みんなの仕事とみんなの行先
「九十九。つまり俺たちは、仕事を選べないってことなのか?」
助け出してから落ち着くまでに結局2週間も必要で、それだけ限界に近かったんだろうけど。それで全員集合して現状を説明したんだけど、想像通りの反応だな。
「でもさでもさ。魔法が必要ない仕事だってあるんじゃないの?例えばアパレルとか。」
「アパレルって、服を販売することのこと?この世界の服屋って何をすると思う?」
「え?普通に洋服を仕入れて、売るんじゃないの?」
「うーんまぁ、全然違うんだよね。地球だと修理するより新しく買っちゃった方が早いって考えるでしょ?」
「そ、そうね。」
「こっちだと、新しく作るより魔法で修理したほうが早いって考えられていて。だから服屋の仕事っていうのは、持ち込まれた服の修理とか、寸法を魔法で変えちゃうとかになるんだよね。」
「でもさ、それでも。新しく作ることもあるよね。デザインするとか。」
「あることはあるけど、デザインも紙に書いたりとかじゃなくて、服そのものを魔法で作らないといけないからね。」
「・・・。」
「とにかく、人間社会でまともに働くのは諦めたほうがいい。」
「なぁ、九十九。俺たちみたいに加護を貰えればなんとかなるんじゃないか?」
「それは、ないことはないけど期待しない方がいいな。ルーサさんがどうかは知らないけど、テルペリオンは戦い以外で力を使わせてくれないから。俺はそれで問題ないけど、みんなが思い通りにできるとは限らない。」
少なくとも、俺が服屋をやるとか言い出したらテルペリオンはどっか行っちゃうだろうな。それにドラゴンとか妖精に加護をもらえること自体、珍しいことみたいだし。
「補足するがな、まず転移者は他の人間より加護をもらえる可能性は高い。」
「え?そうなの?」
「魔力が無いからな。魔力が多いほど干渉されてやりづらくなる。それでも加護を得ることは勧めん。」
なるほどね。ってみんな何か言いたそうだけどテルぺリオンに遠慮しているのか?
「どうした?聞きたいことがあれば聞いちゃえば?」
「え、えーっと。あの、テルぺリオン様。それは何故でしょうか?」
「お前たちは私とルーサしかよく知らないからだろうがな、本来ドラゴンと妖精は人間とは相容れないものだ。ドラゴンは孤高を好む、加護を得たとして1人で生きていくことになりかねん。人間にとっては辛いことであろ?妖精は言うまでもないが、どんなイタズラに付き合わされることか。」
「残念ながら、それは否定できないわね。」
ルーサさんに関しては、むしろ妖精のイタズラの被害者って感じだけどね。ここまで親切にしていても、あまり信用されていないみたいだし。
「九十九君。私達、どうなっちゃうの?」
「まぁ悪いようにはしないつもりだけど。」
「九十九。はっきり言ってくれないか?」
「それは、このままドワーフの国で働くか、俺の屋敷で保護するか、サバイバルするか、だな。」
みんな黙り込んじゃった。でもこれくらいしかないんだよな。ルーサ次第で別の道はあるけど、そこに期待しちゃいけないっていうのはわかっているみたいだな。
「保護って、どうなるの?」
「いや、それはやめよう。九十九にずっと頼ることになる。」
「えー、だって他のだってルーサさんに頼らないと無理じゃない。」
「炭鉱なら、ずっと働けないか?」
「男子は大丈夫でも、私たちには無理よ。」
「じゃぁ女子だけ保護してもらえば良いんじゃないか?」
「お前だって1週間近く寝込んじゃっていたろ。無茶言うな。」
もめちゃってる。どうしたもんかな、エルフの所も有りだと思ったんだけど、テルペリオンからそんなにたくさんは保証できないとか言われちゃったからな。
「あのさ、私たちってこっちに転移したんだよね。地球に戻れないかな?」
「それもそうだな。」
「九十九君。どうにかならない?」
「いや、そう言われてもな。どうやってこっちに来たかわからないからな。何か覚えてる?」
というかどうやって転移したのか調べるのが本題だった。いろいろあってすっかり忘れてしまっていたな。
「どうって、教室で寝ちゃって、起きたらこっちだった。」
うーん、新情報が全く無い。他に聞いても同じことしか言わないし、どうしたものか。
「どこに転移したのかは覚えてる?」
「どこって、森の中だったな。」
「案内できる?」
「行けばわかると思うけど。」
「そうか、じゃぁそこに行ってみるか。テルぺリオンはどう思う?」
「構わんぞ。」
「九十九。それなら全員で行けないか?」
「全員?いや、どうかな。」
行き先にもよるけど、俺とエイコムだけで守りきれるかわからないからな。
「頼むって、ほら転移者って俺たちだけだろ?バラバラになりたくないんだよ。」
「気持ちはわかるけどさ。」
「仕方がないわね。マコトには私が加護をあげるわよ。それでいいでしょ?」
いいのか?まぁマコトも戦力になるならなんとかなるか。
「エイコム。どう思う?」
「転移者の皆様がご無事ということは、それほど危険な場所では無いでしょうし問題ないかと。」
「そうか。じゃぁ決まりだな。」




