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第五章の2ー帰ろう

第五章 元の世界へ!


帰ろう!

 パレードが終わって、かけるは皆に元の世界に帰ることを提案した。皆、この世界での冒険にも満足していた。元の世界のことも気になるし、かけるの提案に賛成して皆で帰ることになった。

 以前、かけるが一人で帰ろうとした時の様に、長距離バスを使う旅ではなかった。世界の英雄として、自家用ジェット飛行機でゴルゲ国に飛び、そこからジープでこの世界の最初の場所となったコロラン樹海まで送ってくれた。

 コロラン樹海の中の窪地の中の洞穴もすぐに見つかった。かける達は樹海の中の洞穴の場所を覚えていなかったが、場所の特徴をゴルゲ国で話すと、さすがにゴルゲ国では樹海の中の地図も作成されていたので、すぐに場所が特定出来た。

 窪地で送ってくれたゴルゲ国の獣人に「ありがとう」を言って窪地に下りて行った。樹海の中の窪地はゴルゲ国の開発により、もはや樹海と呼べない森の深い公園の様に道が整備されていたが、窪地はそのまま残されていた。


 かける達はこのコロラン樹海で初めて戦った獣人の兵士にも会った。やはり獣人は恐かったが、握手すると相手の獣人は笑みを見せた。

 あの時は獣人の化け物が本当に恐かったものだが、話し合ってみると、見た目は違っていても、元は人間なので見た目以外は人間と同じだった。まさか、あの恐かった獣人と話し、笑い合えるなんて思ってもみなかった。

 和平に伴い、人の出入りが活発化するに連れて、自動翻訳機が小型化されて、今ではイヤホンとマイク一体型のものを使えば、軽いし目立たないし嵩張(かさば)らない。全ての国の言葉を自動的に翻訳することが出来るのだ。

 ゴルゲ国でカリーナに出会った。今はゴルゲ国に住んでいるということだった。あの病院で出会ったおばあさんも一緒だった。

 そして、かけるがカリーナと一緒にロイド国を横断する時に(かくま)ってもらったロイド国の貧民街の一人に出会った。このゴルゲの国で一旗挙げようと出てきて、今ではかなりの金持ちになったということだった。

 さらに世界を股に駈ける盗賊のグシュタフも、かけるの見送りに来てくれた。盗賊稼業を止めて会社を起こしているとのことだった。世界を(また)に掛けて盗賊をしてきた経験を活かして、宅配サービスを行っているとのことだった。「早く!安く!」をモットーに日々忙しくしているらしい。

 コーネリアは大統領の仕事が忙しくて見送りには来れないが、夫のスコットと娘のサリーと息子のケリーは、旅行も兼ねてゴルゲの国に見送ってくれた。たくさんの人に見送ってもらって、かける達は嬉しくて涙が出てきた。


 いよいよコロラン樹海の窪地に下りて洞穴の中に入った。洞穴の中で寝ている内に、こちらの世界に来たのだから、同じ様にこの洞穴の中で寝ていれば、戻れるのではないかという楽観的な見方から来ているだけで、正誤の程は誰にも分からなかった。

 この洞穴が向こうの世界に戻るドアになっているのが正しいかどうかは分からないが、かける達には不安はなかった。

 戻れなかったらどうしようという心配や不安はなく、この世界でやるだけのことはやったという充実感で一杯であり、帰れなくてもなんとか出来ると思っていた。いつのまにか大きな自信がついていた。

