68 『彼女』の話をしようじゃないか
何故か新キャラがやらかす話。
午後8時。
駆除対象モンスターの殲滅は、タイムリミットを迎える前に達成された。そのためゲーム強制終了時刻に、表彰式は行われた。
オウレンディアスによる長い感謝の言葉から始まり、ランクごとのトップ3位までの参加者達へと賞金、賞状が贈られる。また、それぞれ1位には特殊なガラスで作られたトロフィーなどが贈られ、またオウレンディアスによる長い祝辞が……。
割愛。そして、閑話休題。
倒したスタービーンズから落ちたドロップ品は、そのほとんどが光属性の魔力を秘めた結晶。
大きさはまばらで、大して使えそうにも無い地理ほどのものまであった。ロキはそれらを加工し、花火に仕立て上げる。
打ち上げる際の衝撃により、時間差で大輪の花を咲かせるマジックアイテムだ。これは元々ルナ・ノアにある加工品だが、ロキの超絶技巧によりその精度は際限無く高められている。職人も顔を真っ青にするレベルのクオリティである。
「ふぁ、きれー」
「だな」
パァン、と、すっかり暗くなった夜空に、煙の出ない花火が上がる。
燃やす物質によって炎の色が変わるように、光花火は混ぜた別属性の魔力によって色を変える。水なら青、炎なら赤、土なら黄色、風なら緑といった具合だ。
ナインは金色の瞳をキラキラと輝かせ、ユウトに抱っこされながらそれを見上げていた。
……もう一度言おう。
ナインは、ユウトに抱っこされながら、夜空を見上げていた。
別に抱っこをされるような場面ではないのだが、これこそが優勝者であるナインへのご褒美だ。何にせよ本人が望んだのだから、ユウトとしてはやらないわけには行かない。
たとえ、ユウトが花火を楽しめなくとも、だ。
「うーん、ユウトさんが死んだ魚の目をしている……」
「ナインお姉ちゃんは『無自覚』なのです。だから何とも無いのです」
「こういうところで10歳の精神年齢が滲み出るとか……」
「こっちで10年経っているので、精神年齢は20歳なのですよ?」
はしゃぐナインの後ろで、コノエとクロウがひそひそ話をしていた。
ちなみに、耳の良い者達は花火の音が負担にならないよう、まだ聴覚強化系のスキルを切っておいてある。
ナインもユウトも、彼等の声は聞こえていなかった。
2人とも噴水の縁に座っている。クロウは左右に身体を揺らし、コノエは膝に肘を置いて頬杖をついている。
2人はただいま、ユウトとナインを観察中。
花火は見ていて楽しい。だがしかし、それ以上に身内の身内による身内のための微笑ましい光景が広がっているため、そちらに夢中なのだ。
「いや、あんなお姫様抱っこを恥ずかしがらない時点で、精神年齢は10歳で間違いないよ。クロウもそれほど抵抗無いでしょ?」
「……僕はお姫様抱っこをされたくないのです。僕はこれでも男の子なのです」
「あっ、うん。そうだったねごめん」
「心なしか謝罪に心がこもっていないのです……?」
胸を張っていたクロウだが、棒読みで反応したコノエに首を傾げた。
彼は前世と今世を合わせて、ナインと同じく20歳になる。の、だが。龍という、非常に成長の遅い種族のためか、あるいは、育つ環境に全く変化が無いためか、彼もまたコノエに言わせれば変化が無い。精神年齢10歳のままである。
クロウの言動もさる事ながら、その行動理由や行動の節々に見られる癖なんかも、コノエの記憶そのままなのだ。
「でもまぁ、クロウもナインも、そのままでいてはほしいんだよなぁ」
「?」
しみじみと、コノエは漏らす。クロウがどれだけ不満そうな表情を浮かべても、それ以上コノエが話す事は無い。
この姉と弟は、妙に知識豊富なくせに、未だ純粋培養なのだ。
そんな2人を密かに見守っていたリミは思う。ナインとクロウが天然気質であるのは、確かにこれからも変わってほしくない、と。
ナインが日々無茶振りをしそうなのも、たまに暴発するのも。そんな姉のストッパーとなれるクロウの健闘も。
大変な事になりそうではあるものの、楽しい事が多く続くのは大歓迎だ。
個性溢れる姉と弟に挟まれた、コノエの苦労が窺い知れるというもの。
密かに2人を見守るリミは、同じく密かにコノエを応援する。ユウト以外にもナインを止めることの出来る存在。という意味もあるが、個人的にコノエは応援したくなる人物なのだ。
彼自身は、天才の姉と弟に挟まれた故に自信など無い。
そのせいか、ナインやクロウとはまた違った方向に母性本能が刺激される。
ともかく、彼女はその日をもってコノエのファン4号となった。
ちなみに、3号まではコノエの身内が独占している。
表彰式が終わり、花火が上がり始めてから30分。
最後に、音だけの花火が上がる。そうすれば、集まっていた人々はまばらになって消えて行った。穴場にいたナイン達は、自宅やホテルに帰っていく人々を静かに眺める。
彼等がすぐ城に帰らないのには、きちんとした理由があった。
ふわふわとやってきたロキに、ナインは声をかける。
「首尾は?」
『今回の問題に対し、関係者をピックアップ、既に第2会議室に集合しています』
「ヤスシは?」
『……城門前で待機中です』
答えるまでに間があったため、ヤスシに関しては調べていなかったらしい。ロキにしては珍しいなとナインは思ったが、まぁすぐに答えたので良しとした。
ユウトにお姫様抱っこをされて、自分でも驚くほど気分が良いのだ。
細かい事は気にしない。
「ヤスシ、来てくれると思う?」
「ヤスシの事だ。大会の後、会議がある事も見越しているだろうさ」
「だよね。あの『探偵』の助手も勤めていたくらいだもん」
「……何で『探偵』は良くてナインはアウトなんだ……」
「ふぇ?」
「いや、こっちの話。行くぞ」
「あ、うん」
城に向かいながら、今後の事を考える。
今回この国で起きた事件は、あくまでこの国の問題だ。ナイン達のようなよそ者が手を出せる範囲など、たかが知れているだろう。
とはいえ、自身を慕ってくれているオウレンディアスと、元とはいえ弟が住む国の問題だ。完全なる善意で最大限の手助けをするつもりである。
もっともその手助けの多くは、午前から午後にかけて行った殲滅作戦に当たるだろうが。
ナインは後先考えずに行動していたため、この後の展開を全く読んでいない。
読めないわけでは無いだろうが、情報が少なすぎて考える事をしていない。
今話題に出てきた『探偵』ならば、あるいは10歩先を見通していただろうが。
「探偵……『リッカ』がいればなぁ」
「うんうん、リッカがリッカとしてここにいれば、リッカ的にもナイン的にも助かる的な展開になったわけだね?」
「うん」
「ではでは、仮にリッカがリッカとしてここにいた場合、リッカ的にもナイン的にも喜ぶ的な?」
「そう……うん?」
ナインの隣から、声が聞こえた。
だから、ナインは横を見た。
実に単純な行動理由である。
……そこには。
「ではでは、ここにリッカがリッカとしていれば、万事解決ですね?」
「……リッカ?」
「はい。リッカはリッカとしてここにいるですよ?」
キラキラと目を輝かせる、少女がいた。
手に持つ虫眼鏡。
ピンク色のツインテール。
大きな赤色のキャスケット。
『探偵』―― リッカという存在の特徴をもつ少女が、そこにいた。




