20 国の名前
本日2話目! です!
太陽が沈む直前。
明るいと薄暗いのちょうど境目に、整備された舗道の街灯が点々と灯り始めた。
暗くなると光りだす、不思議な鉱石を利用した街灯である。ロンドンのガス灯をイメージしたデザインは街並みにも合っていた。
段々と暗くなっていく街の空気は、熱気と歓喜に包まれていた。
人が集まる事で生まれる熱気は、熱中症対策として用意された冷房装置の威力を上回っている。
熱気に呑まれて倒れる前にと、ナインの指示で飲み物屋は既に開店し、客を寄せていた。ナインがこれまた暇に任せて作り出した、プラスチックもどきを使ったコップがそこら中に溢れている。
外に出れば、カランコロンと、氷同士がぶつかり合う涼しげな音が聞こえてきた。
炭酸飲料は無いが、キンキンに冷えたお酒なんかは出回っており、一部の大人は酔いが回っている。
暑い時に飲むジュースは、冷たい物が正義である。
警備を任された者達は、魔法瓶の冷たさに励まされつつ東奔西走。時には屋根の上、時には地下にも潜って任務をこなしていく。
その姿はある種のショーとなり、祭り開始前に人々の目線を掻っ攫っていた。
中には、彼等の活躍が見たいがために悪ふざけをする者もいたのだが……その辺りは横に置いといて。
夕方開始のお触れが出回ってからは、ゆったりしていた店の売り子が忙しなく準備を進め、今か今かと、夕日が沈むのを待っていた。
しかし彼等の目線は、夕日などには向いていない。
『―― 皆さん。急な時間の変更に、即座に対応してくれた事、とても感謝しています』
手に馴染むマイク。ふわりと浮かぶスピーカー。
それまでワイワイガヤガヤと騒がしかった街が、一気に静寂に包まれた。人々は各所に配置されたスピーカーではなく、城の前に設置された仮設ステージへと視線を集めていく。
ステージが見える者はじっと目を凝らし、見えない位置にいた者は高い場所などに移動して、何とか彼女を見ようとする。
薄暗いステージに幾本ものスポットライトが集まり、彼女……ナインを浮かび上がらせていた。
かわいらしくも麗しい美少女に多くの者達が目を奪われたのは、必然だった。
『私はナイン。姿ではなく、声だけならば、聞いた方しかいないでしょうね』
常にナインの歌が流れる街にいるので、確認するまでもなく、ナインの事を知らない者などいない。それを誇示するべく、あちこちからテンション高めの声が返ってきていた。
ナインは嬉しくなって、笑みを深める。
『今日は記念すべき、初めてのお祭り。そんな日にこのようなステキなお知らせが出来る事を、とても嬉しく思います』
周囲がざわめき始める。
祭りはまだかと催促するように。
知らせとは何かと胸躍らせるように。
期待の眼差しが、ナインに集まる。
コンサートの時にも似た緊張感に、ナインの表情は自然と笑みを作った。最早職業病とも言える、営業スマイルにも似た表情だ。
偽りではない。ただ、自分の気持ちを更に周囲へ届けやすくするための、手段。
立派なステージ。こちらを注視する観客。熱い視線にスポットライト。
これらが揃って、血が沸き立たないエンターテイナーなど、いるのだろうか?
