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18禁をこの手に  作者: 昼熊


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五話

 学校は午前中で終わり、家に戻りいつもの戦闘服に袖を通す。

 黒のジーパンに、灰色のTシャツ。その上に、黒のパーカーを羽織る。フードは頭に被らずに顔は露出させておく。彷徨える帽子のように大きめの帽子やパーカーを目深に被り、顔を露出させない者は多いが俺はそれをしない。

 それが俺のプライドであり、レンタランカーという名の戦士である誇り。純粋な性欲というものを悪に陥れようとする政府への決意表明でもある。


「よし、行くか!」


 頬を両手で強く打ち、気合を入れ、颯爽と我が家を飛び出した。







 AC内の受付嬢へ参加券を差し出す。この受付嬢はかなりの美人で、掲示板では各地方の受付嬢ベスト10なんてランキングがあるぐらいだ。美人を揃えているのも、おそらく国の政策だろう。

 父の意見なのだが、


「レンタルビデオ屋や本屋のカウンターに綺麗な女性がいると、それだけで購入を躊躇したもんだ」


 と言っていた。この怖気づく効果を狙ってやっているとしか思えない。

 受付嬢は慣れたもので、笑顔でそれを受け取ると、


「反帯 生成様ですね。お預かりしました。確認させてもらいます。本日の指定作品は【ぐっしょり学園】【あなたの指で 暴走させて】【月刊 hand48】の三品で間違いありませんね」


 よく通る声で読み上げてくれた。周囲にいた人の何名かが振り返る。

 前回も思ったのだが、わざとだよなこれ! 作品名だけ声のボリューム上げやがって。ここで更に羞恥心を煽る作戦なんだろ。実際、初めて参加した人がここで恥ずかしさのあまり、帰宅してしまう場合が結構多いらしい。

 俺はこんなことでは負けないけどな。


「はい、それで間違いありません」


 爽やかな笑みを浮かべて返答する。


「では、この判子を押した参加券を持って、改札口の係員にお渡しください」


 これでようやく戦場への切符を手に入れることに成功した。まだ二回目とはいえ、始めるまでに精神力を消耗させられる。これに慣れる日が来るのだろうか。


「え、すみません。良く聞こえなかったのでもう一度お願いできますか?」


 受付から少し離れた場所にいると、聞き覚えのある声がした。その人は今、受付で同じように指定作品の確認作業をされているようだ。


「はい……【あなたの指で 暴走させて】【我慢できない】【みられると興奮しちゃう】の三品ですね」


「あ、すみません、順番が違います。こういうのって第一から第三までの指定順が違うと、採点にも影響されますから、正しい順番はこうなります」


「分かりました、それで登録しておきますね」


「おや、確認はしないのですか? 毎回間違えないように声に出して確認する決まりだったはずですが」


 参加者である男の方は淡々と話してはいるが、対面する受付嬢は顔が朱に染まっている。


「か、確認します。み、みられると興奮しちゃう。我慢できない。あなたの指で暴走させて……の三品で間違いないですか」


「はい」


 いい笑顔だ。まさか、この状況を楽しむ猛者がいるとは。逆手にとって、恥ずかしいタイトルの作品を並べ美人受付の羞恥に歪む顔を眺める、なんて考えもしなかった。

 おまけに、あの男性の格好。ねずみ色のロングコートを羽織り、顔にはサングラス。どう見ても変質者。だが、残念なことに、あの声に聴き覚えがある。


「おや、黒き速射王さんじゃないですか」


「さすがですね、雑食紳士さん」


 成し遂げた満足感なのだろうか、サングラスを外し、すっきりした表情をしている。


「相手も、こちらの恥ずかしがる姿を楽しんでいるのですから、こちらがそれを求めても文句は出ないでしょう」


 誇らしげに胸を張っているが、これは男らしいと表現してよいのだろうか。


「しかし、私からの依頼を断るばかりか、彷徨える帽子からの誘いまで蹴ってしまうとは意外でしたよ」


「そもそも、自分はお二人から誘われる価値がある男なのか。それを自分自身で見極めるためにも、今回は単独で行かせてもらいます」


 決意を込めた目で正面から、雑食紳士を見据える。


「なるほど、強い意志を感じる良い目をしていらっしゃる。では、遠慮なく戦わせて頂きますよ。貴方がまだ届かない境地にいる、私や彷徨える帽子の本当の力を――その身を持って理解することです」


 まるで、舞踏会に参加しているのかと錯覚をさせるほど、優雅に一礼をすると雑食紳士は去って行った。

 まだ届かない境地。本当の力――か。確かに、雑食紳士には経験も技術も追いついていない。だが、彷徨える帽子も雑食紳士と同じレベルにいると言うのか? 前回は見事に完封していたが、あれは雑食紳士の油断と完全な作戦勝ちだったはず。

 あの二人の技量が同じレベルであったとは思えない。だが、雑食紳士は認めている。彷徨える帽子の力を。あの戦いでの動きは、仲間の力を得ているのではなく、個人としての能力を発揮してのことだったのか? 分からない。混乱させるための策か……そんな姑息な手を使う人ではないはずだ。ならば、油断せず彷徨える帽子の動きもチェックするか。

