2人で同時にジロリと見ると一瞬で真顔になった。
「ごっちゃって言うのは、つまり女性の気持ちとこの世界の人の気持ちが混ざっちゃうってことよね。そういうことならわかるけど。そこで寝転がってる君は、なんで笑ったんでしょうね。」
「あ、いや。他の男達なら気にせず結婚しまくってるんだろうなって。」
「それの何が面白いのか、全然わからないんだけど?」
俺もマコトが何を面白がっているのかよくわからなかったが、あまり追及しても仕方がないような感じもしていた。
「まぁよくわかんないけど、そこまで気にしなくてもいいんじゃない?」
「ふーん。」
「あっ、そうだ。もう夕食だし、行かないとじゃないか?」
ヨシエ委員長はまだ納得していないようだった。それを見たマコトが話題を変えてきた。ただ話し込んでしまったので、もう食事時になっているのはその通りでもある。
「なんだか、上手く話をそらされた気がするんだけど?」
「気のせいだって。時久は会わない方がいいだろうから、食べ終わったら適当に食うもんかっさらって俺の部屋に集合な。」
まだ何か言いたげなヨシエ委員長を少し強引に連れながら2人は行ってしまった。先に戻っているように言われたので、広い廊下を歩いて1人で帰っていった。




