27 夏の終わり2
連番2話目。
栗と芋が人気の季節ですね。
ちなみに作者は、栗より芋派です。
人数の少なくなった会議室。
シュン、ナイン、ユウト、リミ、クロウだけが、部屋に残っていた。護衛――とは名ばかりの親衛隊――を退室させた会議室は静かだ。
ナインは軽食を摂りつつ、ロキの報告について整理していた。
「魔族って、たしか」
ナインの横で報告を聞いていたユウトは、顎に指を当てて考える。
黒の月に最も近い月に住むという、人間種族の1つ。それが魔族だ。他種族に比べて身体能力が高い上、魔力の量も多い。
獣人族はその多くが白色から褐色の肌を持つ。つまり、ヒュミアと同じような姿形に、動物や幻獣の特徴を併せ持つ種族である。
対して魔族は、およそヒュミアではありえない薄紫や青白などの肌を持つ者も多い。むしろヒュミアからかけ離れた容姿である事も多いほどだ。それでも、2本の腕、2本の足、頭を持ち、2足歩行をする生物。という人間の定義には当てはまっているため、人間種族ではある。
獣人族より容姿も力も多種多様な魔族は、その分持っている力も多種多様。
大きな街を丸ごと飲み込む空間を形成する。
ヒュミアの感覚からすれば、規格外であるその力も、魔族が作ったのであれば納得出来た。
「じゃ、その魔族さんを探せばいいんだね」
「探すと言っても、一筋縄じゃ行きませんけれど」
「え、何で? リミ」
「だって、魔族ですし」
「「「???」」」
異世界転生組のナイン、クロウ、ユウトが、首をかしげた。
まだ、魔族に会った事が無いのだ。
どのように多種多様なのか。たとえば、ヒュミアと全く区別のつかない魔族がいたり、妖精と見紛うばかりに小さく神秘的な姿をした魔族がいたり、という事を、全く知らないのだ。
それをリミから聞く内に、たしかに、探すのが困難な理由が分かった。
「つまり、どんな姿か特定できないから、探しようが無いと」
「そうなります。ついでに、これほどの規模の魔法が使えるとなると、魔力コントロールも相当の腕前でしょう。であるならば、魔力の大きさで探すことも、困難かと」
「あうぅ。早くしないといけないのにぃ……」
涙ぐみ、声に元気がなくなってしまうナイン。
テーブルに突っ伏したナインを、ユウトとリミがそれぞれ頭と肩をさする。
前途多難。
つまりはそういう事であった。
いつまでも突っ伏しているわけには行かない。
ナインはユウト達に声を掛けてから、20分ほどかけて、ざっと街の様子を調べる。気分転換も兼ねた、即興の外回りである。
龍の身体をフル活用した空中散歩。龍ならではの動体視力と生まれ持った翼を使い、怪しい人物を記憶していく。
途中、所々で発生していたトラブルも幾つか解決しておいた。
主に、屋台の食べ物を勝手に持って行く者の粛清である。
祭りの雰囲気を壊す輩を、ナインちゃんは許さない。
妙に見覚えのある「かぼちゃのランタン」と何度も出くわし、それらが集まっていく所にいた少年も注意するのを忘れない。
「ごめんごめん。お祭りが楽しくて、つい。一応、お金は払ったよ? 分かり難いかもだけど」
「モンスター枠の子達が買うのが、ちょっとしたトラブルになるの! 攻撃して来ないし、良い子達かもしれないけれど、気を付けて!」
「あ、そっか。そうだね。分かったー」
スイカっぽい模様の仮面越しに、くぐもった声を発する少年は、白い髪を弄りながらふんわりと答える。その了承に一応の満足を得たナインは、あまり心配をかけない内に城へと戻った。
とりあえず、このナインの行動は、無許可である。
もっとも、許可を得る前に飛び去っただけで、声は掛けてあるのだが。
ナインの脱走は今までにも何度か起きていたので、全員あまり気にしなかったそうな。
「ナイン様、よろしいでしょうか」
「何、シュン」
帰って早々、ナインの部屋にはシュンが待機していた。
