20 ひのきのバットの性能1
攻守交替のアナウンスが告げられ、バッターボックスにはアスカが立っている。
野球スーツは相変わらず脆弱な防御力のショットダガーのままである。
だが先ほど見せた見事なプレーを目にしたキャッチャーは、なかなか攻撃を仕掛けられない。アスカの背中をマスク越しにじっと睨め付けている。もしかして何か特別な力を秘めているのではないのか、と、そう勘ぐっていた。
ユニカル陣のベンチでは姫菊とアークがハラハラした表情で見守っている。
実は交代の間にこのような経緯があった。
もちろん野球経験者である姫菊が先陣を切るつもりだったのだが、アスカは二人を一蹴してバットを握った。
「お前たちだと塁に出たらゴブリンズの猛攻にあうだろう。そしてすぐ死ぬ」
「な、なんだと」とアーク。
姫菊は、
「猛攻にあうことは分かっています。だけどその猛攻をかわして必ず得点してみせます」
「だがもう体はボロボロではないか。相手は容赦なく剣を振りかざしてくるというのにまだ生ぬるい殺さずの野球をしようというのか?」
その言葉に姫菊は過剰に反応する。
「殺さずの野球をを広めることが私の使命ですから」
その意見に賛同しているアークも強く頷く。
「だが奴らから見たら、お前たちの野球は反撃してこない生ぬるい間抜けなプレーにしか映っていないだろう」
「……」
姫菊は悔しかった。
涙交じりの目でアスカをじっと見ている。
だが姫菊は、先ほど見せたアスカのプレーから、自分の信念である殺さずに通じるものを感じた。
だからなのかもしれない。
姫菊は何も言い返せなかった。
肩をぶるぶると震わせたまま、黙ってじっとアスカを睨め付けていた。
「ふ、まぁ、見てな。私が奴らを黙らせてやる。このひのきのバットでな」
数分前に、このようなことがあったのだ。
バッターボックスに立っているアスカを見て、場内にいるほとんどの者が妙な感覚に襲われていた。
なんだ、ありゃ。
アスカの手にあるのは、本当にバットなのか!?
そういった心境だったに違いない。
何故ならアスカの手にあるバットは、横連結した不格好な物体だったからだ。
そのことにより、当たる面積は大幅に広がっている。
確かにこのバットなら、打率は上がりそうだ。
だが皆さんもご存知の通り、野球というゲームはヒットを打っても何も意味がないのだ。
例えそれがホームランでも、だ。
分かり切った事だが、打てば、打者は走者に変わる。
そうなれば各塁を守護する守備陣を突破して、ホームベースに戻らなくてはならないのだ。
そう、ファースト、セカンド、ショート、サードと命のやり取りをしなくてはならない。
だから打者はそれなりの強力なバットを選択するのが定石である。
ホームラン王と呼ばれいるダークムーンの4番打者なんかは、背中に2本のダブルトマホーク、腰のベルトには大量のダガーを装備し、左腕には連射式のボーガンを装備して、更に装甲の裏には無数の弾丸まで用意してバッターボックスに臨んでいる。
なのに仮面の女は、たかだが横連結した木を握っているだけなのだ。
だからカメラを握った野球ファンの一人がこうつぶやいた。
「――殺されたな」、と。
場内の連中は皆、ニヤニヤと笑っているが、されどギガスウォーリアは苛立ちを隠しきれない様子だ。
右手に握っていたロージンバックをマウンドに叩きつけた。
白い粉が足元を覆う。
――なんだ、あのバットは!?
何が登場するのかと思いきや、ただの木の結合体じゃねぇか。
確かにひのきのバットで戦うと宣言していたが、なんつーかもう少し特殊加工を施した何かを持ち出してくると思っていたが、単に数本重ねただけじぇねぇか。
折角俺様が、最強の殺人ボールを用意してやったのに。
言っておくが、この球は最強だ。
あの女、絶対に即死しかねぇ。
それだけにこの球は、一球、1500万ゴールドもするのだ。
ゴブリンズはケチだから、高額ボールを使用すると給料から天引きされちまう。
だからこれは、言葉の通り、とっておきの秘密兵器だったのに。
このままだと折角の見せ場が、まったく面白くねぇじゃねぇか。
……だが、まぁいい。
俺を侮辱した罪は残酷な死をもって償わせてやらねばならん。
容赦しねぇぜ、いくぞ!
ギガスウォーリアは鋭く尖った眼光でそう言い放つと、投撃のモーションに入った。
アスカは静かに構えている。




