31.魔力だー!転進待ったなしだー!
私は頑張りました。たぶんものすごーく頑張ったはずです。モンスターハウスの魔物は、その半数を私が退治したはずです。功労者と言っても良いくらい頑張ったはずなのです。
「ぶえええええ! みっともないですーっっっ!!!」
私はダンジョンの片隅で人目を避けながら、すっぽんぽんで体を洗っていました。いくらお子様とはいえ、他人が自由に行き来できる空間で全裸は無いです。みじめです。
しかしながら、「せっかくルイスさんがお着替えを持って来てくれたんだし」とスレイア様に言われては、無下にすることができません。
私は水魔法でシャワー全開にして涙ごと丸洗い状態です。ダンジョン内は魔力いっぱいで魔法が使い放題とはいえ、蜘蛛の糸のべとべとはなかなか取れるもんじゃないです。いっそのこと酸とかアルカリとかを召喚して、糸のタンパク質を加水分解しちゃろかとも思いましたが、自分が先に溶けそうだったので止めました。ごしごしこすってヒリヒリします。みじめです。
「うんうん。きれいになりましたね」
「うお……」
「最上級のお召し物をご用意させていただきました。お姫様」
お着替えを済ませて岩陰から出てくると、珍獣を見るような視線によるさらなる羞恥プレイです。
めっちゃフリフリが付いたお姫様ドレスを着てダンジョンに入り込んでるとか、場違いにもほどがあるでしょ。クリスさんなんか変な笑いを浮かべながら、「お昼に行かないか」とか話題逸らそうとしているくらい、めっちゃ引いてるじゃないですかー!
そりゃー、スレイア様というきれいな女の子の気を引くために、ちんちくりんな私を生贄のボロクソにしてやろうというのはよくあることだから諦めますけどね。蜘蛛液べとべと羞恥地獄や全裸羞恥地獄や豚に真珠羞恥地獄と、3連続で来られたら流石に心が折れますよね。
特にあの蜘蛛の中身ぶちまけのロケットパンチは結果的に蜘蛛に当たったってだけで、実際は私の顔面にぶち当たってたのかもしれないのです。
もう嫌だ。
「……おうち帰る……」
いくら頑張ろうと、生活圏に他人がいる限りはやっぱり悲しい結果にしかならないのです。私はぶえぶえ泣きながら、ダンジョンを飛び出して王都別荘に駆け戻りました。
服が変わってることから、私がドレスを盗んできたとメイドさん達は思ってるかもしれませんが、もうどうでもいいです。私は全てを忘れるため、まだお昼を過ぎたくらいの時間ですが、ベッドに潜り込みました。
全部夢だったことにさせてください。
◇
「ほら、ルイスが着替えを持って来てくれたから、もう泣くな。気持ち悪いの着替えよう、な?」
僕は妹がぐずった時のように、全力でエリーちゃんをあやしていた。しかし、彼女は壁に向かって蹲ったまま、ぶえぶえ泣いて話にならない。
「エリー様、あちらで体を洗いましょう? 私も最近魔法で温水シャワーを出せるようになったんですよ」
おお、流石はスレイアちゃん。石像のように壁にくっ付いていたあのエリーちゃんを見事に引き離したぞ。
「では、私はエリー様を湯浴みの見張りに参りますので、後片付けはお願いいたしますね」
「ああ、任せてくれ」
僕はルイス達と合流して、部屋中に散らばった恐ろしい量の魔石を袋に詰め込み始めた。ルイスも新顔の使用人も、黙々と魔石を両手で掬ってはズダ袋に流し込んでいる。
僕は沈黙に耐え切れず、ルイスに話しかけた。
「なあルイス。あの手甲弾、撃たなくても良かったんじゃないか?」
「何を言ってるんだ。あの蜘蛛、エリーちゃんの顔にかじり付く寸前だったじゃないか。傷を付けた責任とかなんとかになったら、そっちこそ大変だよ?」
うーむ、この場合、僕が責任を取ってエリーちゃんと結婚する話になるのか。スレイアちゃんという真の嫁がいる以上、それは全力回避しなきゃいけない。
「そんなに危なかったのか……助かったよ、ルイス」
「あれは不可避の事故だよ。そんなわけで、事後対策としてクラリスちゃんの服を借りて来たんだ。気が利くだろ?」
「ちょっ?! あれ、ウチの妹のかよ!」
「仕方ないよ。僕は1人っ子だし」
まあ仕方ないか。お姫様をいつまでも泣かせておくわけにはいかないからな。しかし、帰ったら使用人には厳重注意だ。妹の服を歳が近い男にそのまま預けるとか無いわ。管理に1人くらいついて来いや。
「それにしても、随分な数だな。箒と塵取りが欲しいくらいだ」
「ああ。こんだけあれば、結構な換金額になるな。エリーちゃんを泣かせたお詫びの品でも買って贈らないか?」
「よし、それ決定」
流石は親友。
エリーちゃんはかなりの使い手だが、まだ5歳だ。蜘蛛に捕まってさぞ恐かったろうし、ここは年長者としてどーんと功労賞的な何かを贈って喜んでもらおうか。
大量虐殺したエリーちゃんの取り分が半分くらいあるけど、僕達の分だけでもかなりな金額になるのは間違い無い。おやつのクレープ代くらい取れればいいかなと思っていたが、かなりの大収穫だ。予算は潤沢にある。
「じゃ、帰りに中央通のアクセサリーショップに寄ろうぜ。目星は付けておいたからさ。服もお姫様っぽいフリフリなやつ選んできたし」
「ほんとお前ってそういう情報早いよな……って、なんで他人の妹の服を漁ってんのお前!?」
妹の担当使用人は減給決定。ただ渡しただけではなく、自由に選ばせてるとかなんなの? 妹がストーカーとかに狙われたりしたらえらいことになるよね?
