青空
「はい、お待たせ!」
目の前にどどーんと紙皿に乗った肉肉肉。
やっぱ、これがないとね。烏龍茶の入った透明な使い捨てコップだけじゃあ、テーブルがわびしい。
ハラミにロースにカルビだそうだけど、お肉の種類は、よくわかんない。食べるのは好きなんだけどなぁ。
さっそく、一切れを口に運ぶ。わたしにタレはいらない。とにかくお肉。
分厚くて、肉汁がたっぷり。きっと良いお肉だ。
あ、柔らかーい。
「焼き加減はどう?」
右手にトング握ったまま、けーくんがグルメリポートを期待してる。わたしは生っぽいのが好きで、けーくんもそれをよく知ってるんだ。
でも、お肉が大きくて、口一杯で上手く喋れない。なにか言おうとすると、口の端っこからお汁が垂れそう。指でOKマークを作って顔の前で振って見せた。
バッチリ!
笑顔をオマケに付けてあげる。そうすると、すごく嬉しそうに笑い返してくる。ついでに、頭を撫でるのだけは余計だけど。
あ、いただきます、忘れてた!
きょうは河川敷の公園で、バーベキューだ!
けーくんのお父さんが、高校の先生を辞めて、お友だちと作ったNPO法人ていうのが、ようやく認められて――どっかになにかを認めてもらわないとうまくいかないんだって――そのお祝いに、関係者とその家族や友達とかが集まって、このバーベキューパーティーを開催することになったんだ。
お父さんが、アイジンを作って温泉巡りしてるって言うのはけーくんの誤解で、NPOの設立準備とかで忙しかったんだとか。
北倉先生もそのNPOに参加したかったらしいけど、結局、学校の先生を続けることにしたらしい。
ひょっとしたらアイジンと同じ職場はまずいと思っただけなのかもしれないけど。
そのころぴょんはと言うと、向こうの席で高校のときの文芸部の友達と同窓会みたいな女子会を開いてる。みんなけーくんのお父さん繋がりらしい。けーくんのお父さんはきっと人徳者ってやつなんだろうな。ちょっと羨ましい。
春休みの休日は、雲ひとつなく暖かな、スッゴいいいお天気になった。
桜の花も奇跡のように満開で、風が通るとテーブルに薄桃色の花びらを運んでくる。
ときどきふわふわの綿毛も運んでくるけど、それはこの場所が近所の犬の散歩コースになってるからで、さっき誰かが言ってた〝ケサランパサラン〟なんてありがたいものじゃあ絶対にない。
柔らかな春の陽射しの中で、女の子はみんな入念に日焼け止めを塗ってて、わたしも顔が白塗りになってる。この時期の紫外線は意外と強力なんだ。
透明ジェルの方が白浮きしなくていいんだけど、去年の夏に使ったのがなんか肌に合わなくて、けーくんがこっちが良いよって買ってくれたんだ。
なんとかが入ってなくて肌にどうとかこうとかで、もう、よくわかんない!
「フッカみたいなデリケートな肌にはこれが良いんだよ」だって! もう、けーくん、わたしのことわかってるんだから嬉しくなっちゃう。顔、ドーラン塗ったみたいに真っ白になってもけーくんが良ければそれでいいよ。
それに引き換え、きっつい透明ジェルを塗りたくってる金井さんの面の皮の厚いこと!
