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異世界キャンプ ~チートはなくても美味しいものがあれば充分です~  作者: 綾川 鈴鹿
《カプト地方、砂漠編》二章、カルラ・オアシス
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17話、激闘とその先(3)

 リリの視線の先で戦う、ラーナ、クリスタ、アン。

 皆が攻め手にかけているのか、まだお互いが睨みあっていた。


「嫌になりますね……わりと強めに傷をつけたと思うのですが……」


 クリスタが付けた傷も数十か所はあるのだが、擦り傷程度で血の一滴もでていない。


「あたしの大剣を特に警戒してるみたいだな」

「そうですね、弱る気配が見えません」

「軽いダメージは気にしないくせに、致命傷になりそうな物だけは確実に避けやがる」


 隙きを見て、アンも斬りかかってはいるが、歯や足で止められるか、虚しく宙を切るのみだ。

 頼みのラーナは傷が重く、距離を取り毒針を投げるので精一杯。

 幾つか刺さりはしているが、動きを止められる程ではなかった。


「毒も効いてないみたいだね」

「もう少しラーナ嬢ちゃんが動けると、状況が変わるんだがなぁ」

「そうです……ね」


 クリスタが呟き、ほんの少しだけ俯いた。

 その一瞬を見逃さず、デザートプレデターがクリスタの方へ飛び込んで来た!!


「「クリスタ!!」」


 二人が叫ぶ!

 クリスタは避けられはしたが、脚を滑らせた。


「っ!?」


 傍から見たら足を取られると言ったほどではないが、膝が若干落ちるほどの僅かな隙き。

 ラーナが真っ先に気づくと、っあ!! っと声を上げた。

 デザートプレデターは勢いを緩めず突進すると、首元に牙を突き立てようとした。


「っく! 間に合わん」


 アンは微かに目を伏せた。

 止めようとはしたが、お互いに距離を取っていたのが災いしたのか、わずかに届かない。


 ギィエェーー!


「やっと罠にかかりました」


 クリスタは滑らした足をしっかりと踏み込む。

 そして自分の首元に向かう牙から、逃げることなく、あえて前へと突っ込んだ。

 そしてナイフをデザートプレデターの心臓に思いっきり突き立てた。


「ぐ、ぐっあぁー……ううっ……」


 しかしその代償は大きかった。

 クリスタの首元にガッツリと噛みつくデザートプレデター。


「きゃー! クリスター!!」


 目の前に死にかけの傷を負いながらも、決して離さないデザートプレデター。

 リリはその光景を見て大声で叫ぶことしかできなかった。


(ラーナがモンスターと対峙してる時とは違うわ)


 ナイフを突き刺し、必死に抵抗するクリスタも、リリにはとても怖く見えた。

 リリの後ろから、冷静ながらも怒りのこもった声が響く。


「捨て身の特攻なんて、わたくしの従者として、感心しませんわ!」


 声を上げるのと同時にクラウディアのレイピアが、デザートプレデターの額を貫いた。


  ギィー!!


 一瞬でデザートプレデターが後へと飛んだ。


「……さま!」


 額を貫通したレイピアの穴から大量に出血をするデザートプレデター、右肩から首にかけての傷を押さえるクリスタ、そしてレイピアを構えクリスタを庇うクラウディア。

 二対一で対峙することによってまたも均衡が生まれる、しかし意外な者が均衡を破る。


 ギイヤァアーー!


 この世のものとは思えない咆哮を上げ、物凄い勢いで飛び掛かってくるデザートプレデター。


「クラウディア様、後ろへ下がってください」


 傷で動きが鈍りながらも、クラウディアをかばう様にクリスタが前へと踏み出した。


「止めなさい!」


 クラウディアはまたもデザートプレデターの額に、レイピアを突き出す。

 予想外だったからなのか、それとも戸惑いからなのか、数瞬遅れて、動き出したクラウディアのレイピアは届かなかった。

 デザートプレデターの勢いに負け、クリスタはもつれ込むようにドサッと仰向けに倒れた。


「クリスタ、はやく逃げて!!」


 いつも強気で尊大なクラウディには珍しく、恐怖の混じった声を上げる。


「クラウディア、さ、ま……」


 デザートプレデターをはがそうとするが、覆せるほどの力は残っていなかった。


(このままじゃクリスタが、死んじゃう!)


