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転生龍も楽じゃない!  作者: PeaXe
第二章 何か違う。という話
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29/72

28 夏の終わり3

 ナインちゃん……ではなく、ユウト君が活躍する話。


 ユウトは屋根を伝って移動していた。


 ユウトはナインと違い、元が狼だ。飛ぶには少々面倒な過程があった。

 それに、その飛ぶというのも、感覚的には走っているのと変わらない。何故なら、足場となる魔力を固めて、そこを蹴って移動するというものだから。


 もしかすると他に飛び方があるかもしれない。

 だが、それを知ったとして、練習する暇など今は無い。


 そういうわけで、ユウトは屋根の上を軽い足取りで駆けていた。


 最初は誤って、蹴る度に破壊していた屋根達。今ではきちんと加減が出来、かつ覚えたての魔法も駆使して走っている。

 その技術レベルは、世界基準を遥かに上回っていた。


 当然、ユウトは何も知らないが。


「ナインの変装姿、か」


 脳裏に思い浮かべるのは、髪を短く切り、所々跳ねさせ、白と水色のグラデーションを演出しているナインの姿。


 そこにスイカの仮面をプラスし、イメージする。


 そもそもスイカの仮面とは何なのか。

 色々と疑問は浮かぶが、ともかくユウトは条件に合う人物を探す。


 まずは、ナインが辿った道をそのまま辿る。彼女は空を飛んで移動していたため、地上からではやや難易度が高い捜索なのだが、ユウトには児戯に等しい。

 狼だからなのか、嗅覚には優れているのだ。


 時折胸いっぱいに空気を吸い込み、上空に残るナインの匂いを辿りつつ、ターゲットの捜索。


 かつて勉強机を前に、予習復習レポート纏めに夕飯の献立を、ほぼ同時進行でやった時よりかはマシだった。定期試験間近だったために、最後の詰め込みが重なったあの時よりは。


 頭と身体、どちらにも役割が分担できる分、楽である。


 そんな事を思い返す余裕が生まれるほどに。


「……いた」


 ユウトの瞳が、光る。


 瞬間、彼の瞳に捉えられた少年の元へ、一瞬で舞い降りた。


 ……人のいない、路地裏。

 不気味な月明かりに照らされて、少年は大量のかぼちゃのランタンに囲まれて、そこにいた。


「やぁ、面白そうな事をしているじゃないか!」

『ナイカ♪』


 彼は仮面を外していた。

 外して、頭の横に付けていた。


 見れば見るほど、ナインそっくりな容姿だ。ユウトは刹那戸惑って、気を引き締める。

 少年は、楽しそうにくるりとその場で一回転した。


「ね、ね。君、ここの人でしょ? 次の花火は、いつ上がる?」

「は? 花火?」

「せっかく暗くしたのに、全然花火が上がらなくって。待ちくたびれちゃったよー!」


 盛大に口を尖らせ、少年はじたばたする。

 少年は大きなかぼちゃに乗っていた。オレンジ色のかぼちゃには青白い蔓が絡み付いており、やはり目と口が彫られて、その奥に炎が灯っている。


 足を組み、まるで王のような威圧を放つ少年。


 態度の大きい彼の雰囲気は、とても不思議で、とても魅力的で。


 本能的に、敵対心を削がれていく。


 まるで、そう。

 ナインのような、心地よい何かを感じさせた。


 だが。


「あれは、ナインじゃ、ない」


 声も、匂いも、ナインとは違う。

 妙に疼く心を抑えて、ユウトは声を振り絞った。


「花火は、上げられない」

「えっ、何で?! もう暗いのにー!」

『ニー! ニー!!』


 少年と同調するかのように、かぼちゃのランタン達が上下へ激しく揺れる。彫られた目や口の形は変わらないが、声が、怒っていた。

 文句を言っているらしいと、ユウトにも伝わる。


「そもそも、花火は決められた時間に上げる事になっている。暗くなったからって、上がるものじゃない。天候によっても左右される、デリケートな夏の風物詩だ」


 ランタン達を幾つか押しのけ、ユウトは少年へ近付く。


「最終日という事で、盛大に上げるつもりだったがな。こんなよく分からない現象が起きていたら、最悪、中止になるぞ!」

「えー! 〝せっかく暗くしたのに〟そんなつまんない事するの? ありえない! ずっとずっと、花火を上げていれば、凄く面白そうなのにー!」


 少年は頬を大きく膨らませ、怒りを露にする。

 と同時に、ユウトは確信した。


 『せっかく暗くしたのに』と言った彼こそが、あの空を作り出した張本人なのだ。


 つまり、彼は魔族であり、強い力の持ち主という事でもある。


「決ーめた。花火を上げるまで、君と遊んであげる」


 少年はふてくされて、かぼちゃのランタンから飛び降りる。しかし何やら不穏な思い付きをしたのか、口の端が歪んだ。

 ナインが何やら企んでいる時と似た、不穏な何かを感じ取るユウト。


「そうだ! 僕が勝ったら、明日も明後日も、ずっとずぅっと花火を上げてよね! あれ、面白いから!」


 楽しそうにそう告げて、準備運動を始める少年。

 加えて、その提案は、ユウトには受け入れ難いものがあった。


 花火は夏の風物詩。あらゆる地域で若干時期は異なるものの、祭りなんかの特別な日に上げられる、儚い花なのだ。


 毎日毎日上げられては、思い出でも何でも無い、日常となってしまう。

 それは、日本人としての美学に反した。


 お祭りは、たまにやるからこそ楽しいのだ。


「さて、何で遊ぼうかなぁ。普通に戦ってみる? 暇つぶしには最適だよねぇ」


 強い種族とはいえ、ユウトはまだ幼体だ。彼が敵うかどうかを問われれば、十人中十人が「NO」と答える実力の差がある。


 つまり、ここでの戦闘は無意味。

 すぐにでも逃げ出したいが、それではこの非常事態は終息しない。


 とはいえ戦うとなると、十中八九周囲に影響が及ぶ。


「追いかけっこは、こっちが苦手なんだよなー……」


 ユウトの了承も得ずに、勝手に決めてばかりの少年。


 しばらくぶつぶつと呟いていたが、カッと目を見開くと、満面の笑みを浮かべる。


 ますます、ユウトは嫌な予感を覚えた。


「よし、決めたよ! かくれんぼにしよう!」

「……は?」

「100数えてね! その間に、俺が隠れるから! フィールドはこの結界内。要するに街全体だ。建物の中は厳禁! うん、これで良いと思う。魔法のカモフラージュ無しで、制限時間は3時間。

 この間に俺が見つかったら、大人しく結界を解除してやる。でも見つけられなかったら、毎日花火を上げてもらうからな!」


 伸ばした人差し指をユウトにつきつける少年は、とても活き活きとした様子だった。


「ほい、始め!」

『イチ! ニィ!』

「え、そっちが数えんの?!」


 かぼちゃ達が、走り去る少年の姿をくらませる。

 と同時に、数を数え始めた。


 100数え終わるまで、ランタン達はユウトの前から退く事は無かった。




 ちなみに。

 ユウトは鼻がとても良いので、その後5分以内に少年を見つけてしまった。


 あまりに速すぎて特筆すべき事がない。


 とりあえず、少年の首根っこを引っ張ってきたユウトに、ナインがくっついて大騒ぎになった事だけ書いておく。


 後に龍祭りの終わらない夜事件と呼ばれることとなる事件は、以上が全貌であった。

 また。


 龍祭りの最終日に行われる、大かくれんぼ大会も、この一件から始まったという。



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