そうそう、きょうは金井さんも来てるんだ。
六年生で既に高校生みたいな胸してたけど、中三ともなるともうプロ級だよね。あれならもうどこのお店に出ても恥ずかしくないよね。うん。
でも、意外とけーくんは小さ目の胸の方が好きだってことがわかった。何しろ、わたし、小さいまんまだけど、すごく気に入ってくれている。
その巨乳女はと言うとバーベキューもそこそこに向こうの広場でほのかと一緒に子供たちを集めてバドミントンだ。
中学でもバドミントン部で県大会のベストなんちゃらだとかになったときはほのかに誘われて県立大の体育館まで応援に行った。あの胸で良くあんな機敏な動きができるもんだと感心したもんだ。
あの子が動くたんびに周りの男子が「おー」とか「あー」とか声を出すんだけど、彼らの視線の先にあるのは絶対にシャトルコックじゃない。
そんな乳牛娘とほのかがなにかにつけてけーくんの周りをちょろちょろして怪しいと思ってたんだけど、なんだかあの子たち二人、付き合ってるらしい。きっかけは中学に上がった金井さんにバドミントンに誘われたとき、わたしはキッパリと断ったんだけど、ほのかが遊び半分で付いてったのが〝底なし沼〟の始まりだったみたい。あれって、ひょっとしてナンパだったの?
ほのかはさんざんわたしに「お兄ちゃんさんいいなぁ」とか「文香、要らなくなったらちょうだいね」なんて言ってたのに、すっかり違う道に進んでしまった。けーくんには「わたしの思い出はだいじに取っといてねぇー」なんて意味ありげな言い方してたけど、きっと〝キスが下手くそ〟っていうのがホントだったってことで間違いなしだね!
まあ、あの二人がけーくんのライバルから消えたのはひと安心だけど。
でも、そういう世界もアリなのかもしれないけど、男好きのわたしは付いていけないのでそれ以上二人のことを想像するのはやめた。あとは勝手によろしくやって、満開の百合の花を咲かせてください。
「野菜も、食べる?」
けーくんが言いながら、頭を撫でてたかと思うと、今度は肩を揉んでくれる。毎度おなじみのセクハラ攻撃。肩に置いた手はいつもなら胸の方に降りてくるんだけど、ここではダメですよ!
そんな暇があったら、早く、女王様に食べ物を運びなさい!
とりあえず、野菜はお断り。まだまだお肉だ、いくらでも食べれるんだ。
あ、言わなくてもわかるだろうけど、豚肉もパスね。どっかのバカが豚肉はヘルシーだからって、豚ロースも買い込んでたらしいけど、たらふく焼肉食べてビール飲んで、ヘルシーもへったくれもないでしょうに。
わたしは絶対豚肉なんか食べないからね。まったくぅ。
けーくんがトングを振り回しながらコンロに駆けていく。
あれは、意気揚々っていうのかな?
あー、けーくんって、ホントわたしのこと、超、愛してるんだなあ。なにしろきょうは特に気合いが入ってるはずだし。
口の中にまだお肉が残ってるのに、次のお肉を割り箸で突っ込んだ。
愛が一杯のお肉がお口に一杯。幸せだ! たぶん、わたし、メチャメチャハッピーな顔になってるんだろう。
「優しい旦那さまだねぇ」
向かいに座ってたミントちゃんが、羨ましそうに言ってくる。本人はからかってるつもりなんだろうけど、アラフォー独身の言葉に、中一女子をからかうほどの余裕は感じられない。
わたしは、にんまりと笑って頷いた。
ミントちゃんは、けーくんのお父さん――高森拓也で通称『たあくん』っていうんだって、わはは――の大学のときからのお友達。
このNPO法人の代表さんなんだ。
最初にみんなの前で挨拶したときは、できる女って感じでキマってたんだけど、いまは正体不明でぐでんぐでんだ。
ほんとの名前は、美藤香織なんだけど、たあくんが「『ミントのカオリ』で、ミントちゃんなんだ」って紹介してくれた。
「じゃあ、ミントの香りしてた?」小さい声で、ちょっと怪しげな雰囲気だして質問してみた。
「ええ!? いや、香りって、ハハ、名前だよ名前。どこったってさ……」
小学生相手に赤い顔して慌ててた。
それで、たあくんのアイジン疑惑の本当の相手はミントちゃんだと直感。
たあくんとミントちゃんは、少なくとも一回ぐらい、二、三回かもしれないけど、結構たくさんかもしれないけど、なにかあったんだろうなって思った。
これは、女の勘だ。
まあ、けーくんのお母さん――これがまた翔子で『ショコラ』って! ――は可哀想だよねえ。
もしけーくんが浮気なんかしたら、絶対に許さないからね!!
