67 星屑シューティンガー! 4
珍しくユウトがやらかしたり、新キャラが意味深な台詞を吐く話。
引き金を引く。
モンスターに当たる。
キュゥン、と甲高くも不思議な響きのある音を響かせ、夜色をした拳大の光球に、モンスターのもや部分が吸い込まれる。
そしてポイントが加算される。
この動作にかかる時間は、着弾までの時間を除いて2秒弱。
弾数は無限とする。
制限時間は午後8時まで。ただし、残りのターゲット数が0になり次第、強制終了とする。
また、身体能力別にランク分けを行い、ランクごとのランキングにおいてpt数が多かったトップ10内に入った者には賞金及び豪華景品を贈与される。
ちなみに、ナインは特例のため、賞金・景品贈与の対象とはならない。
この時、ナインの心情を簡潔に述べよ。
「超、燃えるよ!」
「でしょうね」
順調にモンスターの数が減り、残りが見つけ難くなってきた頃。
空も暗くなり始め、キラキラ光るスタービーンズは、ほんの少し見つけやすくなっていた。
東奔西走、縦横無尽に駆けずり回った挙句、結局会場内にいるモンスターの5分の1を掃討した辺りで、ナインはとある人物と「再会」していた。
金色の短い鹿の角に、唇の端から覗く尖った牙。濃い赤色をした、猫のような縦に伸びる瞳孔。血のように濃い紅色のショートの髪は、ふわふわしつつも空に向かって逆立っている。
肌はほんのり浅黒く、獣の毛皮で作られたワイルドな服を着込んでおり、靴は木目の綺麗な木とこれまた赤色のひもを使った下駄だ。歩く度にからころと、かわいらしい音が辺りに響く。
彼の名前はヤスシ。
前世において、ナインのクラスメイトだった少年である。
「何でこうも、再会するクラスメイトは男の子ばっかりかなー」
不快ではない。2度ある事は3度あるものだ。
そう、ただ不思議に思ったので、口にしたに過ぎない。
ユウト、イチヤ……もといエーヴェ。そしてヤスシ。まだ3人ではあるが、クラスメイトはこの3名共に男子である。
一応元担任には会ったが、彼女達は早々にどこかへ去ってしまった。ただいま行方不明である。
もっとも、ロキに聞けば一発で居場所も分かるし、連絡も取れてしまう。それ故にあえて連絡手段を用意していなかったとも言える。
「ナインの事ですから、ユウトには既に会っているとは思いましたが」
「? 何でユウト?」
「……いえ、此方の話です。それよりも、相変わらず鈍感なようで。安心しました!」
「うん! それは満面の笑みで言う事じゃあないよね! そっちもナチュラル毒舌がそのままみたいで安心は出来ないよ!!!」
「あっ、出来ないんですね」
見た目のワイルドさと違い、ヤスシは控えめに微笑む。
前世からそうだったが、ヤスシは何故か言葉の端々に毒を混ぜてくるのだ。そのくせ本人に自覚は無く、その上で品行方正故に性質が悪い。
ナインのクラスメイト。すなわち、天才の1人。
何を隠そう、あの教室で数少ないまともで真面目なしっかり者に分類され、かつ誰よりも教師勢に信頼されていた人物だ。
その肩書きは『風紀委員』……。
前世では特例による至上最年少の警部となるほどの実力者だった。
もっとも、ナインを含め本人とその上司だった者達以外は知らない。何せ、教えようとした矢先に転生してしまったので。
モンスターがほぼ完全にいなくなった区画で、2人は偶然出会った。
ただ、ヤスシの容姿はユウトやナイン同様かなり変化していたため、ヤスシの方から話しかけた。ナインがユウトに気付いた理由は、本人さえもよく分からないのである。
一方ヤスシはといえば、転生特典であるスキル:第六感強化EXを駆使していたため気付いた。
今のナインは、変装とも言えないレベルで変装しているのだが、それでも一般人には気付かれない程度には完成度が高い。
それでも気付けたのは、その転生特典のおかげであった。
