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転生龍も楽じゃない!  作者: PeaXe
第三章 ダンジョンコア
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45 闇のダンジョン・準備


 ダンジョンと言っても、その様相は様々だ。

 大自然が作り出したダンジョンもあれば、人工的に作られたダンジョンもある。

 または、人工的に作られた建物などが、突如としてダンジョンに変異する事もある。


 条件さえ満たせば、ダンジョンは簡単に発現するのだ。


 もっともその条件というのは、決して人1人ががんばった所で成し遂げられるものではない。

 ロキはいつもどおり淡々と、その事実を述べた。


『規定以上の膨大な魔力が集中する、孤立した空間であること。

 一定期間、人の手が加えられていない事。

 核となる、膨大な魔力を受け止める事の出来る物質があること。

 以上3つが、ダンジョンの出来る最低基準です』

「規定とか一定って言うけど、具体的にはどのくらい?」

『場所によりますが、少なくとも、どんな人間でも感知できるほどの魔力。45立方メートルの空間。1年の放置期間が最低ラインとなります』

「……それって、誰もいないちょっと広めの1人部屋に、必要なモノを放り込んで、ずっと魔力を流し込んでいれば……」

『ダンジョンが完成します』


 パンパカパーン! 鳴り響くファンファーレ、クラッカーの音と、光で出来た紙ふぶきが、ナインの頭上に降り注ぐ。

 最近多芸になったなぁ、と、ナインはロキをじっと見つめた。


「意外と簡単に出来そうだけど、ヒュミアには無理なんだろうね」

『まず、ダンジョンの作成方法が正しく後世に伝わっていません。事実上不可能でしょう』


 リリィなどの、記憶力の良い長寿な種族ならともかく。ヒュミアのような100年かそこら生きれば長生きとされる種族では、ダンジョンの作り方を正しく後世に残す事は出来ない。


 数百年の内に文字の形態は変化を遂げ、上手く読めない事態に陥っているのだ。

 人の記録方法で、数万年も前の情報を保存する事は出来ていなかった。


 また、長寿な者達は別段興味も無ければ、後世に残そうなどと考えない。その上残すとしても口伝である事が多く、ロキのような万能辞書とも呼べるものが無ければ、到底知る事など出来ない。

 ロキの言葉はまだ続く。


『ダンジョンに生息するモンスターは独自の生態系を持ち、ダンジョン固有の種も存在します』

「ここにいるのも、外では見ない種である可能性があるって事?」

『はい。現在のダンジョンの情報を取得中……完了。植物系、獣系のモンスターを確認。全ての種族が闇の属性を有する種族ですが、固有モンスターが主な割合を占めています』

「さすがロキ!」

「妖精族は初めて見ましたが、随分独特な性格をしていますのね」

「いや、ロキは間違い無く例外だから。本物は多分、違う。はずだ」


 ナインが素直に賞賛する横で、エディは見えるようになったロキをまじまじと観察している。べたべたと触る事は無いが、興味津々である。

 今現在確認されていない種族なのだ。とても気になるのは当然だった。


「で、この場所だが。穴が空いて落ちてきたからといって、会場の地下に落ちてきたとは限らないだろう。どこだろうな?」


 リリィが笑みを浮かべながら尋ねると、ロキが無表情のまま向き直った。


「ここは会場の地下ですよ」


 が、ロキが口を開くよりも前に、ラルメアがかわいらしい声で主張する。


「ここは元々、植物の研究をする施設だったのです。しかし、あの事件が起こってからは放置されていました。広さも、魔力の濃度も、核に相応しい器も……ありました」


 さすが桃の月の代表。ラルメアはすらすらとこの場所について語る。その表情は暗いが、澱みの無い事場に嘘は紛れていない。

 リリィはワクワクしながら、少しだけ身体を前に出す。


「ほほう? 事件とは何だ」

「そ、それは……」


 この場所の事を知っているようだが、この場所がダンジョンになったきっかけであろう「事件」については、ラルメアは沈黙してしまう。

 詳しく知らないのか、あるいは話したくないのか。


 いずれにせよ、ナインはダンジョンを攻略する気満々なので、話半分に聞き流そうとしていた。

 その「事件」は、ダンジョン攻略に関係があるのか? ナインにとっての問題はその点のみ。ドレスのまま軽くストレッチをするナインは、ふと思いついたようにロキへと視線を移した。


