ダマスカス鋼
マギ主任は道具箱から焼け焦げた付け焼き刃を出し、
「ご覧ください、鋼の実験済サンプルです。合金のみの鋼では、この反りが限界です」
ファイアは付け焼き刃に顔を近づけ、観察した。
「うん。本番の鍛え方は、同じ合金を重ねるのか? それとも…」
「複数の地鋼を何層か重ねる『ダマスカス鋼』 で鍛える様、鍛冶屋には発注しています。少しでも理想のエッジに近づけたいので」
ファイアは懐から拳に収まるほどの石を持ち出し、マギに見せた。
「ダマスカス鋼なら、少ないがこれを使ってもらえないか」
「おお! カーン様これはどうやって手に入れたのですか!?」
「6年前に半年ほど酒毒の療養で滞在した『妖精の棲家』 で出会ったドワーフからさ。『仲間を探してくれてありがとう』 て、何もしてやれなかったこのクズ野郎にね」
「この石は何ですか?」
ギュッタの問いにフードの奥から見えるファイアの唇は、噛み締めたままだ。
「錬金術師の私が返答しよう。それは『アダマンタイト』 通称青鉄鋼だ。300年まではヘパイトス山でよく採れた、最高の鉄鉱石だ」
ファイアはマギにアダマンタイトを手渡し話し、ようやく話し始めた。
「これを使って少しでも強度を上げて欲しい。先端は少し反りが甘くても構わないが、刃の丈を変えず、同じ刃渡りを出して欲しい」
マギ主任は、アダマンタイトを手の中で軽く弾ませ暫く考えると、ギュッタにランタンを用意させた。
ランタンをテーブルに置き、マギ主任は道具箱からルーペを取り出しアダマンタイトを観察した。
「結構な純度だ。これにアダシウムという金属を微量錬金で混ぜると、古代グルージヤ教国に繁栄をもたらしたアレス合金ができる」
マギ主任は微笑みながら話を続けた。
「この量でお客様からご注文頂いた柄物なら、ダマスカス鋼の1/3の層をアレス鋼で鍛えられますよ、エッジの形状もお客様から頂いた設計図通りで仕上げられます」
「ありがとうございます。せめて、哀れなドワーフたちのために一矢報いたい」
ギュッタはファイアが標準語で敬語を使っていることに少々驚いている。
「私は、子どもの頃から錬金一筋です。10年ほど前はよく彼らと話をしましたが、謎の失踪が繰り返され、あの様な…」
普段殆ど表情を変えないマギ主任の目に涙が光った。
ザイオンは平和なドワーフたちですら爆薬という武器にしたのだ。
「納期は、1ヶ月。夜を徹して、錬金鍛造させて頂きます。西へパイトス村に高名な刀鍛冶がおり、既に待機させております」
マギ主任はギュッタに話しかけた。
「初回は金銭や、専門的な打ち合わせが必要だから私が鍛冶屋に出向く。後は君が担当だ、クラノス軍駐屯基地で馬を借りて行きたまえ、交通費が浮く」
「あの…私は馬に乗れません」
「カーン様は乗れるだろう。それに、駐屯基地には検問なしで通れる専用門がある。お客様、私の秘書を乗せて移動して頂けますか?」
ファイアはフードから顔を出し、機嫌悪そうに返事をした。
「お前の秘書じゃねえだろう、ギュッタの給料はステファノ商会からだ。気安く呼ぶなよ! こいつは俺の友達だぞ、それくらいおやすい御用だぜ〜ぃ。フン!」
ギュッタはファイアがいつもの調子に戻ったのでホッとした。
マギ主任は道具箱から、伏霊の丸薬がたっぷり入ったガラスの薬瓶を差し出し
「ご機嫌をお直しください、これを差し上げます。ついでに、乗馬が下手なヨナタンというギュッタの用心棒がおりまして、この男には乗馬の稽古をお願いしたい。ホッホッホ」
「欲しいけど要らねぇわ~!」
ファイアが仕事をサボって手に入れ損ねた、すこぶる高級品の魔力が回復できる丸薬が200ccほどの薬瓶にびっしり入っている。
マギ主任はファイアの前で、軽くガラスの薬瓶をもてあそびながら、
「ふむ、夢敗れ買収失敗。ちょうどいい乗馬の調教係を見つけたと思ったのに」
マギ主任はそう言って残念そうに薬瓶を片付けようとしたが、ファイアは突然薬瓶をマギ主任から奪い取り、
「馬3頭駐屯所から借りてこいや! 1ヶ月間で2人ともガッツリ仕込んでやるぜ〜!」
結局、ファイア・レッドはマギ主任に買収され、こき使われることに…。
魔法薬で買収されたファイアは、マギ主任と乗馬訓練などの契約を済ませ、ギュッタと2人でクラノス軍駐屯基地を後にした。