ヤスシは突然ナインと再会した事に驚愕は隠せないものの、すぐ冷静になって、今にも飛び出しそうなナインへ声を掛けたのだった。
そして、今に至る。
「それにしても、こんな時に観光に来るなんて災難だったね。あ、ゲームが出来るからラッキー?」
「この状況をラッキーと思えるのは脳内バラ園のナインくらいでしょ。僕は元々ナインに会いに来たんだ。リリィクレイル様からのお達しでね」
「リリィの?! 何で?!」
「……さすがに、この事態から脱してから話した方が良さそうです。話し始めると長いし、ゆっくり話したいし。というわけで―― 油断大敵」
ヤスシは引き金を引いた。
常人ならば追えないほどのスピードで射出された、黒い光の弾丸。
それはナインの頭上に向かって放たれ、見事にモンスターへ命中した。
「危ないじゃないですか。直接攻撃する手段を持たないモンスターでも、油断は大敵、です」
「あはは、だよね。ごめん♪」
そう言って、今度はナインが引き金を引いた。
弾丸はヤスシの後ろにいたモンスターを打ち抜く。まるで魔法でもかけられているように弾道は曲がり、靖に傷1つ付ける事無く打ち抜いたのだ。
ヤスシは薄く笑みを浮かべながら、じろり、とナインを睨む。
「意趣返しですか?」
「まさか! だって気付いてたじゃん」
「ふふ、腕は衰えていないようで」
「そっちこそ、腕上げた?」
「おかげさまで。これでも異例の最年少警部でしたから」
ニコニコと、ニッコリと、互いに笑う。
それから、地域別のモンスター数がゼロになったと同時にピストルを握ったままの腕を下ろし、頷いた。
「ナイン」
「うん」
「「やっぱり気が合わない!」」
ナインは顔を赤く染めて、頬を膨らませながら。
ヤスシは眉間にシワを寄せつつ、見下すように顔を上げながら。
それぞれ叫んで、真逆の方向へ顔を背けた。
この2人、普段はニコニコと笑い、世間話が出来るほどには仲良しだ。しかし、見事なまでに
水溶き片栗粉のように、一応混ざりはするものの、しばらくすると2つに分かれてしまう。水と油のような関係でも、犬猿の仲でもない。だが、とりあえず合わない。そんな関係なのだ。
自由人と真面目人間。
傍から見ると、どうやっても接触しなさそうな2人である。また、2人して普段は猫かぶり――良い意味であるが――のため、本音で語り合う機会もそう無かった。
むしろ、元の世界のしがらみが無い今、2人にとって本音で語り合える場である。
「前世の頃から思ってたけど、ヤスシって堅いし、融通が利かないし、毒舌吐くし、何か合わない!」
「それは此方の台詞です。貴方が普段から忙しい事も、素を曝け出せる場面が少ない事も重々承知していますが、だからと言ってあの教室での貴方はだらけすぎだった!」
「しょーがないじゃん! 自分が住んでいる町より外国の事の方がよく分かるって状況にストレスを感じないなんてありえないもん! せめて校内は自由でいたかったの!」
「その信念の下、学校の肝試しに教師共々巻き込まれた恨みは忘れていませんからね! おかげで次の日は寝坊してしまった……」
「許可は取ってあったし、他のみんなは寝坊なんてしなかったもん」
ぎゃあぎゃあと大声で言い合う。
周囲に人はいなかったが、随分と遠くまで響いたせいか耳の良い者には聞こえていた。ユウトもその一人である。
全く別の地区にいたはずだった。
だが、その2人の言い合いは、これほど大声ではなかったもののよく聞いていた。故に聞き分けることが出来たのだ。
モンスターの数はもう3桁。後はサボっても支障は無い。
ユウトは喧嘩の聞こえる方へ走る。
そして、その気配を、ナインは感じ取ったのだった。
「……ユウトが来る」
膨らませていた頬を瞬時に萎ませて、ナインはちょうどユウトのいる方角に向けて目を輝かせる。
