【最終回】彼と彼女のこれから
このエピソードで最終回です。第三王子視点です。
グウィネス嬢を無事保護したぼくは、両親に面会を申し込んで事情を説明した。
「父上、母上、報告と相談があります」
「珍しいな、ナイルからそんなことを言われるとは。とうとう第一騎兵師団に入りたくなったのか? いずれは兄たちのように軍隊経験を積まなければならないぞ」
「そのことではありません。実は、ぼくには妻にしたい女性ができました」
二人とも両目を剥いて驚いた。
「まあっ、とうとう決めたのですか? ずいぶん待たされましたよ。もちろん妃候補者からですよね?」
「はい。グウィネス・キリアン嬢です」
「えっ、キリアン子爵家の? 儀礼魔術師の? でも、あの家は火事で夫妻とご長男が亡くなったし……確かグウィネス嬢は記憶を失って候補者からは……」
「そのことなのですが……これからぼくの側近と鑑定士とでいきさつを説明します。これは貴族令嬢に対する犯罪も含まれます。今はぼくの宮で彼女を保護していますが、今後のことについては父上と母上の判断に委ねたいと思います」
「……どういうことなのか詳細を説明しなさい」
早速ぼくはエレナ嬢から渡された二枚のハンカチをテーブルに並べ、側近と鑑定士に説明してもらった。記憶を失ったグウィネス嬢に関しては、父も母も忘れていたようだ。
どうやら、何度も同じことを繰り返していることに二人とも気付いていない。
「まあぁっ、そんなことが……」
「う、うむ……キリアン家のご令嬢がそのように悲惨なことになっていたとは……裁判の準備をしなければならないな。よくやった、ナイル。お前の調査がなければグウィネス嬢を死なせるところだった」
ぼくの婚約者については納得してもらえたようだ――ほっとひと安心。
ボウエン家が引き起こしたこの事件は、キリアン家や彼女をフォローしなかった王宮にも責任がある。ぼくは彼女に対してできるだけのことをするつもりだ。
※
その後ボウエン家がグウィネス嬢を不当に扱ったことが裁判沙汰になり、夫妻は罪に問われた。グウィネス嬢への損害賠償、宮廷への出入り禁止、僻地への追放だ。
ぼくの妃候補だった人を虐げたのだ、罪は重い。
当然エレナ嬢は妃候補から除名、それからどうなったかについては興味もない。
儀礼魔術師を輩出していたキリアン家は、現在はグウィネス嬢の叔父が継いでいる。亡くなった子爵の弟だから、それなりに儀礼魔術の儀式を執り行う事ができるようだ。
叔父はグウィネス嬢を引き取ろうとしてはいたが、ボウエン伯爵家からの圧力に屈したらしい。あの時王家からグウィネス嬢へ相当な見舞金が支払われたから、伯爵家はそれを着服したのだろう。
まだまだ許せないことはあるけれど、処分は両親に任せたのだから、これで良しとしよう。
一年前ぼくが彼女のことを頭の隅に追いやらず、気遣ってさえいれば……。
時の巻き戻りは、儀礼魔術使いのキリアン家が関係していたんだろうか? グウィネス嬢の施す刺繍が持つ力なんだろうか?
「わたしには何とも……ただ、刺繍をしながら必死で願いました、誰か助けて――と。それから、嵐の夜にペンダントが光り、誰かの声が聞こえる気がしました」
「刺繍にはグウィネス嬢の想いが伝わっていたよ。ぼくを頼ってくれてありがとう」
「わたしこそ、ありがとうございます」
ぼくが見捨てた少女は、再びぼくの元に戻って来た。
きっと運命なのだろう。
グウィネス嬢に対するこの気持ちが愛なのか同情なのかは分からない。だけど、ぼくの隣には彼女がいてほしいと思う。
※
あの日からグウィネス嬢はぼくの王子宮で療養している。そろそろ叔父の元へ返さなければ。
王子妃教育よりも、彼女は宮廷魔術師として学ばなければならないことがたくさんあるだろうし。
でも……。
しばらくしたら狩猟シーズンになるから、一緒に王家の別荘へ行こう。
世界はこんなにも素晴らしかったんだな。
「落ち着いたからまた聞くけれど。グウィネス嬢は、これからどうしたい?」
「わたしは……キリアン家のことを色々学びたいです。それから……正直に言ってもいいですか?」
「全然構わないよ」
「殿下の隣にいたいです、ずっと」
「それなら……叶えられると保証するよ、ぼくが」
※
無気力・無関心・無感動でセピア色だったぼくの世界が動き出し、色彩を持ち始めた。
★刺繍のハンカチと嵐の夜のイメージ画像を入れました。AI Geminiで作成しました。
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この話を長くすると冗長になってしまいそうなので、これでおしまいです。不要な逸話を入れるのは止め、最小限にしました。
ここから先二人がどのような人生を歩むのかは読者様方のご想像にお任せします。
これまで読んでいただきありがとうございました。
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