 送ってくれた人達にさよならを言って、洞穴の中で七人だけになっていた。既に夜になっていた。

「とうとう、この世界ともお別れか!」と俊一が感傷にひたって言った。

「おい、俊一!似合わないぞ!」とホルヘに冷やかされた。

「でもこれで私達帰れるのかしら?」とキャサリンが訊いた。心配とか不安から訊いたのではなく、単純に帰れるかどうか訊いてみただけだ。

「それは明日になってみないと分からないよ。なるようになるさ!」とかけるが応えた。

「その通りね。明日のことを考えて心配しても仕方が無い。なる様になる。この世界での私達って、何が起きるか分からなかったものね。予想もつかなかった」と美樹が言った。

「そうよね!あたし達なんてオークションでかける以外の六人まとめて売られちゃったのよね。セット販売や福袋じゃないってのよ、もう!」と加奈が少し怒った風に言った。

「そう言えば、あいつ何て名前だっけ?私達を売ろうとした奴」と美樹が言った。

「ガストン」とキャサリンが言った。

「よく覚えているなぁ!俺なんかすっかり忘れちまったよ」とキムが言った。

「私の頭の中にデータとして覚えていただけよ」とキャサリンが言った。

「グシュタフから聞いたんだけどさぁ、美樹達を人身オークションにかけた自由商人ガストンは、あくどい商売が摘発され、資産を没収されてしまったということだったよ」とかけるが言った。

「本当?何で隠していたのよ!」と加奈が言った。

「いや、隠していた訳じゃないんだけど、言いそびれて……」とかけるは頭を掻いて弁解した。

「まぁ、いいわ!やっぱり悪は滅びたのね、これで何も思い残すことないわ!」と加奈が言った。


 「そういえばさぁ、元の世界に戻ったら、この世界で使っていた俺達の能力はなくなって普通の人に戻っちまうんだよなぁ!」とホルヘが(なげ)いた。

「そうか!そうだった。もうこうやって透視も出来ないんだ。今の内に見て記憶に焼き付けておこう」と俊一は加奈をじっくり見ようとして加奈に殴られて鼻血を出した。

「おいおい、俊一!お前のスケベは相変わらずだなぁ」とかけるが言った。

「かけるはどうなのよ!ここでの能力が消えて普通の人間になってしまうのは残念じゃないの?」と美樹が訊いた。

「もちろん、俊一ほどではないけど残念だよ!でもさ、ユーベルタンの残した言葉が気に掛かっているんだ。自分が特別であれば、自分は嬉しいけど、結局不公平となり争いの種を生むだけだってね。誰だって自分だけが特別でいたいものだもんね。でも自分に特別な力があって、誰かの心が悔しくなって争いになるんだら、自分も普通の人でいいと思うよ」とかけるが言うと、皆、かけるの言葉を暫し噛み締めていた。

「そうよね、私達は皆特別じゃない。普通の人。だからいいのかも知れないわね」と美樹が言った。

「そうだよな!自分も周りの人も普通の人で、トカゲの頭も胴体も尻尾もない。だからいいのよ」とキャサリンが言った。

「ユーベルタンは確かに極端な考えをしていたけど、彼の心の内にあるものは、僕ら誰でも持っている様に思うんだ。自分だけ良ければ、トカゲの尻尾を切り捨てても構わないってさ。そんなことを僕達に教えてくれたのかも知れない」とかけるが言った。

「ユーベルタンがぁ?それは買いかぶりだよ。奴はそんなことを考えずに、自分のことだけ考えて生きてきたんだよ」と俊一が言った。


 「確かに買いかぶりかも知れないね。ユーベルタンのことはともかくとしても、この世界で力を思う存分使って戦い冒険したことはワクワクしたよ。元の世界では味わったことが無かったワクワク感だったよ」とかけるが少々興奮気味に言った。

「……そうだよなぁ!俺も確かにワクワクしたよ!元の世界で考えられない様なことをしたからなぁ」とキムが同意した。

「確かにそうだよなぁ、面白かった」とホルヘも同意した。

「確かにそうね。こんなワクワク感を元の世界で感じることが出来たらいいのに……!」と加奈が言った。

「ここでの世界は現実ではないわ。所謂(いわゆる)、夢の中の世界、元の世界は現実よ!なかなかワクワクすることなんてないわ」とキャサリンが言った。


 「……あるんじゃないかな。僕は元の世界に戻ってもワクワクすることって自分でも創れるんじゃないかと思うんだ。夢の中だけワクワクして、夢から覚めて現実に戻ったら、全くワクワクすることなんてないというのはつまらないし寂しいもんね」とかけるは言った。