『皆様にご紹介したい方がいます。……名前だけでも、お聞きした方もいらっしゃるでしょう。エルディラ五国連邦からお越しくださった、オウレンディアス様です』
ずっと浴びていたいスポットライトの白い光を、ナインは目で追った。
スポットライトの一部がステージの端に移動し、彼のキラキラした衣装を、更に輝かせたのだ。
途端、ざわめきが更に騒がしくなり始めた。
ナインが直接マイクを手渡せば、街全体の視線が、一気にオウレンディアスに集まる。
普段、このように話すことの無いオウレンディアスは、いつもとは違う種類の緊張に戸惑っていた。城のベランダから国民へ手を振ったり、夜会で言葉を並べたりするのとは、また違った感覚。
生まれて初めて身内ではない者達の前へ出て、緊張するなと言う方が無理な話であった。
しかし、いざ声を出す時になると、不思議とオウレンディアスの心も落ち着いていく。マイクを自身へと近付ける、ほんの数秒の間に、彼は平静を取り戻した。
彼はにっこりと笑みを浮かべ、マイクを顔に近付ける。
『今日この日。この場に出る許可をいただいた事を、とても光栄に思う。私はエルディラ五国連邦、クロスエルディラ国主、オウレンディアスである。
今日この場に来訪したのは、他でもない。……この『国』と我がエルディラ五国連邦、エルディラの名を冠する5つの国が、同盟を結ぶためである!』
声高々に放った宣言は、ナイン登場前のざわめきすら越え、場を騒然とさせた。
オウレンディアス王との同盟は、誰もが羨み、誰もが失敗した事でもある。以前同盟を結んでいた国は、大体が盟約を破棄された。どの国もエルディラの恵みを搾り取る事しか考えていなかったからだ。
これにより、エルディラとの繋がりを断ってしまった国が続出。同盟でなくとも僅かな恵みは受けられるものの、それまでに受けていた恩恵が大きすぎて、廃れた国も多かった。
その惨状を目の当たりにした者達は、オウレンディアス王との同盟を恐れるようになってしまう。
オウレンディアス王から同盟が持ちかける事は無い。現状、加工物の買い取りをしてくれる国以外は、エルディラにとって旨味の無いするめのようなものなのだ。
その彼が、自ら同盟を申し込んだ。
エルディラが龍の末裔である事を考えれば、特におかしな事ではない。だが、それでも、事情に明るくは無い者達が見れば、とても珍しい事のように見えた。
それほどまでに、彼の王は、歴代の王に比べて排他的だったのだ。
本人は、ある意味で歴代の王よりずっとフレンドリーなのだが。
『この国が更なる発展を臨めるよう、我々は手を取り合い、協力しあうことを、ここに誓う!』
オウレンディアスはマイクを持っていない左手を、空に向けてピンと伸ばす。
その表情は普段の彼を知る者ならば、信じられないほどの真剣さを表していた。
そして、彼の真剣さに応えるかのように、街にいる者達の全てが、同じく手を挙げていく。
途端。
「「「オォオォォオオオ!!!」」」
人々の声が重なり、周囲の森にこだまする。
人間が。龍が。同じように、この国の誕生を受け入れた。
ここに、龍の王国が誕生したのである。
街全体のボルテージが急上昇した頃合を見て、ナインはオウレンディアスからマイクを返してもらう。
日本人もお祭り好きだが、龍もそうであるらしい。既に日本人ではないナインは、火照る身体と疼く心を何とか押さえつけて、叫んだ。
『―― アステラーザ龍王国。第1回龍祭りの開催を、ここに宣言します!』
ナインの宣言により、祭りが始まった。
宣言と同時に、2体の古代天使龍と一匹の狼が描かれた紋章と、それをそっくりそのまま描いた国旗が、ステージ上に設置される。
黄金で作られた紋章は赤い太陽の光に照らされ、国旗は風に揺れる。
それらを大急ぎで設置し終えた、ユウトとクロウに目配せをしたナイン。彼等はナインをエスコートするように、またオウレンディアスを護衛するかのように、その場を後にする。
これから毎年、延々と続く創国祭、その第1回目の祭りが、始まったのだ。
また同時に。
アステラーザ龍王国。
これから先、教科書に必ず書かれる事となる国の名前は、この時初めて発表された。
やっとお祭りですよー。
現実の夏祭りは、随分前に終わっていますけどね……。
皆さんはくじ運、ある方ですか?
私は割と良い方ですよ! 多分!!
……多分……。




