二十一戦目「問題児は押される」
勝敗は戦の常
西涼軍はさらに進撃を始める。向かうのは渭水。かつての周が興ったと言われる土地だ。
魏軍はその付近に駐屯。ここを防げなければ洛陽を攻められてしまうからである。
「なんとか魏軍は減らせているな・・・」
この辺の土地は砂なので、陣営を作っても簡単に崩れやすい。
堀なども用意したいだろうが、無理だろう。崩れるし。
付近の木材はすでに西涼軍は伐採し陣営のために使ってしまっている。
陣営を中々作れない魏軍は日々西涼軍によって崩されてその兵数を徐所に減らしているのだ。
西涼軍快進撃!
・・・なんて言いたいけど、その実態には裏がある。
「おーい。こっちも居るぞ」
「わかったから。・・・全く、こんなに死体があるなんてキリが無いな」
「今回も凍死か」
「仕方ないだろ? 仲間がいっぱいいるからな」
そんな兵士達の声が聞こえてくる。
そうだ。凍死者が増えているのだ。
いかに寒さに慣れている西涼兵だが、マトモに腹いっぱい食べられず、不十分な衛生環境に、装備。
そういうのも仕方ない。
鼻に来るのは死体を焼いて漂う死臭。
薪の代わりに暖をとっているのだ。
「あ、玉」
「・・・おぉ、翠か」
陣営を視察してると、翠と出会った。
鍛錬でもしていたのか、その額には汗が光っている。
「翠か、じゃねえよ。どうしたんだ? 辛気臭い顔して」
「そんな顔してたかぁ」
「うん、してた」
「きっと翠分が足りないんだよな」
「・・・馬鹿野郎」
「照れるなって」
「照れてねえよ!」
・・・あーあ。なんかこうやって翠と笑いあうのも久しぶりだなぁ。
「・・・さて、翠。明日、大規模に軍を動かす。相手はまともに陣営が作れないんだ。砂なんだから簡単に崩せる」
「わかった。あたしに任せてくれ。絶対に曹操を倒してやる」
「その意気だ。詳しくは伝令を送る」
明日こと、決戦だ。
孟徳殿も、さすがに砂でしかない陣営は崩されるのは分かっている。
だが、伏兵も置く場所が無いはずだ。
・・・行けるはず。
翌日。
十万ほどの兵士を率いた翠や翡玉や蒲公英、関中軍閥の一部の将とは別に俺自身も、程銀達を連れ、数万人の兵士を連れて出撃した。
そして、俺は伝令の報告に悩ませられることになる。
「申し上げます! 魏軍に陣営が完成しております!」
「・・・完成だと? この地域は砂なのだが・・・」
李甚達に一旦、兵を任せ、俺は前線に出る。
そして眼に入ったのは・・・
「氷の陣営だと・・・?」
なぜ、こんなものが。と思ったがすぐに納得が言った。
どうやら孟徳殿は砂に水分を含ませ、昨日の夜の寒さで凍らしたらしい。
「玉! どうする!」
翠の声が聞こえた時、陣営から大声が轟いた。
「我が魏の精兵達よ! 行くぞーっ!」
『おおおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』
陣営から飛び出してきたのは【夏候】の旗をなびかせた魏兵だ。
元譲殿か・・・!
「あたし達西涼軍! 中原の奴らに負けるなーっ!」
『うおおおおおおぉぉぉぉおおぉぉぉぉっ!!』
突然、出てきた魏軍にも怯まず翠もすぐさま対抗し、魏軍に負けない声を張り上げた。
だが。不意を突かれた兵はそうはうまくいかない。
「ぐあぁ!」
「ぎゃあぁ!」
兵士達の断末魔の声が響く。魏兵に押されている。
俺は馬首を返し、李甚のところへと急ぐ。
曹洪将軍に追われたが、翡玉がなんとか防いでくれた。
「突撃ーっ!」
兵を指揮して、どうにか優勢に持ち込みたいのだが、難しい。
兵の質で圧倒的に負けているのだ。
「も、申し上げます!」
乱戦状態の中、1人の兵士が俺に近付いてきた。
「どうした」
「別働隊として進軍していた梁興将軍が魏軍の伏兵、張コウに会い全滅! 将軍は討ち取られました!」
「くそ・・・っ」
梁興が、やれた、か。
・・・これも戦争なのだから仕方がない。
「申し上げます! 後方から【徐】と【朱】の旗を確認! 魏軍の別働隊かと思われます!」
「なんだとっ!? どこからやってきたんだ!?」
「いつの間にか渡河したのではないかと!」
まずい・・・!
「張横将軍と程銀将軍に五万を連れて迎撃させろ!」
「御意っ!」
寒くなっているはずなのに、俺の額に汗が垂れ始める。
孟徳殿は良い軍師をお持ちのようだな・・・。
『おおおおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉ!!』
やがて、後方から雄たけびが聞こえてきた。
なんとか西涼軍は数で持ち堪えているが、それも時間の問題だ。
翠と翡玉がなんとか前線を持ち堪えているが、魏軍の主力部隊だ。
あの元譲殿だからな・・・。
曹洪将軍もいるようだ。
後方の戦線は張横達、関中軍閥メンバーがなんとかなんとか持ち堪えている。
「敵将、張横この徐晃が討ち取ったりー!」
「敵将成公英、朱霊が討ち取ったりーっ!」
次々と名乗りを上げて行く声が聞こえてく。
・・・ちくしょう。
「盟主! 戦線が持ち堪えられません! 馬玩と成宜がなんとか持ち堪えていますがこれ以上は・・・!」
「お兄様! まずいよ! お姉様と翡玉さんが頑張ってるけど、危ない!」
報告に来た侯選が返り血に身体を汚して来た。
・・・これ以上の戦線は継続不能か・・・。
「・・・っ。各将軍に伝令、兵を纏めて撤退してくれ。蒲公英、翡玉に殿を頼んでくれ」
『御意っ!』
「分かった!」
去って行く彼女らの後姿を見て、俺は溜め息をついた。
撤退する西涼軍に夏候惇が追撃をしかけるものの、馬超の伏兵により追撃部隊は壊滅。
この戦いの死者の数は全部六ケタと言われるが、その実際の数はもっと多いらしい。
その中でも西涼兵の数が多く見られたのであった。
完結は大晦日の予定です。