「ロキ、探検服とか、スキル:錬金で作れる?」

『可能です。また、素材は既に集まっています。作成しますか?』

「うん、お願い。あ、ユウトは?」

「頼む」

『了解しました。作成を開始……完了』


 ぽむん、と、何着かの探検服や靴が、何も無い場所に現れる。

 薄茶色、ではなく、真っ白な服で、男女と背丈別に若干デザインが異なっている。更にそれぞれの名前が刺繍されているというオプション付き。


 ロキは相変わらず無表情だが、ユウトにはドヤ顔を決めているように見えた。


『この場の人数分の「探検服」を作成完了いたしました。物理防御力、魔法防御力に補正がかかります』

「いいねー、こういう、ザ・探検☆ って感じの服を見ると、ワクワクするよね!」

「そうだな。よし、着替えるか。ロキ、更衣室的なものは出せるか? あ、複数同時に」

『可能です。ナビスキル:ドレスルーム(小)を発動します』


 ロキの声にあわせ、円柱型の淡い光を放つ物体が、合計で3つ現れた。試しに開けて見ると、ハンガーや鏡、小さなゴミ箱も備え付けてあり、イスも用意されている。

 2人までなら余裕で入れるであろうスペースがあった。


「わぁ、ボクの分もあるのですー!」

「あらまぁ、わたくしの分もありますわ。見なさい、今着ている物よりも高性能よ!」

「で、殿下! せめてもう少し警戒をして――」


 ナインから手渡されたそれぞれの服を手に、次々と更衣室へ並んでいく人達。

 やがてラルメアにもそれは手渡される。彼女の服は桃色で、よくよく見ればそれぞれの月に配慮された色を模している事が窺えた。

 ナイン達は純白。リリィは赤というような色合いだ。


 もっとも、こう暗くなければ目立ちすぎるので、光を浴びれば全部薄茶色になるような魔法がかかっている。それを知るのは、今の所ロキだけだ。

 キャッキャワイワイと、見るからにお気楽な彼等を見ている内に、ラルメアの肩から力が抜ける。


「……聞いてほしく無いのに、無視されると聞かせたくなるのは何故でしょうか」


 微妙な面持ちで、探検服を抱え込むラルメア。その表情は何とも言えない複雑なものだ。緊張感漂う話をしていたつもりが、ナインの明るい声はそれを塗り替えてしまったのだから。

 探検服を呆然と見つめるラルメアに、リリィはお気楽に笑いかける。


「生まれ持った気質のせい、だろうな。ほれ、吐いた方が楽になるぞ? ……それに、言っておかなければならない事もあるのだろう?」

「……!」


 お気楽ながら、リリィの言葉は真面目そのものだ。

 彼女の言葉を聞いたラルメアの表情は一変し、再び場に緊張感が流れ始める。その空気を感じ取った者達は、自然とラルメアへ視線を集めていく。


「皆様。……このダンジョンの属性は、闇です」

「みたいだね。ロキもそう言っていたし」

「ええ。ですが、本来ダンジョンの属性は、ダンジョンが出来る時に生じた、周囲の魔力によって左右される。この会場がある場所は、従来光の力が集められていたのです」

「……それって、本来なら光属性のダンジョンが出来ていたはず、って事?」

『その通りです』


 ロキがこくりと頷いて肯定した。

 自然だろうが人工だろうが、ダンジョンには属性がある。

 属性によって生息するモンスターの種類や性質が異なり、ダンジョン内の様相も変わるのだ。


「先程出た『事件』とは、この施設を、闇が襲った事件の事。そしてこの闇というのは、この月において獄僅かしか存在しません」

「……という事は、あるにはあるんだね?」

「はい。というのも、新たに生まれるエルフの中で、極稀に生まれ持っているのみなのです」


 エルフも人間のように、人と人が交わって生まれてくる。魔力の属性は親に依存するため、両親共に闇属性を持たないのに、子供が闇属性の魔力を持って生まれるのは本当に稀なのだ。


 そして桃の月では、住んでいる者の全てが闇属性を持たない。

 何故なら。


「この月の植物は、闇の魔力を受けると枯れてしまう。だから、闇の属性を持って生まれたエルフは、ある程度育った後に月から追放されるのです。

 加えて育てられる場所も、植物が無い隔離された空間。エルフは自然と共に生きる者ですから、当然そこに行く者は限られます。通常のエルフは闇の力を受ける行為を嫌いますし、だからといって罪人に任せるというのも別の意味で恐ろしいですし……」


