用心棒
読者様からご指摘があり、台詞の書き方を読みやすくなるよう工夫してみました。
ご試読いただければ幸いです。
ギュッタは何者かに体を揺さぶられた。
「…? 誰だ、俺を起こすのは。眠いよ」
「暗いけど、もう朝だぜ~。お前仕事だろ?」
着替えを済ませ豚型獣人になったファイアだ。
「うわぁあ!」
ギュッタは飛び起き、大慌てで自分の下宿に戻ると、部屋に行水用のお湯を張った桶が置かれていた。
「わ! ウルヴァンさんに後でお礼言わなきゃ」
ギュッタは大慌てで体を拭き、パブに朝食を食べに行こうとすると、ファイアが2人前のモーニングセットを持ってやって来た。
「一緒に食べようぜ~。お湯は俺が片付けるから気にするな、添い寝のお礼さ~」
どうやら行水セットはファイアが用意した様だ。
「こんな早くに起きちゃって、これからどうするの?」
「2度寝、夢でランチ食うよ、へっへ。昨日、言いそびれたんだけどさ~あの主任に、俺の正体見破られているね」
「それ、不味くない? ファイアさん」
「不味い。俺が悪いんだけどさ~」
扉をノックする音がして、湯桶を片付けるためにウルヴァンが入って来た。
ウルヴァンは厳しい表情で声をこらし
「ファイア、お前ギュッタに懐き過ぎだぜ! 危なっかしいよ、ギュッタが修行に出ちまった後、どうするんだ? もっと怖いのは内の常連ヨナだ、『ギュッタは豚に懐かれる体質』 て言っていたぞ!」
普段大声の男が静かに話すと余計に凄みが出る。
ヨナタンは、蜜蝋ギルドだけでなく狼亭にも出入りしていたのだ。
前日の子豚騒ぎだけでなく、桃源郷でギュッタが獣人のファイアと話しているところを見られている。
ギュッタの出勤は、寝不足と淀んだ気分を引きずっていたので、施設の前で自分の頬を自分でパンパン叩いてから入館手続きをした。
職場に着くと、今日はマギ主任が一番乗りだった。
「お早う、ギュッタ。話がある、少し控室に来たまえ」
2人は、実験室の横にある小さな部屋に入った。
「これ、子豚君に渡してくれないかな?」
マギ主任は昨日ファイアの秘密基地で見たのと同じ丸薬を、紙に包み渡そうとしたので、ギュッタは驚いた。
「ギュッタ。心配は要らんよ、私はザンジバル様の付き人を10年以上やっている。何? 私よりヨナタンが勘づいている。ふむ、それも心配は無用だ」
「何故ですか? 主任」
「あいつは、『言うな』 ということは拷問にかけても喋らぬ。ザイオン占領下の『鉄の国』 に潜入した時私を庇い、ヨナはザイオン兵に捕まったことがある。2日後に反政府ゲリラに助け出されたが、隠していたサンプル用鉄鉱石のありかを『知らぬ存ぜぬ』 で通したお陰で、拷問を受け肋を折っていた」
ギュッタはヨナタンを、ただの自信家と思っていたが、自信を裏付ける強さがあったのだ。
マギ主任
「今は軽い仕事をさせているが、怪我が治れば使える男だ。次の仕事も決まっている、君の用心棒だ」
「え!?」
マギ主任
「驚いたかね、ギルドに仕事を出していたのだよ『グルージヤ留学生の道中護衛』 とね、出した直後に応募してきたぞ」
「現在巡礼遍路はクラノス軍によって通行禁止ですよ、主任」
「依頼主は、ウルヴェン・Z だ。実験が終わり、巡礼遍路開通後だ」
「ウルヴァンさんと似たお名前で、『Z』 はザンジバルの頭文字ですよね。中将が依頼主!? 困りますよ! 私は職業軍人には絶対なりませんからね」
ギュッタはファイアのような人生は歩みたくない。
ギュッタの危惧を察したマギ主任は更に説明を続けた。
「クラノスはフロリバンダとは違う。軍上層部に王侯貴族や騎士団が占有する古臭い制度はない、『国民の意志』 に関する法律もある。子豚君にもその様に伝えてくれたまえ」
マギ主任はファイアが何者かを知っている、ザンジバル中将の側近中の側近なのだろう。
マギ主任は、次の事を説明するようギュッタに頼んだ。
「君は兄者ウルヴァン様の大切なご友人の『夢』 であり希望でもあるのだ。ウルヴェン様の付き人を10年以上やっている私が、代理人だ。あのお方は私人として依頼している、安心するよう説得してくれ」
ギュッタには、頑ななファイアが今の話を素直に聞く耳があるようには思えなかった。