バーベキューコンロに向かって、周りの大人とおんなじくらいの背丈になったけーくんがミディトマトの丸焼きの味見をしてる。トマト食べれるようになるなんて、あの子も大人になったもんだ。
あの大事件から、もう二年。
わたしはようやく中学生になった。けーくんなんかもう中三、受験生だ。
けーくんはあの後、気持ちを切り替えて、聖隷中学の二次募集の試験を受けた。
〝北倉お母さん〟が本当に勝手に申し込みをしてしまってたらしい。
奇跡みたいに合格して、可愛い女子がいっぱいの学校に通うようになったんだ。山盛りの聖隷乙女に囲まれて、やる気いっぱいになったのか、成績は学校で一番らしい、算数と英語以外は。
算数と――あー、中学になったら数学って言うのか――英語はナントカさんって同じクラスの女子に負けてるらしい。二年の春のキャンプの頃からナントカさんって名前が会話の端々に頻繁に出てくるようになって、そいつと成績争いをしてるとかなんとか言っちゃってるけど、とてつもなく怪しい。キャンプの時の写真を見せて貰ったら、謎めいた雰囲気の長い髪の女だった。ガリガリに痩せてるんだけど、よく言えばモデルスタイル。胸がないのもけーくん好みで、これはヤバいと思ったね。
いつだったか、友達と勉強するってどっかの図書館に行ったらしくて、お土産にって持って帰ってきたのがカツサンドだった。
お土産にカツサンド? とか思いながらも、肉厚のカツと衣もソースも絶品で、「うま、うまっ!」って、四切れ入ってるうちの一切れはけーくんにあげて残りをわたしが食べたんだけど、マクドナルドならビッグマックのセットが三つも買えるような高級サンドイッチを中学生がお土産に買ったりはしない。あれは絶対にもらったんだ。だってサンドイッチの箱に貼ってた店のシールがナントカさんの名前と酷似してるじゃん。
絶対、あれは伊勢崎の有名なトンカツ屋の娘だ。
成績争ってるライバルと仲良く図書館で勉強なんかするんじゃあない!
いや、図書館って言ってるけど、本当はその子の家でだったのかもしれない。けーくんが女の子と二人でだなんて、なんの勉強だか分かったもんじゃない。それは既にわたしで実証済みだ。
あれはきっとお土産なんかじゃなくて、うしろめたさの罪滅ぼしに違いない。
あー、悔しいぐらいあのカツサンド美味しかった。
くそっ、また食べたいけど、二度と豚肉なんか食べてやるもんか!
それもこれも節操のないけーくんのせいだ。
わたしはそんなけーくんの浮気現場を押さえるために、血を吐くほどの勉強をして、彼とおんなじ中学を受験して、なんとこの春から本物の聖隷乙女になれたのだ!
わははは。
もう、一生分の脳ミソを使い果たした。たぶん十年は寿命が縮んだと思う。
で、今日はそのお披露目を兼ねて、超可愛い聖隷乙女の制服を着てきたんだ。おっきいリボンタイに可愛い襟と袖口のブラウスにオシャレなブレザーと幅広プリーツのスカート。この制服でけーくんの隣に張り付いてトンカツ女が近寄らないように、しっかりアピールしてやるんだ。
六月には修学旅行だってあるっていうからね、釘を刺しておかないと。
入学したらまずけーくんを引っ張ってその女の前に行って「宅の主人がいつもお世話になってますそうで、オホホホホ」とか挨拶してやるんだ!
