『迎えに来た人』
前回、自転車に乗った“軍服の男”が現れ、
「娘を探している」と呟いた。
そしてユウの制服に隠された、もう一つの“記憶”。
――今回、ユウがなぜ成仏できなかったのか。
その理由が明らかになります。
夕暮れ時。
私は、坂口くんと一緒に図書館で古い資料を調べていた。
「……やっぱりこの辺、戦時中に“仮設病棟”だったみたいだな。あと、火葬場……身元不明者の……」
「うん。しかも、施設が建て替えられるたびに、前の建物の遺構が残されたまま“重ねられて”たって……」
ページをめくる指が、少し震える。
その時だった。
「……あ、これ……見て、坂口くん」
私は、一枚の白黒写真を指差した。
古い、戦時中の校舎前。
そこに映っていたのは――
今のユウが着ているのと“まったく同じ”制服の少女だった。
「……まさか、ユウって……この時代の人……?」
坂口くんが、ぽつりと呟いた。
私の頭に、ユウの言葉がよみがえる。
「私……まだ、行けない気がする……」
「……成仏ってさ、幸せだったなって思えた瞬間、
――一度この世から去っても、いいかなーって」
学校の外に出たことがないユウ。
いつも“今の制服”じゃなく、“古い制服”を着ていた理由。
“見える人”と出会って、初めて楽しい時間を知ったユウ。
だから、まだ「このままでいたい」と願ってしまった――
でも。
その「ままでいたい世界」を、強引に終わらせるように。
あの男は、来たのだ。
――夕方。
私は、窓の外に気配を感じて、そっとカーテンをめくった。
倉庫の前。
そこには、また“あの男”がいた。
黒く焦げた軍服。
そして、自転車の後ろには――
あの日、落ちた札が一枚、無造作に括りつけられていた。
「……娘……どこ……」
「むすめ……むすめぇ……ユウ……」
私は、心臓を掴まれたような気がした。
「……ユウ、なんで返事しなかったの?」
ユウは俯いたまま、小さく呟いた。
「……あの人が、迎えに来ないから……
きっと、私のことなんて、もう……」
そのとき、外から男の声が響いた。
「ユウ……そこに、いるんだろう……?」
言葉の先に、確かな“感情”があった。
それは、ただの呪いや、怨念ではない。
――迷い続けた誰かが、ようやくたどり着いた“声”だった。
ユウが、泣きそうな声で言った。
「……わたし、行きたくない……
だって、こんなに……楽しい学校生活だから……!」
私は、ユウの手を握った。
「ユウ……行くか、行かないかは、ユウが決めていいよ。
でも、ちゃんと“今のユウ”を伝えなきゃ、相手もわからないままだよ」
ユウは、ゆっくりと頷いた。
「ねぇ、つむぎ。成仏した後、誰かになれたとき
また、こうやって楽しく学校で過ごせるのかな?」
「うん、きっと……ね」
ユウは、自分の心の中で、まだ誰にも見せていない答えを探しているようだった。
ーーその時
坂口くんが花壇の赤い花のことを話し出した。
「もしかして、あの赤い花って土地に憑いている霊のものだな」
「あの花……“鍵”みたいな役割ってこと?」
霊は何か目印でそこに出ることが多い。
例えば、生前に大切にしていた大切なものだったり。
その大切なものが“あの花壇の赤い花“
花壇の中から出てきた白い手はユウ自身の手だとすると
娘を探しやすくなるはずだ。
「ユウ、どうしたいんだろうね?」
(でも……これで、“終わる”なんて、思えなかった)
札は、もう――残っていない。
ご覧いただきありがとうございました。
『迎えに来た人』では、ユウの“未練”と“願い”、そして“繋がらなかった想い”が描かれました。
焦げた軍服の男は、ユウを探す“父”だったのか。
それとも、重なり地に残された“記憶”が生んだ別の存在だったのか。
ユウは、何を選び、どこへ向かうのか――
次回、第21話『最後の制服』
いよいよシリーズ最終話です。
すれ違ったままの声が、夜の中で交差し、
誰かの“想い”が、ようやく届く瞬間を迎えます。
どうぞ、最後まで見届けてください。