いつもどおりの綺麗な顔だが、眉間にシワが寄っている。
「……いつの間に、出かけられたのでしょう?」
「あれ。言わなかったっけ? 街の様子を見てくる、って」
「それはまぁ、報告にありますが。ですが、せめて我々が返事をしてからにしてください。それと店の物を買って行くのは、大きな時間の損失になりますよ?」
「さすがにこんな非常事態で、物なんて買えないでしょ」
「ん?」
「ほぇ?」
2人はしばし、見つめ合う。
「えっと、変装して、出かけられたのでは」
「そんな時間無かったよ? むしろ、この姿のまま、若干光学迷彩かけていただけだね。途中で何か、男の子が人を困らせていて、それを注意したから思っていたより替えるのは遅くなったけど」
「その子の特徴ですが。スイカのお面に、かぼちゃのランタン型モンスターを引き連れた、白に水色の髪ではありませんでしたか」
「水色だったかは暗くて見えなかったけど、それ以外は、そうだね」
「「……」」
お互いに、見つめあう。
そこに、甘い雰囲気は欠片も無い。
ただ、2人して、ナインの変装時の容姿を脳裏に浮かべる。
ナインではなく、ナインが変装した時と身体的特徴が一致する、不思議な少年。
「誰かー、いるー?!」
「俺ならいるが」
どこからか現れたユウトは、狼の耳をぴこぴこ揺らしながら出てきた。
どこから出てきたのかは、ナインもシュンも分からない。
ただ、何故かナインが寝るために用意されたベッドの方から来た。
……どこにいたのだろうか。
「あ、ユウト! ユウトなら話が早いね。私が変装した時の姿に、とてもよく似ている子を探して、ここに連れてきて! 重要参考人になるかも!」
しかしナインはあまり気にしない。
というか、むしろユウトならどこから来てもおかしくないと割り切っているので、どこから来ようが構いやしない。
ちょっとは構おうよ、ね? 女の子でしょ?
「容疑者か?」
「ううん。でも、かぼちゃさん達が街中にいたらしいし、何か分かるかも!」
「了解」
ユウトはひとつ頷くと、窓を開けて、飛び降りた。
ここが何階かは、考えちゃいけない。
どうせ何階だろうが、無傷でけろっとしてみせるのだから。
「行ってらっしゃーい」
既に姿が見えなくなったユウトに向かって、ナインは手を振った。
一方、同じ部屋にいるシュンはというと。
「……これは、どこからつっこめば良いのだろうか」
と、こめかみを押さえて唸っていた。
ユウトがどこに隠れていたのかを問い詰めるべきだったのか。
ナインの過剰なスルーさ加減を指摘するべきなのか。
ユウトが何故扉からではなく窓から出て行ったのか。
いちいち指摘していれば、時間がかかる。それはナインもユウトも、ついでにシュン自身も望んではいない。だからと言って、このまま『この状態』が常識になっていいのだろうか。
ユウトの恋路は、応援している。
かつ、ナインの純粋無垢な部分を壊したくは無い。
しかし、正直「もうこれ夫婦並みの仲良しさんだよね?」と誰もが言いたいほどに、距離が近い。
むしろ「え、恋人同士じゃなかったの?!」と、誰もが驚く。
だがそんな事を告げたとして、あの博識な割に無知なナインちゃんの事だ。ユウトとは友達であると赤面せずに言ってのけるだろう。
そしてユウトに、身体的損害を与えないダメージを負わせるのだろう。
悪魔が鋭い矢を放つのが、目に見えている。
けれども距離が近すぎるのは、誰の目にも明らかなわけで。
とはいえ常識を教えるには、少々ナインの力は突出しすぎている。
ステータス然り、純朴さ然り。
……。
「スルーが、最良なのでしょうか」
行き場の無い靄が、シュンの心にかかっていた。
そうして、現実逃避の時間が始まる……。
「そっとしておこう……」
一部の人が、この言葉を言いたくなるような話を作りたい。




