表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界キャンプ ~チートはなくても美味しいものがあれば充分です~  作者: 綾川 鈴鹿
《カプト地方、砂漠編》二章、カルラ・オアシス
62/115

10話、姫騎士とメイド(1)


 この日、カルラ・オアシスには似つかわしくない、上品な出で立ちの馬車が冒険者ギルドの前に止まった。

 真っ黒なフロックコートを羽織った御者の女性、短く切り揃えられた髪に整えられた服装は清潔感を覚える。

 その女性は馬車の扉を丁寧に開き頭を下げる。


「着きました、クラウディアお嬢様」


 中から出てきたのは、長く黒っぽい銀髪に鮮やかな碧眼の女性。

 長めのスカートにヒールの高いロングブーツ、腕には魔法石付きのブレスレット、腰のレイピア、装飾を施した軽鎧は魔鋼で作られている。


「長いことご苦労だったわね、ディアナ」


 馬車を降りて御者のディアナへと声をかける。

 たったそれだけの振る舞いでも、彼女の品の良さが見て取れる。


「ありがとうございます、それよりもお嬢様のお召し物が汚れてしまいます」


 ディアナが砂塵除けのマントを掛けると、クラウディアが馬車の中へ声をかける。


「クリスタ、エマ、二人も行くわよ?」


 クラウディアに呼ばれ、二人の女性が降りてきた。

 一人は黒い長袖の服に足首まであるロングスカート、手には真っ白な手袋をしたメイド。

 ゴシック調のブーツの先には硬そうな金属を付け、革でできたコルセットにはナイフが四振りも備え付けられている。


「はぁ、クリスタまで行く必要は無いと思うのですが……」


 気だるそうに呟く、メイド姿をしたクリスタという少女。

 揃えただけのショートボブ、目を隠す前髪はどちらかと言えばメイドらしくはなく、まるで彼女の表情を読ませない様にされているようにも見えた。


「ク、クリスタッ! お嬢様には敬意を持って喋りなさい! まったく、何度言ったら分かるのよ、あんたってば?」


 戦士姿をしたエマと呼ばれる女性は、慌ててクリスタに注意をした。

 決して軽装とは言えないメイルにブロンズの髪、背も高く斧と盾を担いでいる。

 彼女は、護衛なのだろう。


「エマが真面目過ぎるんです」

「あんたそれでも、お嬢様の専属メイド?」

「……はい、まぁ」


 言い争いとも言えないような二人の口論を、ディアナが止める。


「あなたたち、お嬢様の前で言い争いは止めなさい!」

「ディアナさん……すみません」

「……はい」


 言い争いが終わるのを確認したクラウディアは、まとまりのない従者三人を引き連れ、冒険者ギルドに入っていく。


「ねぇちゃん達、俺らと一緒に飲もうぜ?」

「空も女も日照り続きだ、楽しませてやるぜー」


 クラウディアからしたら、下品な笑い声が響いている。

 それは高価な服装に身を包み、女性四人で歩いていることに対する、カルラ・オアシスの手荒い洗礼とも言えた。


「ちょっと、酌でもしてくれよ!」


 一人の男が先頭を歩くクラウディアに手を伸ばす。

 その刹那。


「……!!」


チャキ! シュバ! ッザ!


「クラウディア様に触れるには、汚い手ですね」


 コルセットからナイフを抜いたクリスタが、無駄のない動きで男の背後に立っていた。

 男は首元の冷たく鋭い感触を感じ、動きを止める。


「っ! おまえ……」


 周囲の冒険者たちも、動くことすら出来ずに静まり返った。


「クリスタ、おやめなさい!」

「……かしこまりました、クラウディア様」


 クリスタは首筋に突き付けたナイフを下げると、軽く一礼した。

 それを見たクラウディアは、呆然としている男わまるで路傍の石でも見るかのように、蔑んで見ると「次は止めませんわよ」そう言い残し、立ち去っていく。

 残されたギャラリーは、一瞬の出来事とメイドの言葉にどよめきだした。


「クラウディアって……あのリューネブルク家の?」

「間違いねぇ……リューネブルク家の娘だ」

「目立つ銀髪に高価そうな装備、しかもメイドまで連れていやがる、間違いないだろ?」

「いま噂の白銀の姫騎士が、何でこんなところに?」


 コソコソと話す冒険者達、気にも留めないクラウディア一行。

 ギルドのカウンターまで詰め寄ると、クラウディアよりも先にアンが口を開いた。


「先に言っておくが、ここじゃ特別扱いは無しだ、たとえそれがお貴族様のお嬢様だろうとな」


 いつもと変わらず、ぶっきらぼうな言い方だ。


「まったく、野次馬根性だけは高い者共ですわ」

「あぁ確かにそうだな」


 クラウディアも、威圧的なアンに対して堂々と話している。


「お嬢様には悪いが、暴れるなら外に行ってもらうよ?」

「ご安心を私が命じない限り、勝手な行動はいたしませんわ」

「じゃ、そのメイドにおとなしくしていろって、命令しといてくれるか?」


 アンの言葉にクラウディアが左手を上げると、クリスタはクラウディアの後ろに控えた。


「これで、よろしくて?」

「あぁ、助かるよ」

「貴女が噂に名高い荒くれ者達の女主人、アン・オーティス様で御座いますね?」

「アタシは、そんなに有名になったつもりはないんだけどな」


 二人の会話に、ギルド内の空気がピリついていく。


「さっさと本題に移ろうか? 元とはいえ、お貴族様が何の用だい?」

「ディアナ、説明を」


 クラウディアがクエストボードに近づき、コンコンとボードを叩くと、御者のディアナが喋りだす。


「では僭越ながら、クラウディア様に代わり、私が失礼します」


 軽く一礼をし、更に言葉を続ける。


「ここは冒険者ギルドでお間違えありませんよね?」

「あぁそうだな」

「であれば、クエストを受けに来たに決まっているかと、違いますか?」


 ディアナの言葉はかなり上から目線だ。

 エマとクリスタは、クラウディアの後ろで沈黙を保ち、身じろぎ一つしていない。


「そういう分かりきったことを聞いているんじゃないんだ、アタシはな!」

「では、質問など必要ないのでは?」


 アンはため息をつき、そしてギラリと睨みながら質問を続けた。


「あのなぁ、リューネブルク領にも王都にだって冒険者ギルドはあるだろう? ならだ、わざわざ辺境のカルラ・オアシスに来る必要なんてないだろうが!」


 アンの言葉は先程より少しだけ怒気が込められている。

 一般人ならビビッて動けなくなりそうな程の圧だが、ディアナは堂々と質問をし返した。


「それが貴女に関係あるのですか?」

「関係、大有りだね」

「それはどういう関係なのですか?」

「あんた等はいるだけでトラブルメーカーになりそうだからね、その理由ってやつ次第じゃ、このギルドの出入り禁止にする必要がある」

「なっ……!? 一介の受付嬢である貴女にその権限があると?」


 今までの街では、逆らうものがいなかったのだろう、しかしアンには通用しなかった。

 軽く口角を上げて、自信満々にアンが答える。


「ないと思うか?」


 二人の視線がバチバチと交わる。

 ディアナには、アンの言葉が嘘か真かの判別が出来ず、押し黙るしかなかった。


「くっ!!」


 周りが固唾を飲んで見守る中、ギルドの入口で一際うるさい一団が入ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