SS、夢現
前回までのあらすじ!
「地球から転移したわたし[リリ]と砂漠で腹ペコな鬼族の少女[ラーナ]」
「やっと生き物を食べられた!!」
「でもデザートフィッシュって美味しくない」
「モンスターしか食べるものが無いなんてやーだー!」
「次の話は『夢現』夢って忘れちゃうわよねぇ」
「さぁ本編が始まるわ! 『異世界キャンプ』楽しんでみてください」
山奥にひっそりと佇むロッジ、ここには知る人ぞ知る孤児院があった。
孤児院と言っても、勿論こんな山奥では人は集まらないので、子供達も四人しかいない、そんな孤児院の一部屋で老婆がベットから上半身だけを起こし窓を眺めていた、清潔な服に身を包み、姿勢はとてもきれいだが、遠目に見ても体調が悪い事が見てとれる。
さらに彼女を俯瞰する知らない目があった、その目はあることに気づいた。
(あ、あれは……もしかして)
状況を飲み込めないリリ
見ず知らずの風景を俯瞰していたが、目に映るものを信じることができない。
(だって彼女は……)
リリが頭を悩ませていると、コン、コンっとドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ、入っていらっしゃい」
ベットの女性が優しく返事すると同時にドアが物凄い勢いで空いた。
いろいろな種族の子供達が飛び込んでくる。
(人、猫の獣人、鬼、リザードマンまで?)
目の前の光景にリリは呆気にとられてしまった、更に呆気にとられる事態が起きる。
「こらっ! ドアはゆっくり空けなさいっていつも言ってるでしょ! ごめんねラーナ、騒がしくって」
「フフフッ、いいのよ子供は元気が一番だわ」
姿はまだ見えないが、この声にしてこの喋り方、しかもベットの老婆をラーナと呼んだ。
そんな人物は自分しか、リリには思い浮かばないのだ。
(わ、わたし!?)
子供たちの後ろから魔法で食器を一揃え分も従えてやってきたピクシーが一羽。
ドアすらも魔法で閉め、更には机に食器を並べ、カップにハーブティーを注ぐとラーナの肩に座る。
「この子達が取ってきたハーブよ、置いとくわね」
見ている過去のリリには、想像もできないほどの熟達した魔法に目を疑う。
(あれ? 本当にわたしなの?)
「せんせー、みてみてー、みんなでお花集めたのー」
「今日も、おそとにでないの?」
取ってきた花を自慢げに見せる人族の男の子と、女性に掴みかかり寂しそうに尻尾を振る猫人族の女の子。
ラーナは目が朧気にしか見えていないのか、たどたどしい手つきで二人の頭を撫で、笑顔で二人に応えた。
「ウィステリアは元気ねー、小さい頃の私そっくりだわ、その明るさを忘れちゃダメよ」
「うん!」
「アイリスは相変わらず寂しがり屋さんね、いつかはあなたが周りの寂しさを埋めてあげてね」
「……が、頑張る……」
甘える幼子を注意するように、後ろに控えたリザードマンの女の子が声を張り上げた。
「こらー! 院長先生はお疲れなんだから、ウィステリアは静かにしなさい」
「はーい」
「アイリスもこっちにおいで、私が抱っこしてあげるから」
「うん……」
「ごめんなさい、院長先生」
「いいのよガーベラ、あなたは優しくてしっかり者ね、でも自分で自分を責めるとことがあるからたまには許してあげてもいいのよ? 無理はしないでね」
「っえ、あ、はい」
子供を探し顔を振った老婆の横顔を見て、リリは確信した。
(あのおばあちゃん、やっぱりラーナ……よ、ね?)
混乱する過去のリリ、しかし目の前の話は進んでいく、鬼族の男の子がラーナに声をかける。
「ばぁちゃん、また稽古つけてくれよ」
「ロータスごめんね、稽古はもう付けてあげられそうにないわ、貴方はもう十分強いから大丈夫よ」
「俺はもっと強くなって、金級の冒険者になるんだ!」
「あらあら、ロータスは欲張りね」
「そんなことはねぇよ、普通だろ?」
「鬼族はそうじゃなきゃね、でも誇りよりも命を大切にね」
「何度も言わなくてもわかってるよ!」
(やっぱりそうよ! それならピクシーは、わたしで間違いないわね)
ニコリと優しく笑った老婆、年老いていてもラーナの面影がある。
未来のリリが用意したハーブティーを一口飲むと、静かに優しくゆっくりと老婆は語りだした。
「今日はね、みんなにお話しをしておかなきゃいけないことがあるの、聞いてくれる?」
「「なにー」」
「私はそろそろいなくなるわ、もう少しだけ頑張れると思ったんだけど……」
理解できないといった表情で無邪気に聞く、幼子のウィステリアとアイリス。
二人の後ろでロータスは俯き、ガーベラの目には涙が今にも零れ落ちそうになっていた。
「みんなには外の世界を見てほしいわ、砂漠の雨季、海にある海底神殿、エルフのご神木も凄かったわ」
ポツリ、ポツリ、と話しだしたラーナ。
子供のように無邪気に旅の話をする、その姿は過去のリリが知っているラーナそのものだ。
暫くすると、静かに泣いていたガーベラの横で、ロータスの涙をすする音が混ざりだす。
つられて二人の幼子も涙をボロボロと溢しながらラーナの話を聞いていた。
「ゆっくりでいい、無理もしなくていい、それでもいつかはここを出て行くのよ?」
「ばぁさん……」
