別れる時まで理解不能なままだった彼は後に痛い目に遭ってしまったようですね。……ま、私には関係のないことですけど。
「やぁ。久々だな、リリー。会うのはいつ以来だったかな」
「……お久しぶりです、カイルさん」
私リリーと彼カイルは婚約者同士。
しかしたまにしか会わない。
契約上は近しい関係ではあるものの、実際には迷いなく近しい関係と言えるような関係性ではない。
「今日は伝えたいことがあるんだ」
「伝えたいこと、ですか」
「ああ。今から伝えるからな? きちんと聞けよ? オケイ?」
「……どうぞ」
少し待っていると、彼は。
「リリー、君との婚約は破棄とすることとした!」
そんな言葉を投げつけてきた。
「俺は今まで君に付き合ってやってきた。だがもう限界だ。君は俺に相応しい女ではない。だからもうおしまいにすると決めたんだ」
「そうですか」
「何だその反応は! ……あいっかわらず可愛くないな。女ならもっと媚を売れよ、こういう時は泣いて謝るとかさ。それでこそだろ? なぁ?」
「すみませんが理解できません」
「ほら! そういうとこ! そういう態度が可愛くないんだ。そういうところが君のクソなところだ」
なぜそこまで言われなくてはならないのか。
正直理解不能。
彼のことは理解できない。
私とて彼に歩み寄ろうという心がまったくないわけではない、が、それでも彼を理解し受け入れることは不可能だ。
彼の発言はあまりにも失礼過ぎる。
それに、そもそも。私だって確かに一人の人間なのに、彼はそれをまったくもって理解していない。彼は私を人として見ていないのだ。だからことあるごとにこんなにも大きなずれが発生してしまう。
「ま、なんにせよ、ここでバイバイだ」
「そうですね……」
「じゃあな。せいぜい頑張れよ。構ってくれる男に出会えればいいな! ま、君に構う男なんて変な男ばっかだろうけどな!」
最後の最後まで、彼の発する言葉は非常に失礼なものだった。
◆
あれから数年、私は、心を通い合わせることのできる男性と結婚し穏やかかつ幸せに暮らしている。
ここへたどり着けたのはカイルが私を切り捨ててくれたから。
そう考えると彼への感謝も少しは生まれる。
あの一件があったからこそ今の幸せがあるのだということを私は決して忘れない。
生きていれば色々ある。けれども真っ直ぐに生きていれば救いはあるものだ。時に傷ついても、悲しい出来事に見舞われても、いずれ幸せを掴むことはできる。自分の人生をここまで生きてみてそのことに気づいた。
ちなみにカイルはというと、今はもうこの世界にはいないらしい。
何でも、あの後少しして怪しい女性に惚れてしまったカイルは、高額な物品を多数貢いでいたそう。しかし彼の想いが通じることはなく。女性に利用された彼は資産を搾り取られただけで終わってしまったそうだ。
で、その現実に絶望した彼は、自らこの世を去ることを選んだのだそう。
……彼には明るい未来はなかった。
◆終わり◆




