『最後の制服』
今回はシリーズ最終話。
ユウがこの学校に留まっていた理由、
そして彼女が選ぶ最後の道。
静かに、でも確かに“別れ”が訪れる瞬間を描きます。
夕暮れの校庭は、もう夏の匂いがしていた。
グラウンドの端、花壇の前に、私と坂口くんは立っていた。
そこには――
ずっと私たちのそばにいた、ユウがいた。
「……ユウ」
呼びかけると、ユウは笑った。
でも、その笑顔はどこか寂しかった。
「ねぇ、つむぎ。
もし私が、もういなくなったら……悲しい?」
胸の奥が、ぎゅっと縮まる。
「悲しいよ。でも、ユウが決めたなら……応援する」
坂口くんも、ゆっくりと頷いた。
「……ずっと見てきたからな。
お前、もうこの学校に未練しかないだろ」
ユウは小さく肩をすくめた。
「うん……だって、戦争のころは、楽しい学校生活なんてなかったんだよ。
教室は寒くて、みんな怯えてて……
だから、つむぎたちと一緒に過ごす毎日が、すごく……幸せだった」
その声は、泣き出しそうに震えていた。
私はユウの手を握る。
冷たいはずなのに、なぜか温かい気がした。
「ユウ……楽しかったって思えるなら、もう……」
ユウは、ふっと目を閉じた。
その時、グラウンドの向こうで風が吹いた。
倉庫の前に、あの自転車の男が現れた。
焦げた軍服、黒く空いた目の穴。
でも、今度は――
彼はただ静かに手を差し伸べていた。
「……むすめ……迎えに……来た……」
ユウは、その手を見て、私に振り向いた。
「ねぇ、つむぎ。
私……行っても、いい?」
涙がにじんだ。
でも、笑った。
「うん。……行ってらっしゃい、ユウ」
坂口くんも、短く一言だけ。
「……またな」
ユウはにこっと笑って、男の方へ駆けだした。
その姿は、だんだんと光に溶けるように消えていく。
最後に聞こえた声は――
「ありがとう……大好きだよ」
静かな風だけが残った校庭。
花壇の赤い花が、一輪、そっと揺れた。
(……ユウ、またどこかで会えるよね)
心の中で、そっとつぶやいた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
『見えちゃうけど、無視力MAXです。』は、これにて完結です。
ユウが最後に選んだ道は、
きっと「幸せだった」と思える場所にたどり着くための一歩。
この物語を通して、
あなたの身近な日常にも、そっと寄り添う“誰かの想い”を感じていただけたら嬉しいです。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
また次の物語でお会いしましょう。