「何言ってんだよ!また戻ったら、いじめられっこになるんだぞ!ワクワクなんてしないだろう」と俊一が言った。

「俊一、そんなこと言うの失礼でしょ!」と美樹が、かけるを(かば)って言った。

 「いいんだ、美樹!本当のことだ。いじめられていた日々なんて、ワクワクなんてしなかった。毎日が嫌で嫌で仕方なかった。そのいじめられる日々に戻るなんて、考えただけでも嫌だ!」

皆はかけるに掛ける言葉が見つからずに黙っていた。

かけるはそのまま話を続けた。

「でもね、僕はいじめられっ子だった。これは過去の変えようもない事実だけど、帰ったらまたいじめられると思うのは、未来を過去の不安で暗い色にしてしまっているだけだと思うんだ。帰っても今度はもういじめられない。逆にいじめることもしないけど、ワクワクする人生を、自分の手で構築出来ると思うんだ!って、ちょっとカッコ良すぎるかな?」とかけるは軽く頭を掻いて見せた。


 「……そうだよ、かける!俺だって、水泳の大会で一度大失敗をしたことがある。その日はたまたま腹の調子が悪くて下痢していて、泳いでいる内に洩らしちゃったんだ。皆に笑われて『臭いっ!』『うんこたれ』て馬鹿にされてなぁ、悔しかった。何で俺だけこんな目に合わなきゃいけないんだ。何で俺だけ不運なんだってな!それから、また同じ過ちを繰り返すんじゃないかって恐かった時期もあった。でもかけるの言う通り、嫌な過去に(こだわ)って生きるのではなくて、未来は過去と違って新しく、自分で構築して生きるものだもんな!」とホルヘが言った。

 「……私は転校ばっかりだったから、友達が出来なかったの。皆と仲良くしたいのに、頭がいいからって皆と一緒に遊んでもらえなかった。仲間外れではないけど、皆一目置いている所があって、疎外感を感じていた。学校に行くのが嫌だった。でもそうよね、未来は自分が創るもの。これからは自分から仲間に入っていく様に、未来を構築すればいいのよね!」とキャサリンが言った。

 「私は空手の試合で優勝経験がないのよ。いつも二位とか三位どまり。頑張っているつもりだけど、大会前にまた今回もどうせ、精一杯戦っても二位どまりと思ってしまう所があるのよ。でもそうよね、過去は繰り返されない。今度は優勝するって思うことが未来を構築する一歩になるのね!」と美樹が言った。

 「俺も人のことは言えないな。過去ではないけど、俺さぁ、見ての通り、デブで脂っぽくて女にもてない。劣等感を持っていたんだ。だから(のぞ)きやなんかして、好きな女の子がいても、どうせもてないんだからって最初から(あきら)めていた。でももてたいならもてようと努力する。過去に何度女に振られても次回は振られない。未来を創ろうとしてみるよ!」と俊一が言った。

 「前にも話したけど、私はお嬢様として育てられたから、自由奔放(ほんぽう)な生き方に憧れていたの。でもどうせ私の家柄では出来ないと思って諦めていた。でも今まではお嬢様として生きてきたけど、私にも自由奔放に生きることも出来る。未来を築くことが大事なのね!」と加奈が言った。

 「俺はボディービルをやるからいつもトレーニングばかり。トレーニングか遊びかといわれて、遊びを選べば人生が台無しになるって教えられてきた。トレーニングだけの人生だから、トレーニングをやっても面白くない。でも自分のやり方次第で、遊びもトレーニングも両立させることも出来るはず。遊びの要素をトレーニングとして取り入れたり、そう考えれば、明日のトレーニングも楽しく出来そうだ。確かに未来は創るものなんだな」とキムが言った。

 一人一人語ることを強いた訳ではないが、皆其々(それぞれ)の思いを語った。皆が一通り話し終わったところでかけるは言った。

「さぁ、寝ようか!明日もきっとワクワクすることが待っている。自分のワクワクする未来を構築できる。そんなワクワクする明日を思って眠りにつこう。きっと戻れるさ!」

 外は夜も更けていた。皆はそのまま洞穴の中で思い思いの場所に寝た。寒くは無かったがシートと毛布を(もら)っていた。ライトを消したものの、かけるは興奮して考え事をしていて眠れなかった。他の皆も同様に眠れなかった様だ。朝方近くなってようやく眠りについた。

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