19 試合再開
4回裏。
ゴブリンズ攻撃ターンで試合は再開された。
フルカウント。
バッターボックスにはゴブリンズのエース。
真空剣の使い手のギガスウォーリアが悠然と立っている。
長身の彼はまさしく反則と言える二刀流で勝負を再開している。もちろん審判は何も言わない。
マウンドには、ピッチャーの姫菊。
彼女が選択している野球スーツは、圧倒的に球威が伸びるスパイラルアロー。
観客席では一眼レフの魔道カメラを握った野球ファン達が、エールを送っている。
「やれー! ギガスウォーリア!」
「美女を脱がせろ!」
ギガスウォーリアは、
「ふ、好き勝手言ってくれるぜ」
と余裕な表情でバット(真空剣)を素振りしているが、内心焦っている。
それは自分の後方に不気味に座っている仮面の女の存在によるものだ。
なんと彼女が装備しているのは、最も脆弱装甲であるシャットダガーなのだ。
最初その姿を見たと瞬間、舐めているのか、こいつと思いもしたが、同時に猛烈な違和感を覚えたのもの確かである。
己の実力に対してい余程の自信がない限り、このような装甲を装備しないだろう。
逆を言えば、この女は俺をバカにしている。
だって攻撃さえ当たらなければ問題がないのだから。
女は俺の攻撃など軽くかわせると言っているのと同じなのだ。
そう考えると、俊敏性を圧倒的に補正するこのショットダガーという装甲は脅威である。
もしかして暗殺を考えているのだろうか。
確かにバッタボックスに立った打者は、ピッチャーと対峙している以上、キャッチャに背を向けてしまう。
そこをついて暗殺してくるキャッチャーはわりと多い。
暗殺専門のキャッチャーは、バットを振る瞬間に背中から長ドスやレイピアを突き刺してくるのだ。
もちろん走者以外の攻撃は反則ではあるが、反則をしても相手チームに追加点を与えるだけである。相手チーム全員殲滅させれば何ら問題はない。
仮面の少女は口を開いた。
「何を怯えておる? 私は暗殺などしない。安心して構えておけ。お前を殺すのは姫菊京香なのだから」
ギガスウォーリアは不思議に思った。
殺さずを誓うあの女が、俺を殺すだと!?
だが、そう口にするとアスカは立ち上がり、ギガスウォーリアの心臓の位置にミットを構えた。
姫菊は「え? アスカさん!?」と驚く。
「私は野球においては初心者。変化球まで処理する腕は持っていない。この位置に投げなければ取れない。私が取れなければ、振り逃げされてしまうぞ。いや、それだけで済まないだろう。お前の弾は300キロをゆうに超えている。おそらく観客席に突っ込み、死者がでる。さぁ観客を殺すか、目の前の打者を殺すか、選べ」
姫菊は観客たちに視線をやる。
さっきまで美女を脱がせろ! と蔑んでいた観客達は逃げようとしているが、あまりの人数で身動きが取れていない者が大半だ。おそらく姫菊のボールが観客席に突っ込んだ瞬間、その一帯は爆破され、その衝撃で軽く10人は死ぬだろう。
だったらこのまま真正面に投げるしかないのか。
姫菊はギガスウォーリアを見た。
ギガスウォーリアの喉が鳴る。
アスカはにやりと笑い小さく告げる。
「その真空剣だと、球を両断することはできても跳ね返すことはできないだろう。二つに割れた球はそのままお前の心臓をえぐり取ることになる。さぁ、これを回避するには方法はひとつだけだ」
確かにそうだ。
断裁を得意とする剣の類で高速の弾は処理できない。
これを対処するには――
アスカの言葉でギガスウォーリアは分かった。
これを対処するには鈍器。つまり通常のバットを装備すれば、弾き返すことができるかもしれない。
しかしそれでは……
ただのノーマル野球になってしまう。
俺達は殺人野球をしなくてはならないのだ。
観客達の声にこたえる為にも、たくさんの人を殺めなければならない。
果たしてそれで良いのだろうか!?
「早く武器を交換しないとピッチャーは投撃のモーションに入るぞ」
「タ、タイム!」
ギガスウォーリアはこんなことなら針金を巻いたスパイクくらい用意しておくべきだったと思いながらも、渋々と通常のバットを装備した。
それと同時にアスカは座り、ミットを低く構えた。
姫菊はナックルの要求とすぐに分かった。
アスカは野球の初心者と言ったが、姫菊はその見事な手腕を前にしてとてもそのようには思えなかった。そんな姫菊の顔が少し明るくなる。
「アスカさん。もしかして、彼にも殺さずの野球をさせるために……」
アスカは静かにこう答えるだけ。
「何度も言ったはずだ。ここは戦場。そんな生ぬるい考えだとすぐに殺されてしまうぞ」
次の瞬間、姫菊の手からボールが放たれた。
同時にバットのスイング音が場内にこだまする。
どうなったんだ!?
場内の観客達はその結果を待った。
姫菊の渾身のナックルボールが、見事、アスカのミットに沈んでいた。
「ストライクゥゥ!!」
アンパイアの声で、この回は終了した。
ギガスウォーリアはバットを叩き折ってアスカに向かって叫んだ。
「てめぇ……! 遂に俺を怒らせたな! いいのか。俺はピッチャーとしての能力の方が高い。今期の成績は15勝で、防御率2.15。三振数は81、殺人数は27だ。てめぇの頭蓋骨に渾身の弾丸をめり込ませてやるから覚悟しとけ!」
アスカは静かに口を開いた。
「忘れたのか? さっきも教えてやったがひのきのバットに打ち返せぬものはないのだぞ。いよいよそれを教えてやれる時がきたようだな」
ギガスウォーリアはアスカをギラリと睨んだ。
……そうか。やはりそうか。ゴミのようなバットで勝負を挑むとは、奴はそうとうの手練れ。だが、ひのきの棒のようなゴミで挑んだことが最大の誤算よ。何故ならこちらにはとっておきの最強ボールがあるからだ。ゴンザークのスポーツ用品店が5年の歳月をかけてやっと開発に成功した幻のボールだ。これさえ使えば、如何なるテクニックを持ったプロ野球選手であろうとも容赦なく吹き飛ばせるぜ。ククク。その済ました冷徹な仮面をこいつで剥いでやる。