薄い金色の瞳は、薄闇に紛れた夕日にキラキラと瞬いた。光の加減で、ちょうど夕日色にも見える。その表情は、怒りとは別の温かな感情で頬は上気し、喜色に満ちていた。
ざぁ……っ、と吹いた暖かな風はナインの美しいプラチナの髪をたなびかせる。
その姿は、誰が見ても美しい。
容姿は子供のそれだというのに、その表情は大人びていて。
まるで――
「――……未だ、此方が年下のようだ」
「ふぇ?」
風の音に紛れて、おそろしく小声で呟かれたそれは聞こえていなかった。ナインの耳を持ってしても聞こえなかったのは幸いだったといえる。
その一言は、ヤスシの声で紡がれ、しかし単なる音としてしか、ナインに届かなかった。
こてん、と傾げられた首に、ヤスシはぐっと奥歯を噛み締めて。
「あぁ、本当に、相変わらずですね。これで無自覚とか、ありえません」
「む」
これ以上無くいい笑顔で、言い直した。
先程とは全く別の言葉で作られたそれは、明らかにナインを小ばかにするような調子である。当然、再びぷくぅ、と頬が膨らんだ。
まるでリンゴ飴のようだった。
「むー、大体ヤスシだって学校祭の時――」
「はい、そこまでだぞ、お前等」
「! ユウトだっ!」
かなり急いできたユウトが、ナインとヤスシのちょうど間に滑り込むように着地した。
屋根伝いに走ってきた彼は、相当急いでいたのか息は切れ切れ、着地の際も地面に張られたタイルが少々凹んでしまった。
力加減が上手く行かないほど急いでいたのだ。
そこまでして止めに来たユウトだが、来て早々ナインにくっつかれ、ヤスシにそっぽを向かれてしまう。一見落ち着いたようにも見えるが、今度はナインが後ろで「あっかんべー」と言った辺りで、ユウトの額に青筋が浮かんだ。
そこまで行けば、2人は言い合いをやめざるをえない。
……ユウトのマジギレだけは、何としても避けたいのだった。
とはいえ、ヤスシが去ればいいだけの事。
彼は1つ、溜め息を吐くと、彼等に背を向けて歩き出した。
しかし、歩き出そうとして、止まる。
「そうそう」
「!」
「一応言っておくと、僕自身はこの事態に一切関係していません。が、この件に関するちょっとした情報は持っています。……ご用があれば、夜10時に城門で」
にぃ、と。
外向きとも違う、前世で片手ほども見た事が無い、彼のもう1つの顔。
それはひどく怪しげで、常に浮かべられる綺麗な笑顔とは完全な別種の笑み。彼の肩書きである『風紀委員』には似合わない、どちらかと言えば犯罪者側が浮かべていてもいいような。そんな笑み。
何かを企んでいると思わせるような。
そんな、笑顔だった。
それを見て固まった2人を尻目に、ヤスシはスタスタと歩き出す。向かうのは救護室がある方面だった。特にケガをしているわけではないが、多くの人間が集まっている場所だ。
暇を持て余したのなら、別段向かってもおかしくは無い。
その背中が闇に紛れそうになった辺りで、ようやく放心していた2人は我を取り戻す。
「ヤスシ」
「大丈夫ですよ」
後ろから呼びかけられて。
彼の言いたい事を理解して、瞬時に返す。
「彼女と僕は、根本的な所で『合わない』んですから。例え此方が擦り寄っても、彼方が一定距離を保つ。そんな関係である事を……知っているでしょう?」
いつものように笑って、返す。
今現在、ナインの耳はロキによって常人レベルまで押さえ込まれている。それはロキ本人しか知らない事だが、ヤスシの第六感はそれを見抜いたらしい。
小さく、ユウトにだけ聞こえる音量で呟いた。
その言葉の意味は、おそらくナインを除いた元クラスメイトにしか分からない。
「あぁ、それと」
「まだ何かあるのか……」
「これが最後ですよ」
ふ、と柔らかく微笑んで、彼は最後に振り向いた。
「僕は、紅の月の親善大使。― ヤスシ・オルガルト ―。以後、お見知りおきを」
ナインを「そういう意味」で好きな人は、意外と近くにいたと思うんだ。