あー、コンロのところで、けーくんがまたあの子と話してる。
きらりちゃんだ。毎度おなじみ、輝星と書いてきらりと読む。名前そのものがキラキラネームだ。
きょうのバーベキューは全然関係者じゃないのに何故かけーくんにくっ付いて参加してきた。
あの子はけーくんに気がある。もう断言する。
だって、前々からわたしがけーくんと仲良くしてると、もんのすごおい目で睨むんだもん。
しかも、あの子は意外とけーくんのお気に入りなんだよな。けーくんって、いい感じの距離感で懐かれるとふらふらしちゃうんだ。構いたくなるんだろね。それに、けーくんが好きな芸能人にどことなく似てて、ああいう見た目が好みなんだ。
華奢で青白くて儚げで、ほら、小説とかに出てくる病気で死んじゃう女の子みたいな。なんか、ずいぶんわたしと違うじゃん。
意外とクラスメイトのトンカツ女よりこの小娘の方がある意味ヤバい存在かも知れない。
儚げなクセしてグイグイいってる。知らないうちにけーくんのそばにいるんだよね。
前に、あの子からバレンタインのチョコを貰ったときはホワイトデーにお返しのプレゼントをこっそり渡していたのをわたしは知っている。
ほら、いまあの子がしてる星のヘアピン。
まあ、ギリ、それぐらいは許してやろう。わたしだってあんまり人のこと言えた義理じゃないし。
いや、もうそれは内緒。
けーくんはこの二年でぐっと大人になった。
肩幅も広くなって、背も伸びた。色んなところが大きくなって、男っぽくて、結構かっこいい。
中学でもモテててるんじゃないかと思う。
向こうが寄ってくるのはけーくんの責任じゃないからね。でも、けーくんはわたしにだけ寄ってくるように!
あの日、あのとき以来、けーくんはなんだかんだいいながらもわたしにだけ寄ってきてくれてる。わたしだって心の中ではちゃんと信用してるんだからね。
でも、寄ってきてもいつもキス止まりなのはどういうことですか?
多少服の上から身体に触れることはあっても、いつもおっかなびっくりだし、そういう面では度胸がないんだよね。したいのにできないのは真面目なのとは違うと思う。
おそらく、あんな大きな事件に遭ったから、辛い思い出とか心の傷とかトラウマ? とかを心配して、そういうムニュムニュしたことに踏み切れないってこともあるのかもしれないけど、わたしはそんなにヤワじゃない。
ちょっとやそっとで傷付いたりしないし、過去を引き摺ったりもしない。
だけど『ご自由にどうぞ』って、わたしから言うのも変なので黙ってるんだけどなぁ。
そんなけーくんが『フッカが中学生になるまで待ってるよ』と耳元で囁いたのは去年の夏休みのことだ。
いやいや、アンタ、ふつう中学生でも早いからね! まともな人なら『キミが大人になるまで待つよ』なんて心にもないこと言うんだと思うよ。
きっと限界が近いんだろうなとあのときの目付きで想像できた。あれは立派な犯罪者の目だ。
まあ、わたしとしてはその場で〝即〟犯罪者になってくれてもよかったんだけどね。
けーくんがこっちをチラチラ気にしながら、紙皿に野菜を盛り付けてる。
「けーくん! お肉、お肉ぅ!」残ってたお肉を頬張って、けーくんに空いた紙皿を振った。
笑ってトングを振ってる。
お肉に期待、大!
で、で、で! わたしたちは二人で相談して、きょうこの日を〝記念日〟にすることに決めたんだ。なにしろ今夜けーくんの家はもぬけの殻。絶好のチャンスだ。
アイツの部屋はおっさん臭いからもひとつだけど、おととしまでおばあちゃんが使ってた離れの部屋はいまは片付けられてて静かで落ち着くと思う。
『きょうからわたしはけーくんだけのものよ』なぁんて後ろにハートマークを五つぐらい並べてあげたい。
あっちの方では、たあくんがショコラのお皿にお肉を取ってあげて、二人してビール缶を握ってる。
仲が良いのか、罪滅ぼしなのか。
でも、もうさんざん大人なのに『たあくん』『ショコラ』だって。いまでも〝特別な時間〟は、そう呼び合ってるんだってさ、けーくんには内緒だけどね。
大人は、なんか女の子にはそういう話をしやすいみたいだ。ちょっと、聴いたらイロイロ教えてくれる。
そういえば、ウチの親はなんて呼び合ってたんだろう?
