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閑話 兄視点①

アリシア(彼女)のお兄様視点です。


 私には2歳下の妹がいる。


 子供の頃はほとんどの時間を領地で過ごした。両親はマナーと勉強の時間以外は自由にさせてくれたので、自然豊かな地でおおらかな人々に囲まれてのびのびと育った。


 妹は歩き始めた頃から私の後をついてきた。2つ年上の私と同じことをしようとするから、気がつけばいつも泥や雪にまみれていた。泣くかと思えば、いつも楽しそうに笑っていた。一度、雪遊び中に壁に突っ込んで額に大きなコブを作ったときは私も焦ったが、妹はその時ですら泣きながら笑っていて、正直少し心配になった。



 15歳になる年、私は王立学園に入学するため王都のタウンハウスに移り住んだ。新しい友人達も作り、ますます伯爵家の後継となるべく努力した。そして妹が入学する年になった。


 入学をひかえたある日、届いた制服を早速着て、家族の前でくるくると回っていた妹が高らかに宣言した。

「私は王宮事務官になる」と。難関だぞ。

 聞けば、私が領地を守るとき、役に立てるよう王都で頑張るのだ、と言う。

 妹の助けが必要になるような領地経営をするつもりはないのだが、その気持ちはありがたく受け取ろう。


 両親もやりたいように頑張れと言うので、妹の学園での目標が決まることになった。



 妹が入学してからしばらく経つと、友人から妹を紹介するよう頼まれた。は?あの小猿のような妹に興味があるのか?友人の趣味を疑いそうになったが、学園内を歩いてる妹を見かけて納得した。

 母の教育の賜物といえる淑女然とした姿は、たしかにきちんとした貴族令嬢に見える。そう言えば領地では『黙っていれば雪の妖精』って言われてたな……。

 だが外見を気に入った友人に妹では期待に添えないだろうと思い、丁重に断っておいた。


「カフェに一緒に行けるようなお友達がほしいわ」と言っていた妹は、クラスの女子生徒に積極的に話しかけ続け、気がつけば全員と友人になっていた。

 妹のいる成績上位クラスは女子生徒が少ないが、それでも家の派閥に人間関係が影響される。私のクラスでもひとりで行動している女子生徒は少なくない。

 そのため妹が「今日はクラスの女の子みんなで集まって、学園のカフェテリアでランチをしたのよ」と言ってきたときは、本当なのかと参加者を確認してしまった。


 うちとしては派閥に拘りはないし、問題さえ起こらなければいい。それにしても、妹も貴族の派閥関係については一通り学んだはずなんだが……。楽しそうだからいいのか。



 そんな妹がある日、男と美術館に出掛けた。相手はネオルト男爵子息。やけに派手な見た目で、家も数々の事業に成功してると有名な男だ。女性から人気があり、私の学年でも話題にしてるのを聞いたことがある。人気物件だ。そんなヤツとふたりで出掛けた。……大丈夫か?


 メイドに聞けば、最近つけている髪飾りもヤツに貰ったらしい。高価なものじゃないからって軽々しく身につけてはだめだ。……今更だが。


 帰ってきた妹は機嫌がよく、好きな画家の絵を観た感動を切々と語ってきた。本当に絵を観てきただけみたいだ。



 その後ヤツについて気に掛けるようにした。……とにかくモテるようだ。派手だが優しげな雰囲気だからか女性が次々と寄っていく。だが誰かとふたりで出掛けたという話は聞かない。


 夏休みにサマーパーティーを開くと聞いたときは、やはり軽薄なヤツだと思ったが、意外にも参加した友人達は若い世代の交流会として有意義だったと高評価だった。企画力はあるみたいだ。


 そこで、学園の図書館で最近話すようになった妹の同じクラスのエイデン・ウェスティン伯爵令息にヤツのことを聞いてみた。

 どうやらヤツは、妹に近づく男達にずっと牽制しているらしく、そんな姿を見せてるからかクラスの女子生徒には生温かい目で見られているらしい。

 試しに、エイデンに妹について聞くと「毎日楽しそうです」と返ってきた。妹は雪にまみれて笑っていた頃からあまり成長してないのかも知れないな……。



 秋の収穫祭、サザン伯爵令嬢と一緒に歩いていると、祭の人混みの中に妹とヤツの姿を見つけた。白銀と金の髪が遠目でも輝いてる。あいつら目立つな……。自分も妹と同じ髪色だと思い出し、隣にいる彼女に自分も傍から見るとあんななのかと聞いてみたが、にっこりと微笑まれただけだった。


 気を取り直しふたりを見ると、楽しそうに屋台飯を食べていた。妹は串焼きのようなものを両手に持っている。デートをしている相手の前で……。それでいいのか?妹よ……。


 女性の誘いを断っていると聞くのに、妹とふたりで……。ヤツはやはり本気なのだろうか。成績も上位層にいるし、意外と真面目なのかもしれない。


 それでも「何故か気に入らない」という感覚が拭えない。思わず口にしてしまった言葉に彼女は「あらあら、可愛い妹ですものね」と笑ったが、本当に、そういうのではないんだ……。


お読みいただきありがとうございました。

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