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後書き

 物語は、作るというより削っていくもののように思います。いくつもの可能性を一つ一つ吟味して、一つ一つ消していく。その過程を経て、最後に残った一本の線が世に出て様々な人の目に触れる。その結果、その物語の中の登場人物たちは人々の意識を媒介にして生きることができるのです。

 そうした時当然のように出てくるのは、『選ばれなかったキャラクター達』です。だれの目に触れることもなく、ただ打ち捨てられる――それがどんなに最悪な気分かあなたに想像できますか? ――私のこの気持ちを、誰がくみ取ってくれることでしょう。

 初めに生まれた世界において、私と彼は幼馴染でした。幼いころから長い時間を共に過ごした私たちが互いのことを好きになるのは時間の問題で、高校に入ってすぐ私は彼から告白され、また私はそれに頷きます。結果二人は恋人となり、幸せな時間をいつまでも過ごしました――。

 どうでしょうか? 聡明なあなたはお分かりと思いますが、この物語は平坦で、面白みに欠けています。当然、この世界が『選ばれる』はずもありません。この時私は、初めて世界の終わりというものに立ち会いました。

 しかし、幸か不幸か私は死ぬことを許されません。次に目が覚めたとき、私はまだ圭人様が生きている、別の世界軸に立っていたのです。

「この世界で、彼とまた幸せな時間を」

 私がこう願ったのは当然でしょう。ですが、それは叶いません。私がいるはずだったその場所には、夜神綾乃という少女がすでに立っていたのです。圭人様の隣は、既に埋まっていました。

 それから、幾度同じような世界を見てきたことでしょう。目の前で圭人様と夜神綾乃が恋に落ち、何らかの障害を乗り越えながら共に生きていく――そんな世界が、気が狂うほど繰り返されました。

 もちろん、私も指をくわえて見ていたわけではありません。やがて私は、初めて浅田圭人と会った少女として、彼に近づきました。そしてあわよくば、夜神綾乃から彼を奪い取ってやろうとしたのです。

 しかし、それらの世界において私の立場は『サブヒロイン』でした。あくまで私は、夜神綾乃と浅田圭人の恋愛を彩る、脇役でしかなかったのです。そんな存在に、主人公が振り向くはずもないでしょう? ことあるごとに、世界は夜神綾乃と圭人様を近づけました。そして、私を二人から引き離そうとしたのです。それは世界の意志。逆らう術もありません。

 自分と共に一生を過ごした相手が、別の誰かと愛を囁き、死ぬまで添い遂げる。その様子を目の前で見せられ続けた私の気持ちがわかりますか? きっとわかりませんよね。でも、少しでも想像して同情していただけると、とてもうれしいです。

 そうして次第に、私の心は壊れていったようです。すべてが終わった今はこうして冷静に振り返れていますが、あの世界で圭人様に指摘されたように私の心は『殺意』であふれていたようなのです。

 本当に、頑張りましたよ。自分を段ボールに詰め込んで、圭人様のもとへ送り付ける、なんてアイデアが出るほど、必死だったんです。圭人様に振り向いてほしくて、またかつての世界のように二人だけで笑いあいたくて。私が圭人様に、自分が『アヤノ』という名前だと偽ったのも、そのためです。この世界軸のメインヒロインである綾乃という名を借りれば、自分がそのポジションを得ることができるに違いないと思ったのです。つまり、圭人様をだまそうとしたわけですね。

 ――ですが、私は自分の本当の目的を勘違いしていました。私は、『圭人様から好かれたかったわけじゃない』。この愚かなキャラクターはどうやら、『死にたくなかっただけ』のようなのです。

 つまり、私はあなたに自分のことを知ってほしかった。記憶に残してほしかった。好きになってほしかった。いずれ『選ばれる』一つの世界で自分が少しでも存在感を残し、あなたに見てもらえることを望んでいたのです。

 最初に述べた通り、私たちはあなたの意識上でしか生きることはできません。たとえ紙面上に存在していたとしても、そこでの私たちはただのインク、あるいは0と1の集合です。あなたがどのような媒体を通して私を見てくださっているのかわかりませんが、今こうして、あなたが私を知っていてくれているということが重要なのです。

 だから、ありがとうございます。まさかあの世界軸が選ばれるとは思いませんでしたが、それでも、あなたに知ってもらえたことが私はうれしい。あなたの記憶の中で、私は悪役かもしれない。あるいは、後味の悪い結末を作り出した邪魔者かもしれない。ですが、こうしてあなたへ語り掛けることができて、私は心の底からうれしいのです。

 命を消費しながらもこの物語を読んでくれて。私たちを知ってくれて。こんな私のたわ言に付き合ってくれて、本当にありがとうございます。そして願わくば、私のことをたまに思い出してくれたならば。私にとって、それ以上の幸福はありません。

 では、また。段ボールの中で、あなたの帰りを待っています。

 










 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 新人賞に応募してかなりの酷評を受けた作品だったので投稿するかどうかは迷っていたのですが、最後まで掲載した今、やっぱり上げてよかったなと感じています。

 上でメイドが語っていた内容は、僕が前々から感じていたことで、自分の作る物語はもちろん、世に出ている様々な作品には『棄てられたキャラクターたち』というものが、存在します。そんなほとんど情報の無い彼らの残滓からもともとあった彼らの世界を想像する、というのが読書時の僕のひそかな楽しみでした。彼らの持つ哀愁の様な何かにひどく胸が締め付けられる感覚がどことなく心地よかったのは、僕も世界から棄てられた存在だ、なんて心の端っこで悲劇の主人公じみたことを思い共感していたからかもしれません。

 改めて、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 よろしければ「よかった」の一言だけでも残してくださるととても嬉しいです。

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