「院長先生……」
「「ぅ、ぅう……」」
「あなた達のことはしっかり見てるから、私が見ていて羨ましくなるような人生を、そろぞれが歩んでいってちょうだい」
最後にそう話を締めくくると、手を軽くパンッと叩き、ハキハキと明るく言う。
「話しすぎちゃったわね、お昼ごはんの時間よ、お腹いっぱいに食べていらっしゃい」
その言葉が合図であったのか未来のリリは、その場にそぐわないほどの明るさで子供達の背中を押す。
「さぁ今日はみんな大好き、ハンバーグよ! 早くいかないと冷めちゃうわ!」
「リリ、分かったよ」
ロータスがガーベラの頭を軽くなでると、二人はウィステリアとアイリスを連れ部屋から出て行った。
子供達のいなくなった部屋で、リリはいつも通りのテンションでラーナに話しかける。
「ずいぶんと直球にいったわね」
「ボクには時間がないからね」
「そっかー、にしても見事にいい事しか言わなかったわね」
「海賊だったとか、エルフのご神木を見に行って怒られた話なんて教育に悪いじゃん」
「フフフッ、確かにね」
「大きくなったら、リリから言ってあげて」
「わかったわ!」
(子供たちの前ではいい大人でいようと思っていたのね)
クスクスと笑い合う二人、過去のリリは、未来を知っていいのか少しだけ不安になりながらもどこか現実感がなく、物語を見ているような不思議な気持ちで見ていた
「あーあ、革鎧また食べたかったなぁ」
「よりによって、それ?」
「ボクたちの思い出の料理だからね」
からかうようにニコッっと笑ったラーナに、リリは少し涙ぐむと泣くのを堪えて話を続ける。
「あれからここまで長かったわね、ラーナもこんなにおばあちゃんになっちゃって」
「あの時は死ぬのが怖かったけど、今は受け入れてるよ?」
「ホント、大人になったわねー」
「あのさリリ、お願いをしてもいい?」
「ん? なぁに?」
「最後に顔を見せてくれる?」
歳のせいなのか、他に理由があるのかは分からないが、やはりラーナの目はほとんど見えていないらしい。
だからこそのお願い、リリは「いいわよ」と言うと、顔にくっつくのではないかと言うほどに近づく。
「あぁ、ボクの友達はこんなに綺麗な顔だったんだね、久しぶりに見たよ」
ラーナの頬を一粒の涙が流れる。
リリは「知らなかったの?」と明るさを装いつつ言うと、頬に抱きつき涙を拭う。
穏やかな時が流れ、ようやく二人とも落ち着きを取り戻した、するとラーナが意を決したようにリリに言う。
「そろそろお願いしていい? もう座っていられないんだ」
「……そう、わかったわ」
寂しそうに呟いたリリが頬から離れると、姿が急に黒く変身した、髪は黒くなり、マントのように垂れ下がった羽根は灰色に変わる、目は泣き腫らしたのか、燃えるように赤くなっていた。
「久々にバンシーになったわね、いつ以来かしら?」
「どうだったかな、もう覚えてないや、最近は記憶も朧げで……」
「いいのいいの、ラーナとの思い出はわたしが覚えているもの! わたしが最後まで持っていってあげる」
「リリありがとう、リリとの旅はとっーてもたのしかった、もっと、一緒、に……」
ラーナの言葉が詰まる、目の前でバンシーになったリリが、ボロボロと涙を溢しているからだ。
「わたしもダメね」
「リリは泣き虫だなぁ」
「いつもいつも、バンシーになると感情が流れてきて、涙が止まらないわ」
「リリ……」
「本当に最後よ? お願いはない? 出会った人に教えようか?」
バンシーは訃報を知らせることで知られる妖精だ。
死に近いものの前に現れ、この世のものとは思えないような泣き声でどんなに離れていようとその者の親しいものに知らせる。
たったそれだけの妖精。
「それはいいかな」
「ぞ、ぞぅ?」
「ボクは満足してるんだぁ。リリとの旅はいつも楽しかったし、こうやって老衰で死ぬ事ができるなんて思ってもみなかったよ」
「わ、わだぢも、よ。ざいごにプレゼンド」
涙や鼻水でグシャグシャになった顔でリリが答え、鼻にチュっとキスをした、バンシーのキスは願いをかなえると言われているからだろう。
ラーナは突然のことにエへへと照れながら笑った。
その瞬間! 急に周りの壁をすり抜けて何体ものレイスが現れた!!
「死神たちのおでましだ、子供たちのことは頼んだよ、リリ!」
「えぇ!」
* * *
「ふあぁ~~」
大きなあくびと共に、目の前の景色が変わる。
辺りは広大な砂漠と降り注ぐ太陽。
(やばっ! また寝過ごした)
目覚めたリリは、なんだか寂しく暖かい夢を見た記憶はあるものの、寝惚けた頭では何も覚えていない。
「まっいっか」と呟くと目を擦り、体を伸ばした。
「ヤッホー、ラーナだよー!」
「ヤッホー、リリよ!」
「……」
「リリ? 覚えてる?」
(これはどっちが正解?)
「えぇーっと……おぼえて……ない!」
「あっ、そっちでいくんだ!」
「まぁ、あり得るかもしれないからナイショってことにしとこー!」
「はーい!」
「「次回『ジャイアントスコーピオン』その1」」
「異世界って理不尽だわー」
1日1話投稿です!
13:30、もしくは21:30にアップする予定ですが
前後する可能性があるのでご了承ください。




