21.超意地汚い情熱が復活したようです
「どうしてこうなった」
俺はノコギリをギコギコいわせながら、考えていた。
「まあまあ。美味しい物が食べられるならいいじゃないですか、師匠?」
剣仙とも呼ばれた俺が?
世界の滅亡を防ぐため?
『道』が女性化した『谷神』を追って?
見失ったので【知識】のスキル持ちに相談したら?
「なんでニワカ大工することになるんだよ!」
「師匠が魔道具を流通させよう、って言い出したんじゃないですか。責任は取りましょうよ」
そうだった。
谷神は今この世界には居ないからってんで、魔力の後始末として魔石をがんがん消費するような、魔道具を開発するんだったな。
「それにしても疲れるんだが、こんちくしょい!」
「『谷神は死せず、之を玄牝と謂う』でしたっけ? 『之を用いれば勤せず』、つまり疲れないらしいんですけどねー」
「どこ行っちまってんだよ、あの腹黒女ーっっっ!!!」
玄は「くろ」と読み、『玄妙』の意味で使われるわけだが、俺にとっては腹黒の『黒』意味にしか取れないわ。冒険者として組んでた時には、何考えてんだか解らんところが『玄妙』かなあという時もあったが、今となってはどうでもいい。俺は疲れた。
「おーい、どんだけできましたー?」
なんだ、イノシシ娘じゃねえか。進捗確認か? ご苦労さんなこって。
「こいつでラストだ。せいぜい気張って美味いもん食わせてくれよ」
「えーっと、その件なんですがねー……ごにょごにょ」
ほー、へー、ふーん? 料理対決、ねえ……。
で、この前俺の家で食わせてやったチャーハンの作り方を教えて欲しいってか。
「ありゃあ、鉄鍋でガンガン炒めるもんであって、レンジで作るもんじゃねーぞ? あんときはただ温め直しただけだからな? 魔法の箱と勘違いしてんじゃねーか? いや、魔法使ってるけどよ」
おお、なんか膝から崩れ落ちやがったぞ。なに、チャーハン作りを「できらぁ!」って言っちゃったって? 米も調達できないのに?
……ああ、わかったわかった。米は分けてやるから鼻水こすりつけんな。はぁ? チャーハンの作り方を実践指導しろだあ? おわぁ! わかった、わかったから引っ付くな。
「師匠がミリアムさん陣営のようなので、私はエリー様陣営に付きますね。こっちのレンジは私が厨房に運びますんで、残りの搬入をお願いしますねー」
「おい、カケイ、おい……」
弟子に見放された俺は、涙と鼻水にまみれたポンコツメイドを助手に、さらに疲れる戦いに身を投じることになるのであった。
◇
やほーい! 久々にお料理魂に火が点いてきましたよー!
レンジ料理について、使用人のコックさんたちに指示を出していたんですよ。いろいろな物が創意工夫で作れる、文字通り魔法の箱なんで、お料理コンテストをしてみようかって話になったんですよ。
そしたらミリアムさんが、「先日リョガンさんにご馳走になったチャーハンも美味しかったーっ」て始まっちゃいまして、お米が無いからってなだめてみたんですが、結局「できらぁ!」って言って出て行っちゃいまして……そもそもレンジで作れるもんじゃないし。
10分後くらいに現れたカケイさんの話によると、なんでもリョガンさんがお米を分けてくれるそうなので、とりあえずチャーハン作ってレンジ料理も対決する流れになっちゃったみたいです。
「え、私たちも、チャーハン作るんですか?」
「ええ、料理対決ですもの。エリー様には私が助手に付きますわ」
レンジ料理対決といっても、お客さんもお招きするちょっとしたパーティーですので、ある程度の量と品数は確保しなければいけません。5つあるレンジのうち、3つをコックさん達にまかせて、いろいろと量産してもらうことにしました。
で、私とミリアムさんには1つずつ、専用レンジを使って対決する感じですね。
「それじゃ、ルールはチャーハンを1品、他にレンジ料理を3品目以上、20人分ずつ作ること。審査はお母さんとお客さん、それから使用人さん達にもやってもらいましょう。制限時間はパーティー開始までの6時間です」
「12時から18時までの6時間、精一杯戦わせていただきますお嬢様!」
なんかやけに張り切ってるミリアムさんの隣には、なんかやけに疲れ切ってるリョガンさんがいました。後ほど気力体力の回復によく効く補中益気湯でも煎れますね……。
ミリアムさん組が勢いよく町に買い物に出たのを見送り、私はカケイさんと戦略を練ることにしました。
「では、料理対決の戦略会議を始めまーす!」
ぱちぱちとコックさん達から拍手が起こる。私たちが採用しなかったアイディアから何かヒントが出るかもしれないですから、立会いを認めています。結構な種類の料理を考えないといけないわけなので、コックさん達も真剣です。
「それでですね、今日の私達のメニューは、中華尽くしで行こうと思うんですよー!」
「おお、チャーハン必須ですからね。テーマは統一しておくとポイント高そうです」
「まずは冷菜から。レンジで作る中華冷菜と言ったら、蒸し鶏ですよねー」
「え、バンバンジーの方が美味しくないですか?」
「いやいや、トウバンジャンもテンメンジャンも無いから、ごま油ドレッシングの蒸し鶏サラダでも」
「ありますから作りましょう! 異世界から取り寄せてますので!!!」
なんだ、調味料が手に入るなら、我が軍は無敵ではないか! がーんがん作っちゃうよー! カケイさんってば、意外とこだわるのねえ。
◇
気力充実! ミリアムふっかぁーつっ!!!
