22.お友達がいっぱいできたよー
4歳の春を迎えました。草木と共に、私の才能も開花してくれたようです。
「うわぁい! 身体基礎スキルを全部取得したよー!!」
「おめでとうございます、エリー様」
スレイア様からお祝いの言葉をいただきましたー!
身体基礎スキルとは、【筋力】【持久力】【瞬発力】【技巧】【バランス】の5つのスキルの総称で、この世界の人間であれば大体の人が持っている身体能力のバロメーターになっています。レベル1は5歳児相当と言われていますので、私はちみっと成長が早いみたいですね。
「毎日の訓練の賜物ですね。私より1年は早いですよ」
「ありがとうございます。早くレベル2にして、畑を耕したりしたいねー」
「あら、エリー様は10歳からすぐ農業をなさるんですの? 王都の学院に入られるのではないのですか?」
「えー、学院って、えらいご令息やご令嬢様達がいっぱいいるんでしょ? ちびっこの私なんか、いじめられてぽいぽいされちゃいますよー?」
「すぐに大きくなりますし、いじめなんて無いですよ。……そうだ、では小学校の私のお友達をご紹介いたしましょうか?」
私は町までドナドナされました。あれー、派閥のお誘いってやつですかね、これ。スレイア様は去年から小学校に通い始めていますので、そういったお友達もたくさんいらっしゃるのでしょう。
「あ、カンナさん、こんにちは」
「おっと、スレイアちん、こんにちー。なに? 今日は妹のお守り?」
とっても快活そうな女の子が、遊びを中断してやって来ました。興味深そうにこちらを見ているので、スレイア様の後ろに隠れます。
「こちらは私のご主人様のエリー様ですわ。今日はみなさんとお友達になっていただこうと、お連れしましたの」
「ああ! ご領主様んとこの! いいけど、今サッカーやってるんだ。できるかい?」
「基礎スキルはついさっき取得したばかりだから、大丈夫だと思いますわ」
うわあ、いきなりサッカーの洗礼からですか。前世でも小学校時代に体育でやらされましたが、延々とボールを追っかけて、息切れして呼吸を整えてるとやれ走れだと怒鳴られて、最後にはキーパーの練習とかで延々とボールを蹴りつけられるという拷問です。
この拷問を乗り越えなければ、やれ弱虫だ毛虫だといじめられてしまいます。あきらめました。
「ルールは知ってるかい?」
「教えてください」
基本のルールは前世と同じだとしても、ローカルルールが違っていることもあります。しっかり聞いておきましょう。
「ボールを蹴って、相手のゴールに入れたら勝ちってゲームだよ。手と魔法は使っちゃだめ。枠線の外にボールが出たときは、相手チームが手でパスしていいんだ。あとゴールキーパーもゴールの近くでだけ手を使っていいんだよ。解った?」
「はい、やってみます」
ふむ、やっぱり魔法は禁止ですね。それ以外は同じようなので、まあ大丈夫でしょう。
◇
「おいおい、スレイアちん、どうしよう……。」
貴族のお嬢様が、まさか顔面でパスカットをするなんて思ってもみなかったよ。男子どもは「ナイスガッツ!」とか賞賛しきりだけど、手当くらい手伝えよおめーら!
「あらあら、見事に白目をむいてますわねー。回復魔法を使いますわ」
私が膝枕しているエリー様の顔に、スレイアちんが手を当てること数分、額の傷も鼻血も、元から無かったかのように消えてしまっていた。エリー様は回復魔法が気持ちよかったのか、穏やかな顔でゆっくり起き上がる。いつもながら、スレイアちんの回復魔術はすごいねえ。
怪我人が出たということで、サッカーを続ける雰囲気じゃなくなったのか、クラスのみんなが集まってきた。
「すまねえ。今日のおやつ全部エリー様にあげるから、許してもらえたりしないかな……?」
「気にしないでください。サッカーってそういう遊びだもの、仕方ないですよ」
「あら、キース君のボールが当たったのね。おやつよりエリー様が喜びそうなものがありますわよ」
「おう、何をどうすりゃいいんだ?」
エリー様からはお許しが出ているようだけど、スレイアちんがみんなを引き連れて、キースの家に向かうことになった。貴族様にどんな決まり事があるのかは分からないけど、是非とも寛大な措置をお願いしたいんですが……。
◇
エリー様が怪我をなさったみたいですが、いつものように回復魔法で治しておきました。体を動かすのは得意でない方ですので、いきなりサッカーは無謀でしたかねー?
ですがまあ、みなさんから心配されてると知れば、いじめに怯える心配も無くなったことでしょう。特にカンナさんには心を許していただいたようで、先ほどから手をつないで歩いてらっしゃいます。
「ごめんください。私、キース君のお友達で、スレイアと申します」
「あらあら、こんなに大勢でどうしたんだい?」
「ごめんよかあちゃん、俺、領主様のお嬢さんに怪我させちゃって……」
おお、痛そう。キース君はお母様から脳天に雷を落とされてしまったようです。
「あの、その件でお願いがあるんですが、畑の畝からはみ出した苺を、1株いただけませんか? エリー様をお慰めしたいのです」
「ああ、ウチのが仕出かしたんだ。どうぞお持ち下さいな。……しかし、そんなもんでいいのかい?」
「ええ、実が生るものは頂く訳には参りません。端っこのはぐれ株で十分なんです」
「まあ、そんじゃ、取ってあげるから待ってなさい」
「ありがとうございます。いただきます」
キース君のお家は農家をやっていまして、特にこの時期は苺を栽培しているのです。
苺はとても繁殖力が強く、畝からはみ出してツルを伸ばすものがありまして、今回はそれを1株いただきました。
「なあ、スレイアちん。それをどうしようってんだい?」
「苺でしょ? 育ててみんなで食べるに決まってますわ」
みなさんぽかーんとしてらっしゃいます。まあ小さい株ですからね、育つか心配なのでしょう。
「いや、たぶん育っても来年の収穫になるんじゃねえか……?」
「農業魔法で一瞬ですわよ?」
みなさんの開いた口がさらにぽかーんと開放されました。貴族が農業って、珍しいですかね?
「エリー様、植えるのはここらへんでいいですか?」
「おっけー! じゃ、私は農業魔法かけるよー」
私は畑から少し離れた雑草地帯に土魔法をかけ、地面を掘り返して苺の苗を植えました。その上にエリー様が農業魔法をかけてくださいます。
農業魔法とは、回復魔法を応用した植物の成長を促す魔法です。成長ための養分を別途補充が必要ですが、一気に成長させることができて大変便利です。
エリー様が魔法を使うと、苺が一気に伸び始め、赤い実を付け始めました。とても美味しそうです。
私はまだ、複数の成長ポイントを同時にはコントロールしきれないので、エリー様にお任せしました。今回も見事な魔術ですね。
「ありゃ、全員分にはちょっと足りなかったかな? スレイア様、光魔法をお願いします」
植物が成長するには、土の栄養の他にお日様の光が必要です。ぽかぽか温かいと、元気になるんでしょうか? 周りの光を苺に集めると、実がどんどん大きく赤くなっていきます。
「ようし、光合成もいい感じー。みなさま苺ができましたよー! いただきまーす!」
エリー様の声で、クラスのお友達がみんな苺を摘み始めます。うん、甘くてとても美味しいです。
予想通り、エリー様はすっかりご機嫌になりました。いじめなんて無いって、解ってもらえましたでしょうか?
そうだ、みなさまのご兄弟もエリー様にご紹介いただけたら、もっとお友達が増えますわ。同じ歳の弟や妹がいらっしゃる方に、訊いてみようかしら?