 予定していたシナリオに変更点を加え、脳内で新たな作戦を模索する。戦いが始まるまであと少し、意識を集中しろ。神経を研ぎ澄ますんだ。この手に、パッケージの表紙で微笑む彼女たちを掴みとれ。


『いよいよ、始まりますね。実況は叫ぶ拡声器こと、AC事業部ナンバーワンアイドル、ラリピーがお送りします。そして、解説はおなじみこの方』


『どうも、エビゾリです』


『今日も重低音のナイスボイスですね』


『ありがとうございます』


 突如AC内に響き渡る声。施設内のあらゆる場所に取り付けられたスピーカーから聴こえてくる。

 これは、施設内だけではなくネット通信でも生中継で流れているはずだ。

 ネット放送には実況と解説が毎回ついており、実況はAC事業部の職員が担当し、解説は一般から選ばれるらしい。ラリピーはちょっと幼さを感じる声が人気の実況者だ。解説のエビゾリは情報力と分析力、冷静な状況判断が的確で、レンタランカーからも一目置かれている。

 この二人を、今回の戦場に起用したことを見ても、今回の戦いはAC内でも話題になっていることが見て取れる。


『今回は全国的にも注目されている一戦です。第四地区のトップ3そろい踏みですよ! それも全員が敵対関係にあるなんて、滅多にありません!』


『そうですね。上位陣が手を組んで同じ戦場で戦う。これは良くあるシチュエーションなのですが、全員が個人で敵対しているというのは、私も長年観てきていますがこんな状況は久々です』


『開戦まであとわずか。ではここで、注目選手の指定三品目をピックアップ! まずはこの方、暫定一位、彷徨える帽子にチェケラ!』


 実況テンション高いな。まあ、この状況で淡々とやられたら困るが。

 しかし、彷徨える帽子の情報を提示してくれるのは、ありがたい。調べてはきているが、この場で情報が流れることによって、詳しく知らない人たちの注目を集めてくれれば、身動きがとりにくくなるはずだ。


『資料によると【愛と先生の朝立ち】【マチ絵さんラブPart4】【あなたの指で 暴走させて】の三品ですね。一品目の愛立ちは、人気監督による新作品で、かなり前評判の高い作品ですよ。注目度ランクAですね。これを手に入れることに成功すれば、かなりの高得点が期待されます』


『なるほどー。注目度が高ければ難易度も上がりますからね。暫定一位の実力を見せてほしいところです』


『次のマチ絵さんラブは今回四作目なのですが、全ての作品内でストーリーが繋がっているので、首を長くして待っていた方も多いでしょう。これも注目度ランクAになります』


『ほほー、二作ともAランク狙いとは勝負に出てますね。ここまでの二作品はターゲットが被っているランカーも多いでしょうから、両方手に入れるのはかなり難しそうです。解説のエビゾリさん、そこはどう思いますか』


『ええ、確かに二作品とも手に入れるのは至難の業でしょう。今回の参加者の多くと被っていますからね。勝利の鍵があるとすれば、基本なのですが真っ先にどこに置かれているか見つけること。単純ですが最も大切なテクニックです』


 この二作品は俺も選択肢の中にあったのだが、避けておいて正解だった。一対一で奪い合うには、危険すぎる相手だ。


『これだけある作品群の中、何処に置かれているか知る者はAC職員のみです。ある程度の目星はつくでしょうが、そこからは速さとの戦いとなるわけですね。そうそう、速さと言えば、トップ2に躍り出た黒き速射王も今回の戦いが二戦目だそうです』


『そうなんですよ。彷徨える帽子と黒き速射王の二名とも初戦でこの地位へ駆け上った、恐るべき新人です。速射王はアマチュア部門でもかなりの成績を収めていたので、期待されていましたが、ここまでの逸材だったとは驚かされるばかりです』


 ちっ、俺の話題は出さなくていいのに。これ以上注目を集めたくはないのに、今の放送で何名かがこちらの様子をうかがっている。まあ、二位なのだから仕方のないことなんだけど。


『っと、そうこうしている内に、開戦の時間です! 皆さん準備はよろしいですか! 制限時間三十分。予め指定した作品を取れば高得点。他者に奪われた場合や見つからない場合は、他の作品を選んでももちろん結構です。では、悔いのない戦いを!』


 待合室にいたレンタランカーがゆっくりと、自動扉の前へ移動する。俺もその人波へ進むと、人々が左右に分かれていく。自動扉の目前までの道が開ける。トップレンタランカーと同じ戦場へ立った場合の暗黙のルール。トップ10までのランカーは最前列に並ぶ権利がある。

 自動扉の前に立つと両脇に、彷徨える帽子と雑食紳士がいた。


「貴様ら、容赦はしない」


「さあ、戦場へと赴きましょう」


「俺だって譲る気はないさ……栄光をこの手に」


 正面へ突き出した右拳に、両名が拳をぶつける。


『では、レンタランカーバトル、開戦!』


 透明の扉が左右に開き、静かながらも激しい戦いの火蓋が切って落とされた。

 

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