「うんうん。きれいになりましたね」
おっと、湯浴みが終わったらしいな。スレイアちゃんがエリーちゃんの服装チェックをしている声が聞こえた。
「うお……」
時間が凍りついた。
きれいに洗い上げてつやつやの髪、湯で温まってほんのりピンクの肌……なにあれかわいい。僕は岩かげからおどおどと出てきたドレス姿の少女に、完全にやられてしまった。
「最上級のお召し物をご用意させていただきました。お姫様」
ルイス、お前の見立ては最高だ。いやはやエリーちゃんまじお姫様。ルイスに衣装を提供した妹付きの使用人には特別賞与を用意しよう。うん、そうしよう。
「エリーちゃん、今日は頑張ったね。予定より早いけど、魔石がいっぱい集まったから街でお昼食べようか?」
僕はできる限りの最高の笑顔でランチに誘った。
エリーちゃんと僕の初共同冒険を、不快な思い出にさせてはいけない。最高の思い出にしてもらうために、デート後半戦は彼女のナイトとして精一杯おもてなしをしようと思う。
「……おうち帰る……」
……へ? ちょっと? 待って?
愛しのエリーちゃんは涙目で猛ダッシュして、ダンジョンを駆け上がって行きます。
「お、おい! 僕は追いかけるから、片付けは頼む!!!」
「ああ行って来な」
「私もエリー様を追いますわ」
僕はスレイアちゃんと一緒に、エリーちゃんを追いかけた。
今日の一件が嫌な想い出にならないように守るのが、君のナイトである僕の役目だ!
◇
「うわぁ、えらいことになってやがる……」
俺は地面に散らばる大量の魔石をズダ袋に掬い入れながら、面倒さ半分申し訳なさ半分といったセリフを吐いた。たぶんどころか確実に、これの原因はウチのグゥだわ、うん。
俺が相棒のグゥと共にこの世界の王都に来たのは数ヶ月前。
グゥの体質というかなんというか……彼女は気の源泉ともいうべき存在であるため、時々暴走しては異世界転移をするのである。そんなわけで、グゥの体からは結構な気が常に流れ出しているため、上手いこと人ごみに紛れて散らさないと、魔物化したり変な超常現象が起きたりして、冒険には全く困らない生活ができるわけだ。迷惑極まりない。
今回のこれは、まずそれの仕業。洞窟とか気の流れが滞る場所には、多かれ少なかれ溜まっていくからね。以前に居た世界では、山籠もりしてたら普通の洞窟が物凄いダンジョン化して、魔物が溢れてきたからね。まだ軽い方。
「みんな行ってしまいましたね。……クックさん、2人で頑張りましょうか……」
「……はい……」
俺は身内の起こした惨状にぐったりしながら、雇い主のルイス坊ちゃんと2人だけで、部屋中に散らばる魔石をすべて回収した。気が滅入るが、雑用係としてちゃんと仕事をしてますアピールはしないとな。
どの世界に行っても結構な確率で冒険者ギルドってのはあるもんで、俺とグゥはそれぞれギルドを通したお仕事を請け負っては、引き篭もり用の備蓄をしていた。今回はこの貴族様の用務員が俺の仕事だ。
しかし、折角得た割のいい仕事だったが、そろそろ転職の時期らしい。魔物狩りの時間だ。身内の始末は俺がつけなくてはいけないからな。
「それじゃ坊ちゃん、ギルドの魔石売却窓口まで持ってけば良いですかね?」
「うん、お願いします」
俺は大量の魔石が詰まったズダ袋を担ぐと、いろいろと覚悟を決めて重い足取りで歩き始めた。




