異世界
返り血を浴び、傷だらけの2人は、人通りのない暗闇の道を辿って蜜蝋パブを目指したが…
ファイア
「やばい、俺たちに気付いた奴がいるぜ〜。出て来い!!」
目の前に緑色に光る目玉が、高い位置に2つ、頭一つ以上低い位置に2つ並んでいる。
ファイアの態度が急に変わった。
「頼む! 見逃してれ~!!」
低い位置の目玉
「無理! 説明しろ、クエスト依頼主!」
ギュッタ
「ファイアさんが依頼主って? ザンジバル中将!?」
ザンジバル
「そうだ。隣は兄者だ」
「心配したぞ!!」
何と! ウルヴァンの声がする!?
ギュッタ
「え!! ウッウ…ルヴァンさんと…ザン…」
ギュッタは過労と驚きで、気絶した。
消える意識の中でファイアが自分の名前を連呼していた。
ギュッタは、見慣れない部屋で朝を迎えた。
縞模様の寝巻きを着せられ、真っ白なシーツの簡素なベッドに、寝かされている。
隣に人の姿をしたファイアが左腕や頭に包帯を巻かれ、同じ様なベッドに横たわっていた。
ブランケットは掛けられているが恐らく裸? 明るいところで見ると、抜ける様に肌が白い。
ギュッタ
「これは夢? 異世界!?」
小さな部屋は装飾はないが立派な石造りだ。
ギュッタ
「あ痛たっ! 傷は塞がっているけど、打身みたいに真っ黒だ…ここは何処?」
ファイア
「ん? 気が付いたかギュッタ。クラノス軍施設内の収監施設さ〜、外から鍵掛けられているから出られねぇぜ~」
ファイアは力なく笑った。
ギュッタ
「え! 俺たち捕まっちゃったの?」
ファイア
「うん、お節介ハナがウルヴァンにチクったらしい。 ご免な、俺の巻き添い喰わせて。身体ボコボコ、武器は無し、万事休すだぜ~」
「ならば休め。お早う諸君、昨夜は眠れたか?」
部屋の扉が空き、ザンジバルが入ってきた
ファイアは呆れ顔で
「よく言うぜ〜。俺に催眠魔導を喰らわせたのは誰だ」
ザンジバル
「宜しい。グレン・カーンは熟睡できた様だ」
ファイア
「その名前で、もう一度呼んだら殺すぞ!」
ザンジバル
「了解。魔導無力結界をした部屋でも、お前にそう言われると怖い」
満身創痍で武器も魔導も使えない状態のファイアに、これ程の大物が怖いと言ったことにギュッタは驚いた。
それに、こんな激しい態度のファイアを見たことがない。
ザンジバルは、自分で押してきたワゴンから、朝食を2人のベッドの横にある机の上に乗せた。
ザンジバル
「食べろ、話は後で聞く」
そう言い残して、ザンジバルは部屋を出た。
ギュッタ
「しっかり錠かけられちゃった…。 でも、あの人優しいね、自分で給仕してくれたよ」
ファイア
「勘違いだ、俺の素性はクラノス軍最高機密うちの一つだ。 限られた奴しか、ここに出入りできね~んだ」
ギュッタがファイアの素性を知ったということは、自分も機密の一部だ。
心の中で『夢なら醒めて!』 と叫び続けた。
朝食はスープ1杯で、木の皿とスプーンだ。
ファイア
「俺のことが、よほど怖い様だ。」
ファイアはギュッタに、何と親指と人差し指が革紐で括られた自分の手を見せた。
「脱走防止だ、これでは強くモノが握れない。食器も割れば凶器になる陶器や、金属も避けている。 更に全裸だわ…俺、露出狂らしいから平気だがよ〜」
そう言いながら、不器用そうに木のスプーンを掴んでスープを飲み始めた。
ギュッタ
「酷いな。ファイアさんは、口は悪いけどいい人なのに…。ん? 何か変なこと言わなかった?」
ファイアは返事をせずに黙々とスープを飲んでいた。
食事が済み、2人で歓談していると、
ファイア
「また、嫌な奴らが入ってくるぞ。誰って? 狼兄弟だよ」
ギュッタ
「なにも聞こえないけど。 ファイアさん、無茶苦茶耳がいいよね」
ファイア
「耳というより、気配かな」
扉がノックされ、ザンジバルとウルヴァンが入って来た。
ザンジバルは、ワゴンに2人の食器を片付けお茶を2人に振る舞った。
ウルヴァン
「ギュッタ! 元気そうじゃないか!! お前の好物の焼きリンゴ差し入れしたかったんだが、食い物はダメだって言われてね、古本持ってきたぜ!」
ギュッタ
「あ、ありがとうございます。あの、俺たちここから出られるんですか?」
ウルヴァン
「勿論だぜ!! 今あの界隈ではお前達が、悪いもの食って酷く腹を下したことになっている。その刀傷が治ればもとの生活だ!」
ザンジバル
「それは、どうかな」