ラブラブだと思ってた二人だけど、あれからすぐに離婚した。わたしのいないあの三日間で決着を付けてたらしい。伊香保から帰ったらママはとても穏やかな顔をしてた。
わたしの知らないDVやハラスメント。単身赴任先での不倫。
久坂くんの素性をうすうす感づいていながら家に招き入れた罪。
結局、優秀なのは理系の人間って、文系の隣家をバカにしてたんだ。
最低の夫で最悪の父親だっけど、男としても、人としても最低だった。
「ねえ、ミントちゃんは、たあくんのこと好きだったの?」
ミントちゃんは、午前中の準備のときからチューハイの缶をずっと握ってて、しかも十五分毎に缶の絵柄が変わっているから、もうずいぶん酔っぱらってる。
「突っ込んでくるわねぇ。そんなのないよ」
テーブルに突っ伏して、ゾンビみたいに顔だけこっちを向いてる。
「そうなんだ、だってNPOのパートナーに選ぶんだもん、なんか特別感あるのになぁ」
面白いから、もう一本、チューハイのストロング缶を開けてあげた。
「恋する女は鋭いなぁ……」
むっくりと起き上がって、ちょっと目をとろんとさせて、チューハイをゴクゴク。
「内緒の話だよ?」
「うん、うん」
もう、話したくてうずうずしてるんだね。
「一回だけ、お酒飲んでたとき、勢いでね、へへへ」
「わぁ、すごぉい。それじゃ、好きになっちゃった?」
「だから、そんなのないって、それっきり」
「たあくん、もっかいしようって言わない?」けーくんならきっと何回でもしようって言うだろう。
「言わないよぉ。お互い、スッキリしておしまい。ていうか、かえって反省してるんじゃない?」
「そうなの?」
「だって、奥さんいるのにしちゃったら、ねえ?」
「そっか、そうだね。ショコラちゃん可哀想だよね。内緒にしないと」
そうだよ、わたしだってけーくんにはそういうことは内緒にしとかないとって分かる。
「それでさ、アタシがNPOのメンバー探してたからね、ショコラにバラされたくなかったら、言うことを聞け! って、手伝わせたの…………」
ミントちゃんがニヤッて笑う。
バラ……、バラされたく……なかったら?
言うこと、聞け……、聞け?
あれ、なんか胸が、心臓が、痛い。
息が、息……、苦しい…………。
けーくん、ねえ、けーくん、お肉はもういいからさ、ちょっとこっち来て、このオバサン、なんか変なこと言うの。
「……なーんてね。冗談だけど、さ……。えっ? 文香ちゃん、どうしたの?!」
……もう、何してるの? けーくん、早くおいでよ。さっきみたいに、またヨシヨシして! エヘヘ、もう、ここでチュウしちゃう?
あれ? あっ、あっ、けーくん、オシッコ……、あ、あーあ、ゴメン……、エヘヘ、あったかぁい……。
けーくん、みんなには内緒にしててね。
「……文香ちゃん、文香ちゃん! 誰か!! 文香ちゃんが……」
もう、オバサン、ウルサイ!
くぷっ!
あ、あ、ゴメン。なんか、怒ったらけーくんが焼いてくれたお肉、戻しちゃった。
くぽっ、くぽぉっ!
あれぇ、おかしいな。食べ過ぎちゃったのかな?
うっ、うぷっ! けぽぉっ!