 リリの不安を他所にクリスタが耳を疑うようなことを言う。


「……お嬢様……このまま、クリスタごとコイツの首を落としてください」

「っえ!?」


 今まで、貴族然とした態度を取っていたクラウディアならば、もしかしたらやりかねないと思ったリリは、止めようとする。


「ダメよ、クラウディア!」


 クリスタの首筋には物凄い激痛が走っているだろう、しかしいつも以上に冷静に力強く叫ぶ。


「今しかないのです!!」

「でも、でも……」


 力なく答えるクラウディアは、リリの知っているクラウディアではなかった。


(クラウディアでも、身内を切るのは腰が引けるのね)


 しかし、クリスタは言葉を続ける。


「良いのです、私はそのように育てられましたから」


(それって、どういうこと? 死んでもいいってこと?)


 リリには信じられない一言だが、クリスタの声色には絶望の色が一切見えない。


「でっでも……クリスタはわたくしにとって唯一の……」


 二人は幼馴染だった、3歳のころから一緒にいる。

 だからこそ、力なく答えるしかないクラウディアに、クリスタが叱咤する。


「クラウディア=リューネブルク! 貴女は、貴女様は誇り高きリューネブルク家の後継ぎなのです、何千何万という領民を背負う立場なのです!」

「「っ!?」」


 クラウディアですら初めて聞くほどの怒号を前に、二人はたじろぐ。


「たった一人の侍女と、貴女様の命は等価ではないのです」

「で、でも……」


 クリスタは従者として主を守るために強くなったのだ、だからこそここまで強くなれた。


「災害に匹敵するモンスターを討伐できる、そんな名声を得るチャンスを目の前に、たった一人の従者を見捨てられずにどうするのですか!」

「で、でもクリスタが……」


 クリスタはクラウディアの為に死ぬ覚悟など、幼少の時から出来ている。

 しかしクラウディアには主として、領主として守る覚悟はあっても切り捨てる覚悟は出来ていなかった。


「やりなさい! クラウディア!!」

「……わ、わかりましたわ」


 クラウディアは手を震わせながらも腰に手を伸ばし、ショートソードを腰から抜く。


「クリスタ、わたくしは責務を全うしますわ」


 しっかりとそう言ったクラウディアは、ゆっくりと剣を上段に構え、両手で目一杯振り下ろした。


 ザシュッ!!


 勢いよく地面に刺さったショートソード。

 それはデザートプレデターの首を落とすと同時に、クリスタの胸元まで届いていた。


「ゴフッ……良く……出来……ました…………」

「クリスタ……」

「お嬢様、ゴホッゴホッ……」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 泣き崩れるクラウディアの頬にクリスタは手を当てると、涙を拭う。


「これで……これで良いのです。クリスタは殺すことしか教わってこなかった、そんなクリスタでもクラウディア様を救えた……」

「……っ!」

「暗殺しかできないクリスタと、リューネブルク家きっての天才と呼ばれるクラウディア様では、これから救える人の数が違うのです……」

「そんなことっ!」

「これからも貴女はたくさんの人を救い、たくさんの不幸な人々を……」


 クリスタの語気が徐々に弱まっていく。


「ク、クリスタ……だめよ、まだあなたにはそばにいて貰わなくちゃ……わたくしは貴女にとって良い主ではなかったけど、いやっ! 嫌よ!!」

「クラウディア様は……リューネブルグの、ドラーテム王国の、そして何よりクリスタの、英雄……で、す」


 クリスタの手が、クラウディアの頬を離れ、力なく地面に落ちた。

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