ふっふっふ、エリー様組に先駆けて、ご町内のお店から、鮮度の良い野菜やお肉を仕入れてきましたよー! これで料理対決は1歩リードしたはずです。
「なあ、これで何を作るんだ?」
材料に囲まれたリョガンさんが、覇気の無い顔で訊いてきます。
「レンジは、蒸し物と煮物が得意な調理器具です。ですので、さっぱり系の蒸し物料理や旨味を閉じ込めた煮物料理を出して行こうと思います。最後にあのふわっと香ばしいチャーハンが引き立つような、そんな組み合わせです!」
「あー、チャーハンもだったな。じゃ米は4合くらい炊いておくわ」
リョガンさんは空間魔法を使って、ご自宅の魔道具で下ごしらえをしているようです。私の方も準備を進めなければいけません。
ここで用意しましたのが、ハロルドさんからいただいた味噌と醤油です。煮物料理に抜群の効果を発揮するこの調味料を存分に使って、勝利はいただきますよー!!!
◇
「で、ミリアムの料理はこれですの?」
奥様があきれた目でじっと見ています。確かに私の料理は素材がごろっとしてたり、色が茶色で、地味かもしれませんが、食べたら美味しいんですよぅ! あ、スレイア様を始めとするご来賓の方々が、エリー様のお料理テーブルに行ってしまいます! 一口食べていってくださーい!!!
「なあ、俺もあっちのテーブルに行ってきていいか?」
「リョガンさんまで!?」
……レンジ料理対決は、圧倒的大差で負けました。
なんなんですか、あの色彩豊なお料理は!!!
「冷菜のバンバンジーと、エビチリに肉団子、それから餡かけチャーハンを作りましたー! カケイさんの出身地のお料理なんですよー?」
「ちょ、異世界料理なんてずるいですよ!」
「レンジ使った料理なんて、そもそもあっちで研究され尽くしてるんだ。お前さんが作ったのも、異世界にある日本って国の料理だよ」
とほほ、なんかチャーハンでも負けてる感じだし、完敗です。もっとも、チャーハン作ったのはリョガンさんであって私じゃないですけど!
「うわー、ミリアムさん! 肉じゃがなんて開発しちゃったんですか!? 私、煮崩れないようにレンジを使った肉じゃがが好きなんですよー。牛じゃなくて豚肉を使ってるのもポイント高いですねー!」
エリー様、そんなもったいないお言葉を……。
「勝負なんてもういいから、ミリアムさんも食べようよ。カニとホタテたっぷりの海鮮餡かけチャーハンだけじゃなく、コック班の知恵と技術の結晶とも言うべき蒸しケーキとかもあるよ!」
なんですって? これはいけません。私の甘味がそこなスレイア様やハロルド様に食べ尽くされそうではありませんか!
「私の蒸しケーキはどこですかー!!!」
今日の電子レンジパーティーは、冷めた料理も温かく食べられる、画期的な記念パーティーでもあります。ですが、参加者のみなさんは非常に冷たいんじゃないですかね?
空っぽになった蒸しケーキのお皿を前に、全身の力が抜けました。
「馬拉糕で良ければ作って来たんだが、食うか?」
救世主だ! 救世主がいましたよ!
私はぶんぶんと首を縦に振り、リョガンさんにしがみつきました。
あー、しあわせー。




