二十戦目「問題児は追い詰める」
終わりは近い。
布陣を整えた西涼軍は再び進撃を開始した。
その最中に西涼軍を支持する豪族や異民族が支援。その数をさらに十万を増やした。
渭水に向かう途中、魏軍を率いる曹操が現れたのだった。
「こうやって見ると壮大なもんだ。軍は」
「何を言っていらっしゃるのですか玉様」
・・・うん、もうすぐ舌戦っていう雰囲気なんだけど、翠はそんなことをするつもりはないだろうね。
夏候惇と戦いたいとか言っていたなぁ。
「馬超よ! 馬騰の地を荒らしたくなければ何故私に降らぬ!」
「うるさい! 逆賊曹操! ここは我が母上、馬騰の地! 貴様のような逆賊が来ていい場所ではない! 中原に帰れ!」
おおう。
翠ちゃんかっこいい!
「とりあえず盲夏候! 出て来い!」
「も、盲夏候だと!? 貴様・・・私をそのような名で呼ぶのか!」
おいおいおいおいおいおい。
戦う気満々じゃないか。
孟徳殿も鼻で笑っているし。
「いいわ。春蘭。貴女のその武を見せてあげなさい」
「お任せを! 華琳様!」
「行くぞーっ!」
両者一気に駆けてのように打ち合いが始まった。
俺はすぐに指示を出せるように各部隊長に注目させてある。
だって俺軍師だもん。勝てる策を、仕事をしないとねぇ。
配置は前方に槍兵や剣兵といった歩兵を置いてある。騎兵、弓兵とね。
ただ、弓兵と騎兵は矢と馬の数が全く揃わなかった。
異民族を中心とした騎馬弓兵も用意してある。
「せりゃー!」
「うおーっ!」
両者入り乱れ、槍や剣を振るっている。
・・・早すぎて俺には見えないよ。
とりあえず剣戟の音が鳴るのは分かるんだけど。
さて。
そろそろだ。
今回翠には我慢してもらうことがある。
強者と勝つまで戦い続けることである。
猪の彼女だけど、どうにかなるはずだ。
武人の前に将軍なのだから。
「また今度な夏候惇!」
「馬超! 逃げる気か!」
翠が馬首を返してこちらに戻ってくる。
「突撃ーっ!」
『おおおぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉ!!』
俺の号令に続いて、槍兵が投げ槍を始める。剣兵が走る。
数では圧倒的に勝っているのだ。まるで波が魏軍を襲うように見える。
「待てーっ! 曹操ーっ!」
翠が単騎で逃げる孟徳殿を追いかけるのが見えた。
程銀達に指示系統を任せて、親衛隊を連れて俺も翠を追いかける。
翡玉は夏候淵の部隊とぶつかっている。
「赤い戦抱を着ているのが曹操だーっ!」
翠がそう言うと西涼兵の視線が単騎で逃げる孟徳殿に向いた。
「死ねぇ!」
「させるかぁ!」
「ぐあぁ!」
戦場ならではの声が響く。
地面を見れば魏軍の兵士の数が多く見られた。投げ槍はかなりの損害を与えたようだ。
戦場を見渡せば蒲公英は曹仁であろう部隊とぶつかっている。
補佐しているのは成宜か。
曹仁は名将として有名なため蒲公英には荷が重いかもしれないが、そこは数の暴力でなんとか持ちこたえている。
どうにか孟徳殿を討ち取れれば・・・!
「曹操は髪を巻いた奴だーっ!」
翠がまたそんなことを叫んだ。
ううむ。まだ討ち取れないか。
【徐】の字は・・・徐晃か。出てきたか。
翠の主力騎兵と衝突した。
・・・ううむ。あれは殿なのだろう。
魏軍の動きを見ると徐所に下がっているように見える。
「楊秋、成公英、張横! 部隊を率いて追撃しろ!」
『御意っ!』
「程銀は部隊を率い、馬超の援護を!」
「御意」
「残った者は兵士を纏めろ! 布陣を一度整える!」
『御意!』
そして、俺は伝令で蒲公英と翡玉を呼び戻し軍を合流させた。
やがて程銀の奇襲を受けた徐晃部隊はもともと翠の部隊と打ち合い、疲労していたので壊滅した。
徐晃を捕らえられなかったが残念だが、これで魏軍の兵力を減らしたのは大きい。
こちらも被害は大きいが、元々多かった兵力だ。
気にするほどではない。
西涼軍を支持する豪族や異民族は兵力をどんどん送ってくる。
それも、維持さえ大変なほどに。
なんとか協力関係にあった商人に華南の、荊州の余剰食料を買い入れているとはいえかなぎりぎりだ。
というか、それが無かったら確実に飢えていただろう。多くの兵士が。
それに、寒くなっている。西涼兵は寒さには強いが、寒いものはやはり寒い。
凍死する者がちらほら報告に来ている。
「・・・防寒用の羊毛はどうなっている?」
「はっ。兵糧として使っている羊肉と共に羊毛を刈り取っていますが、足りません。現在では親衛隊や一部の精鋭、部隊長など限られた者しか着用していません」
部下の李甚がそう報告してくる。
やはり羊毛だけでは足りないか・・・。
分かっていたが無理だ、無理なのだ。
「最悪、玉砕か・・・」
古来より戦いは数に任せて正面から突撃するのが勝利すると決まっているのだ。
兵数では圧倒的に勝っているわけだ。
「申し上げます!」
陣営を回っていると侯選が現れてた。
「張横将軍率いる追撃部隊が曹洪による奇襲で壊滅しました!」
「曹洪将軍、か。大方、汚名返上だったのだろう。・・・分かった。それに関しては仕方がない。早急に帰還せよと伝令を送ってくれ」
「御意!」
去った侯選を見送り、俺は空を見上げる。
陽が出ているというのに肌寒い。
兵達も寒いのか焚火に集まっている。
(短期決戦が勝負だ。将の質では劣っているが数では勝っている)
俺は次の策を考えるために天幕に戻るのだった。
遠まわしに兵士の補充を断っているのにどんどん送ってくる西涼派の豪族。
というか、遠まわしすぎてわかってくれないのだ。
率直にこだわれば敵に内通される可能性が高くなるし……。
豪族の不服を得るのは不利だ。




