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閑話 アストリア王国

アストリア王国。

この大陸で最も力のある大国である。

アストリア王国に隣接する幾つもの小国家を属国とし、閉鎖的な世界樹の森のエルフ国やエルツェーグ山脈のドワーフの軍事国家との深い繋がりを持ち、大陸有数の迷宮(ダンジョン)も管理しており圧倒的な資金力を持っている。

また、国民で才能があれば貴族は勿論の事、庶民でも通える騎士学園と魔法学園での教育によって優れた騎士や魔導師を排出しており、卒業生は率先して国で召抱えている事で治安も軍事力も大陸随一である。


そんなアストリア王国も100年前までは小さな国であったが、一人の英雄によって大国へと成長した。


英雄の名はアーサー・ストラヴァル・アストリア。

当時アストリア王国の第三王子であった。


幼い頃から奇行が目立ったというアーサーは自ら王位継承権を放棄し冒険者となってしまった。


その頃世界は突如出現した魔王の影響で魔物が活発化し、その被害は年々深刻化していた。

大国の一つが魔王が率いる魔物の侵攻によって打ち滅ぼされた。

近隣各国が派遣した軍も尽く敗れ世界は絶望に包まれていた。


そんな最中、突如として国へ戻ったアーサーは王城の裏にある『聖なる泉』で女神から『神託』と『聖剣』を授かった。

そして、決して協力的では無かった各国と交渉し、連合国軍を編成。

旗頭となり各地で魔王軍に勝利するようになった。

そうしてアーサーは『勇者』と呼ばれ、『剣聖』『槍聖』『拳聖』『聖女』『賢者』『雷神』と呼ばれる【英雄】達と共に、少数精鋭で魔王城に乗り込み激戦の末に魔王を倒した。


その功績からアストリア王国国内外より王に望む声が上がり、一度は手放した王位継承権は戻され、王太子であった第一王子、継承権二位の第二王子は国民の声を優先し継承権を放棄、アーサーを王とし支える事を表明。

父であるラーサー王は病気を理由に退位。


こうして『英雄王アーサー』は誕生した。


英雄王は兄達と力を合わせアストリア王国を復興する。

貴族至上主義を否定し、贅を尽くすだけの無能な貴族から様々な名目で資産を巻き上げ復興支援金に宛てがい、民衆から優秀な人材を登用し、王都の上下水道の設備をはじめ、庶民も通える騎士・魔法学園の設立、王都から地方都市を結ぶ街道の整備、魔物が跋扈していた土地に自ら先頭に立ち討伐隊を向け開拓を拡げていった。


そうしてアストリア王国は100年経った今、大陸一の大国となった。






アストリア王国王都アヴァロンには二本の国宝とされる剣がある。

一本はかつてアーサーが女神から授けられた名もなき『聖剣』である。

選ばれた者以外触れる事すらも許さないその剣は抜身のまま、王城の門を抜けた広場の中央の台座に深く突き刺さっている。

『聖剣』が必要となる時、選ばれた者だけが抜けるのだという。

まるで野晒しの様になっていても『聖剣』は汚れる事も錆びることも無く美しく輝き続けている。

アーサーの遺言により『聖剣』は誰であっても抜く挑戦を許されている。

しかし、選ばれた者ではない場合には『聖剣』に弾かれ静電気の様な痛みを生じる。

アストリア王国の王都に訪れた者はこの()()を体験するのがステータスとなっていた。



そして、もう一本。

王となった時継承される短剣がある。

それは『英雄王』が持ち帰ったとされる伝説の高位種族ハイエルフより『精霊の祝福』をされた短剣である。


この短剣には三つの『加護』が付与されている。

『守護』『帰還』『精神耐性』。

通常ひとつの物には『加護』はひとつしか付与出来ないのだ。

他国では迷宮(ダンジョン)で発見された二つの『加護』が付与された片刃の剣が国宝とされているほどである。

更には見える者にしか見えないのだが、この短剣には精霊達が集まってくる性質をもっていた。


『英雄王』は死の直前まで決して手放そうとしなかった。

息子である次王へ形見として受け渡した際にこう厳命した。



いつかこの短剣を祝福した我が友であるハイエルフがやって来る。

最上級の友人として約束を果たす様に。



その後、その言葉は王家の者全員に伝承されている。

『氷王』と呼ばれる現王パーシヴァル王も幼い頃から前王である父から子守唄のように何度も聴いている。


その腰には王の証といえる『祝福の短剣』がある。

パーシヴァルは精霊を見る力は無い。

しかし6歳になる双子の第一王子トリスタンと第一王女イゾルデは精霊が見る事が出来た。


「ちちうえ!きょうはせいれいがいっぱいいますね!」

「おとうさま!きょうはせいれいたちがそわそわしています!」


パーシヴァル王そっくりな黄金色の輝く髪と、王族の証ともいえる紫の瞳と王妃と同じ緑の瞳のオッドアイをキラキラと輝かせながら双子は他の者には見えない精霊を眼で追っている。


愛らしい我が子の様子に『氷王』と呼ばれる程の鋭く凍てつく瞳から温かい眼差しが向けられる。


パーシヴァルは片膝を着いて腰から『祝福の短剣』を鞘ごと手に乗せて双子に見せた。


「そうか、精霊達はなんで騒いでいるんだい?」


双子の瞳にはパーシヴァルが見せてくれた短剣の周りに集まる精霊達が映っているのだろう。

この部屋にいる大人達には見えない精霊達を眼で追いながら「へぇー」「そーなのー?」「楽しみだねー」と相槌をうっている。


「もうすぐ来るって!」

「来るっていってます!」


双子はパーシヴァルに満面の笑顔で精霊達の言葉を伝えた。


「来る?」

「楽しみだってー」

「だってー」


パーシヴァルの瞳が真剣さを帯びる。


「トリスタン、イゾルデ。誰が来ると言っているんだい?」


双子はお互いの顔を見合わせてから父王の顔を見上げた。


「「はいえるふさん!!」」





「さっ!宰相を呼べ!!!」


パーシヴァルは間髪入れずに声を上げる。


この日、王城内はかつてない程の慌しさとなった。


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