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異世界キャンプ ~チートはなくても美味しいものがあれば充分です~  作者: 綾川 鈴鹿
《カプト地方、砂漠編》二章、カルラ・オアシス
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ss、リリの戦い

 ある日の冒険者ギルドでの交渉。

 リリは元会社員として、冒険者として、そして自分の利益のため、気合を入れる!


(負けっぱなしは性に合わないわ、次こそ銅貨一枚でも多く勝ち取るわよ!)


 リリの相手は、ギルド職員の制服に身を包んではいるが、盗賊と言ったほうが納得できる面持ちの受付嬢、アンドレア・オーティス、通称[アン]である。

 元冒険者であったこともあり、戦闘も事務も両方こなす、豪快だが敏腕として国内でも有名な受付嬢だ。

 リリは報酬の交渉で「勝った」と思えたことがない。

 

「なぁリリ嬢ちゃん?」

「なによ、アン」


 今回は強気に出るつもりらしい、リリの言葉尻が強い。


「ここなんだがな?」


 指さした先にはズラズラと長ったらしく文字が綴られている。


「ちゃんと書いてあるでしょ? 報酬、増やしてもらえる?」

「ちゃんと、なぁ」


 報酬の交渉は冒険者に与えられた権利の一つ。

 荒くれ者も多い《カルラ・オアシス》では日常風景である。

 

「美味しかったですって書いてあるが?」

「っん?」


 ここには消しゴムなど無い、二重線を引き、無かったことにしたが、アンは関係なく突っ込んできた。


「ま、まぁ食べたわよ? 美味しかったのは本当だわ!」

「そうかい、そうかい」

「それに、モンスターとはいえ、食料になるものが増えるのは良いことよね?」


 焦りからか、まくし立てるかの様に話すリリに対して、アンは全く表情を変えずに聞く。


「ならこれは報告対象よね? 加点よね?」

「そうさねぇ……」


(どっちだ、どっちに出る?)


 見つめ合う二人、どちらも真剣である。

 ギルドは、正しい金額を超えても足りなくても不都合が起きる。

 冒険者は命懸けなので妥協はしない。


「ダメだな!」


 眉間にしわを寄せたアンは、カウンターに足をかけたまま、報告書を束の上に投げ捨てた。


「なんで!?」

「一言で言や、アタシの独断と偏見だな!」

「横暴よー! 理不尽よー! パワハラよー!」

「黙って聞きな! 嬢ちゃん!」


 激昂した振りをするリリに、アンは何食わぬ顔で叱咤をすると、そのまま答えた。


「調査範囲は指定通り、そうだな?」

「そんなことはないわ! 少し広めに探索したもの」

「……まぁいい、特別にそこも考慮してやるさ」

「なら……」


 リリの言葉を待たずにアンが話を続ける。


「リリ嬢ちゃんの言ってる、加点ってヤツを全て組み込んだとしてだ、討伐したモンスターは1体、ランクF相当、これは間違いないな?」


(痛いところをついてくるわね、でも対策済みよ)


 真面目に話すアンを見て、自信満々なリリはハッキリと答えた。


「まぁね! 今回は報告の為に、早めの帰還を優先したの!」

「ほぉ、Bランクモンスター相手にその判断は順当だわな」

「でっしょー!!」


(今回は勝てた、かも!?)


 勝利の可能性に喜ぶリリだったが、次のアンの一言でその可能性も覆される。


「それが普通のパーティーなら、だがな!」


(あれ? あれれ? 流れが……)


「じゃあ問題ないじゃない? わたし達は普通のパーティーよりも人数が少ないわよ?」

「おいおい嬢ちゃん、アタシはギルドの受付を任されてるんだって、忘れてないか?」


 リリにとっては不穏な流れへとどんどん変わっていく。


「そ、それが何よ? そっちこそ受付なら、レンジャー(斥候)とキャスター(魔導士)しかいないパーティーに無理をさせないでくれる?」

「レンジャーか、アタシはラーナ嬢ちゃんの強さを知ってるんだぜ?」


(っあ、これは……)


 まさか「食べられないから倒してません」など言える訳がない。

 リリ達はサボっていた訳ではない、しかし献身的に駆除をした訳でもないのだ。


「……」

「聡明なリリ嬢ちゃんよ、まだ説明がいるか?」

「っ! わかった、もうわかったわよ!」


 ここでリリが反論をすれば、努力をして来たラーナを否定することになる、もしくは自分がラーナについてそこまで知らなかったと言っているようなものだ。

 総じてラーナを信じていない、そう言っているのに等しいことを、リリもわかっていた。


(その言い方はずるいわよ、わたしがラーナを弱いなんて言えないの、分かっていて聞くなんて)


 結果はアンの方がリリよりも、圧倒的に上手だったと言うしかない。

 この場合はリリの詰めが甘かったとも言えるだろう。

 それにしても、アンの報酬交渉は手慣れたものだ。


(盗賊みたいな見た目をしておいて、優秀なんだもんなぁ、ずるいわ!)


 アンは予定通り、銅貨一枚すら多くも少なくもない報酬を受付台に置き、二人に帰るように促す。


(あーあ、今回も無理だったかぁ)


 可能性の低いことは分かってはいる。

 しかし負けず嫌いのリリは、捨て台詞を精一杯の気持ちを込めて吐き出す。


「ぜーったいに、次こそは負けないんだから!」

「気概は認めるが、アタシはちゃんと考えてクエストを発行してるからな。金額が覆ることはない! 諦めなー!」

「くぅ~」


 リリは歯噛みをした後、受付をあとにした。

 終始無言であったラーナも後ろに続く、そしてギルドを出たところでリリに謝る。


「リリごめんね、ボクが倒しておけば……」

「あぁ、いいのいいの! ラーナに倒してもらったから報酬を下さい、なんてアンに勝ったことにならないじゃない」


 リリは軽口を叩き、明るくヒラヒラと手を振り答えた。


「でも報酬が」

「それも気にしなくていいわ、元々の分は貰っているんだし、予定通りよ!」

「そうなの?」

「そうそう、わたしはアンから上乗せの報酬をぶんどりたいのよ! お金が欲しいなら無理にでも倒してもらってたわ!」

「そう? なら、いいんだけど」

「それにね、わたしはラーナに恩返しがしたいの」


 リリの言葉に、ラーナはキョトンとした表情で聞き返す。


「恩返し?」

「次は交渉でたくさん報酬をぶんどって、お肉をたっくさーん買ってあげる!」


 ギルドを後にした二人の背中は明るくウキウキしている。

 ボーッと眺めていたアンは頭を掻きながら呟く。


「あいつ等は相変わらず……まぁ、それでこそ冒険者ってもんだわなぁ」


 アンは吸いかけの煙草をふかし、天井を見上げた。


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