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最後のハイエルフは甘いものがお好き  作者: ほむら


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9 冒険者ギルド

リーシャは『疾風迅雷』に目的地が王都の方向としか伝えていない。

『疾風迅雷』もリーシャが王都へ向かう理由を訊ねようとはしない。

冒険者は皆、様々な過去や理由を持つ者が多い。

中には脛に傷がある者もいる。

リーシャがそうだとは思わないが、彼女は自身をハイエルフだと名乗った。

ハイエルフというは伝説や御伽噺で語られる通りならば神性の高い存在だ。


メンバーの一人であるエルフ族のイエレナは王都の冒険者の中でも屈指の精霊魔法の使い手でメンバーの信頼は厚い。


その彼女が驚愕する程の精霊魔法を使うリーシャ。

リーシャが自らハイエルフだと名乗るとイエレナは直ぐに信用し懐いた。

エルフ族は誇り高く嘘や見栄を嫌う。

特に普段のイエレナはその気が顕著であったが、リーシャに対しては崇拝するような言動をとるその姿を見てその言葉を信じざるを得なかった。


そんな伝説上の存在の目的には非常に興味はある。

しかし人里に下りてきたハイエルフの目的なんて絶対にヤバい事に違いないと全員(単純な思考のザック以外)が感じていたので知りたくはなかったのだ。



「アストリア...王国?...アーサーと同じ名前ではないか」


リーシャの呟きを全員が聴いてしまった(居眠りをしているザック以外)。


(アーサー!?英雄王の事かっ!?)

(馬鹿!アーサーなんて王都にはありふれた名前じゃねぇか!)

(はぁぁ!?ハイエルフのリーシャ様なら英雄王くらい知り合いでも有り得るわよ!)

(そ、そうだな)

(ハイエルフだもんな)

(ねぇ)

(あ?)

(あれよ。英雄王の伝説で語られるハイエルフ)

(あー、迷いの森でハイエルフに出逢って剣を授かったとか何とか?)

(それってもしかしてリーシャ様じゃない?)


100年前、魔王討伐を果たした英雄王アーサー・ストラヴァル・アストリアの生涯はフィクション・ノンフィクション含め、様々な本や観劇になるほど人気がある。


その中の一つに英雄王となる前に王位継承権を捨て放浪していたアーサーが、魔王討伐のために王都に戻る旅の物語がある。

アーサーはその旅の途中、迷いの森で遭難しハイエルフの少女と出逢い救われ、若く美しい二人は恋に落ちる。

しかしアーサーは魔王討伐の使命のために別れるという悲恋の物語だ。

ハイエルフの少女が涙を堪えアーサーの無事を願い精霊の剣を渡し再会を誓う場面は誰しも滂沱(ぼうだ)の涙を流す名シーンである。


実際とはかなり齟齬があるのだが、『疾風迅雷』はまさかの『物語の登場人物』との出会いにテンションが上がりまくりである。


((おぉぉぉっ!!))


御者台に座るリーシャには気付かれない様に小声ではあるが、ケット・シーにはジト目で見られていた。



やがて一行は城門へと辿り着いた。

長槍を抱えた門兵達にオルソンが首に掛けた銀板を見せて話し掛ける。


「どーも、お疲れ様です」

「よう!オルソン。今回は随分と早いな」


知った顔らしくオルソンと気軽に話しながら、銀板を確認する。

続けて別の門兵が馬車の中のメンバーに声を掛けると皆同じ様に銀板を見せていた。

門兵が触れると魔力反応があるのが分かる。


リーシャは黙ってその様子を眺めていた。


「この別嬪さんは?」

オルソンと話していた門兵がリーシャを覗き見る。


「ああ、この人はリーシャさん。ウチらの恩人だ。王都は初めてなんだ。身元の保証なら俺の顔でいいだろ」


リーダーのアレンがリーシャとオルソンの間から顔を出して首から下げた板を見せた。但しこちらは金の板だった。


「Aランク様が保証してくれるなら問題ないだろう」

「だろう?」


門兵が言うとアレンはニヤリと笑みを返した。

そして門兵にリーシャの分の通行税を手渡した。

受け取った金額を数えて門兵が促すとオルソンは馬車を進めた。


「リーシャさん、先ずは冒険者ギルドに向かうけどいいかな?」

「ああ、良いぞ」


アレンの呼び掛けにもリーシャは上の空だ。

門を潜ると『精霊の祝福』の気配を色濃く感じる。


(確かに此処にあるな)