 罪人は罪人。ただ闇の属性を持っている者とは扱いがまた別である。そのため、軟禁状態ではあっても、決して酷い扱いにはしない。

 ただ。自分達の生きる場所を守るために隔離する。

 それが習慣であり、そのために別の月に別コミュニティを作り、受け皿を作っているほどだ。


 だが、この場所が闇属性である、という事は。


「けれど、その隔離されていた誰かさんのせいで、元研究施設だったこの場所は崩壊。放棄しなければならない状況まで追い込まれた、と」

「ええ。しかし、ダンジョン化はおろか、誰も入れないように完全に封印した上に、この土地を魔力の多く集まる場所にする事で封印を強固にしたのですが……」


 ラルメアは天井を仰ぎ見る。


 いつの間にか封印が解かれていたこの場所は、上げ悔やみ属性のダンジョンへと変貌していた。


 長寿であるエルフの彼女なら、以前のこの場所も知っている。

 ラルメアは、ダンジョン化する前のこの場所を知っているのだ。


「そして、さっきの女の子……が、その、闇属性を持ったエルフって事でおーけー?」

「はい。早くあの子を止めないと……それと、早急にダンジョンを破壊しなければなりません」

「ふぇ? あ、そっか。闇属性の物が出ちゃったら、一気に桃の月の植物が枯れちゃうから」

「はい。……」


 ラルメアは、自分を真っ直ぐ見つめながら納得したナインから、目を逸らす。

 その目は躊躇いを含み、まだ何か隠していることは明白だ。


「……つまり、ダンジョンの核を破壊した上で脱出するのが、最も望ましい?」

「そ、それはそうですが、ダンジョンですよ? 危険なのです。核がある場所はわかりませんし、出てくるモンスターがどれだけ強いのかは未知数。それに、これは桃の月の問題です。このような危険な事を、お任せするわけには」


 ラルメアは俯きがちに、震える声で訴える。

 しかし。


「それは、誰に行っているのかにゃあ?」

「……え?」


 ナインは朗らかな笑みを浮かべ、人差し指をピンと立てる。ラルメアがその指に焦点を合わせたのを見計らい、部屋にいるほかの者達へと視線を誘導した。

 そこには……。


「ふふ、腕がなるな」

「僕もー! 楽しみー!」

「ま、仕方無いでしょう。王様がこれじゃあねー」

「右に同じくなのです」

「ダンジョンを壊す行為は褒められませんが、状況が状況です。やりますわ!」

「殿下を早く落ち着かせるためです、私もお力添えを……」


 ラルメアの想像以上に、やる気に満ち溢れた面々がいた。

 一部動機のおかしい者はいるが、全員ダンジョンの攻略及び破壊にはやる気だ。


「多分、今ルナ・ノアで、最もダンジョン破壊に向いたパーティになると思うよ?」

「……あぅ」


 躊躇う理由など、無い。頼む形を取らずとも、脱出くらいなら楽々出来てしまいそうなメンバーなのだ。ついでに核を破壊する事くらい、容易いだろう。

 それに、核の場所くらいならば、ロキがいれば簡単にわかる。


 ……もっとも、そんな「ズル」を許す者は、ここにはいなかったが。


「皆様、その。……よろしく、お願いします」


 ラルメアは、やる気のみんなにぺこりと頭を下げる。

 桃色の髪を揺らし、ふわりと甘い香りを漂わせて。




 10分後。

 ナイン達は全員が、ナインとロキ製作の探検服を身に付けた。

 見た目は固めの布で作られた、まるでトレジャーハンターとでも言うような服だ。しかしその防御力は、布はおろか、鋼鉄の剣さえも通さないほど、硬い。


 ナインの黄金色の瞳が煌き、ユウトが扉を開く。

 肌を刺すような邪気が溢れるが、躊躇う者はほとんどいない。

 せいぜいが非戦闘員のラルメア、そしてエディの従者くらいだ。


「目的その1。ダンジョンの突破、及び脱出」


 全員が頷く。


「目的その2。ダンジョンの核発見、及び破壊」


 力強く頷いたユウトが、今しがた即興で作り出した刀を手に、前に出る。


「……行くよ、みんな!」

「「「おー!!!」」」


 大部分が腕を振り上げて、意気揚々と踏み出した。


「……」


 しかし、未だ浮かない顔をする者もいる。


 その人物は、今はまだ、沈黙を保っているのだった。



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