ゴメン、ちょっと、こっそりチューハイ飲んじゃったからかな。
ゴメン、怒んないで、けーくん、ああ、せ、制服、汚しちゃった。
わたし、聖隷乙女に、なったの、けーくん、と一緒、の学校に、行きたかったから、がんばっ、たの、へへへ。
ぐぷっ……。
ね、みんなが、来る前に、シャワー浴びなきゃ、ね、一緒に入る?
こ、こんどはちゃんと、あ、洗いっこして……。
「そっと! そっと寝かせて! 救急車! それと管理事務所に、AEDを!」
「いま、取りに行ってる!」
「フッカ! フッカ、しっかりしろよ!」
ああ、けーくん、もう、大丈夫。
大丈夫ってば! なんか、もう苦しくなくなったよ。
でも、ちょっと、周りが、うるさくて、ムードないなぁ。
やっぱり、春休みはわたしの卒業旅行を兼ねて、宝仙に行けばヨカッタかなあ。おじいちゃんに頼んでさ。
榛名湖のアヒルのボート、乗りたかったなぁ、あ、そっかあれ、白鳥だったね。
「オレが、オレがするからっ!」
あ、だあれだ、覗き込んでるの。
やったぁ! けーくんだぁ!
けーくん、けーくん、だぁい好き!
抱っこしよ、チュウしよ! ね、ね、イッパイ!!
あっ、こらっ、ダメだよ、ホントにチュウしちゃあ。
チュウしたいなんて冗談だってば!
こんなとこで!
もお、強引なんだからあ……。
みんなの前で、ちょっと、嬉しいけど。
へへへ、金井さん、ほのか、けーくんとわたしのキッス、ちゃんと見てる?
上手なんだよ。けーくんはわたし専用だからね。
盗ったらダメだからね。
あー、手、伸ばしたら、けーくんを抱っこできそうなのにな。
なんか手に力が入んないよ、けーくん……。
「だめ、喉が、吐いたのが詰まって……」
「文香ちゃん、大丈夫だからね、しっかり!」
もう、騒々しいなあ……。
ああ、なんか寒くなってきた。花冷えっていうのかなぁ。
寒い、けーくん、寒いよぉ……。
あっためて………………。
「白井さん! わかる? 白井さん!」
「フッカ、フッカ!」
「文香ちゃん!」
「フッカ、ほら! AED、AED、AEDが……」
……あれ? すごい、真っ白だ。けーくん、ほら、あのときみたいだよ。
寒いと思ったら、霧だったんだ。
あのときも真っ白な世界でけーくんがわたしを見つけてくれたんだよね。
後ろからぎゅって抱きしめてくれて……。
『……充電しています。体から離れてください……』
わっ、いまのなに? カミナリ?
もう、怖いよぉ。
なんか、カミナリ鳴るって、夏みたいだね……。
ああ、今度の夏休みにはさ、やっぱり、榛名湖、行こうよ…………。
――――――――。
ああ、なあんだ、そっかあ……。
けーくん、ゴメンね、ぜんぶわたしのせいだから、ゴメンね……。
せっかく、中学生になって一緒に通学出来ると思ったのになぁ。
またあの頃みたいに手を繋いでさ。
榛名湖も伊香保温泉もまた行こうねって言ってたのにね。
あーあ、次に、とか、また今度、とか、きっといつか行けるって思ってたんだけどなぁ。
ずっと、ずっと先までさぁ……。
「……救急車! こっち! こっちぃ! 早く! 早くしてよぉ! フッカァ、フッカ、フッカァァー!」
あの〝虹のゴミ箱〟ね、わたしの宝物なんだよ。
あれからさ、けーくん、あんまりカードくれなくなったけどね。
あのとき、キス、しなきゃ良かったのかなぁ、わたしたちって…………。
「フッカ、ねえ、フッカ…………」
いま、手、握ってるのけーくんだよね。
ゴメンね、ねえ、泣かないで。
お兄ちゃんが泣いちゃダメだよ。
ねえ、上、見てごらんよ。
ほら、空があんなに…………。
青い