アーサーもしくは彼の子孫に逢える事にリーシャの顔は綻んだ。

慈愛の女神のようなその横顔にオルソンはまた呼吸を忘れそうになったが、いつの間にか頭に乗ったケット・シーによって一命(?)を取り留めた。


門を抜けるとそこは大通りで、溢れるほどの人並みがあった。


通りには屋台や商店、宿屋や食事処等が立ち並び、様々な人種が歩いていた。

リーシャは初めて見る街並みと人の多さに圧倒された。


偶に屋台の店員や歩いている人と眼が合うと、何故か動きが止まったり顔を真っ赤にしたりするのが面白くて笑みを浮かべてしまう。

そうすると更にそういった人が増えるのを不思議に思っていた。


街中はゆっくり進んでいたが五分程で大きな建物の前に到着する。

大きく開かれたままの扉からはアレン達のような鎧やローブを着て武器を携えた人々が出入りしていた。


「此処が王都の冒険者ギルドですよ」

「ほほう。随分と大きな家だな。何人住めるのだろう」


建物=住家という常識しか持たないリーシャの感想にオルソンは苦笑いしか出来なかった。


リーシャが御者台から降りると、荷台にいたアレン達も既に馬車から降りていた。

オルソンは馬車を停めてから合流するとの事で、五人と一匹で冒険者ギルドの中へと入っていった。


ケット・シーを肩に乗せたリーシャは何故か先頭をきって進む。


「あっ」

「ちょっ...」

『疾風迅雷』のメンバーもリーシャの行動が読めず慌てて追いかける。


ギルドに入ると大勢の冒険者がいた。

正面奥に受付カウンターがあり、五人の受付に対し一列ずつ冒険者達が並んでいる。

左側にはテーブルと椅子が幾つか並べられ、酒や食事をしている冒険者で埋まっている。

右側の壁には依頼書が沢山貼られたボードがあり、こちらも複数の冒険者が様々な依頼を吟味していた。

ボードの横には二階と地下に伸びる階段も見える。


ギルド内を観察しながらも一切の迷いもなく、リーシャは受付の列に並んでいる冒険者達をガン無視して受付カウンターにスタスタと歩みを進めた。









冒険者達は気配に敏感だ。

危険と隣り合わせで生きているからだ。

強者の気配、高貴な気配、金の気配、危険な気配。

敏感であればある程生き延びる事が出来る必須のスキルでもある。

一人の少女がギルドに入って来た時、何かしらを感じた敏感な者はその気配の主を見る。

そしてその姿を見て息を飲んだ。

背は少し低めだが、スラリと美しく伸びた手足、ゆったりとした服の上からでも分かる豊かな胸と、ベルトで結ばれたその腰は貴族の令嬢がコルセットによって締め上げたそれよりも自然で細く、露出は少なめな服装だが凛とした姿勢の良さで歩きながらも女性らしい柔らかなラインである事が想像出来てしまう。

肩には何故か機嫌の悪そうな黒猫を乗せているが、そんな事も気にならない程の美しい顔の造形に注目してしまう。

少し尖った耳からエルフ族であろう。

輝く程美しく滑らかな金色の長い髪と白磁の如く白いのに柔らかで滑らかであろう白肌、小さめの顔に長い睫毛、夏の澄み切った突き抜けるような紺碧の大きな瞳。

小さめで形の良い鼻、少しぷっくりとした桜色の唇。

絶世の美女、いや少女から大人の女性へと成長する絶妙な年頃の絶世の美少女がいた。


彼女は目が合うとほんの少し微笑みを見せてくれる。


その瞬間心臓を撃ち抜かれ立ち尽くす冒険者が続出する。

列に並ぶ冒険者もルールを守らない輩として注意しようとするが、エルフの美少女の顔や雰囲気に飲まれてしまった。

美少女はそれが面白くて微笑む(本人的にはニヤリと笑っている)。

そしてまた撃ち抜かれる。


こうして美少女(リーシャ)は誰にも止められることも無くぽかんと口を開ける受付嬢の目の前までやって来た。


「あ、あの...」


恐る恐る受付嬢が口を開く。


「此処は冒険者ギルドだな?」

言葉遣いはともかくその声は透き通るような可愛らしい柔らかなものだった。


「ええ、はぁ」

「お主は何をしているのだ?」

「え?受付ですけど...」

「うけつけ...」


右手の指先を顎に当てがいながらふむふむと一人で何かに納得しているリーシャ。

その時もう片方の手で肘を支えるようなポージングであったために、無意識に胸を押し上げる形となり、それを見た鼻の下を伸ばす男性冒険者が数人と、圧倒的胸のボリュームと自身の慎ましやかな胸をつい比べてしまい心を折られ胸を抑えながら涙を飲んだ女性冒険者と受付嬢が数人いた事をリーシャは知らない。


知らない事は罪なのかもしれないとケット・シーは思った。


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