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『アステリズム・オンライン 〜世界で唯一ゲームをラストクリアした俺、現実世界で正体を隠して無双する〜』  作者: かいばーく


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第七章(前編)「放課後の距離」



 正体を明かしてから、一週間が経った。


 グループチャットには、以前よりも頻繁にやり取りが飛び交うようになっていた。ダンジョン攻略の相談、他愛のない雑談、時々挟まる悠斗のくだらない冗談――そこに、莉世からの短くも的確な返信が混じる。


『次のダンジョン、悠斗くんと亜衣のジョブレベル上げも兼ねて、浅い階層を周回するのがいいと思う』


『え、周回って地味じゃね?もっとこう、派手なとこ行こうぜ』


『地味な積み重ねが一番大事なの。分かってないな、悠斗くんは』


 莉世の素っ気ない物言いに、俺は思わず口元を緩めた。この一週間で、こういうやり取りにも、大分慣れてきた気がする。


---


 放課後、俺は悠斗と共に、駅前の広場で莉世たちと待ち合わせていた。今日はダンジョンではなく、ただの買い物――悠斗が「装備の手入れ用品を見に行きたい」と言い出したのがきっかけだった。


「莉世、亜衣、待たせたな」


 悠斗が軽く手を上げると、少し離れたベンチに座っていた二人が立ち上がる。莉世は今日も、以前と変わらないそっけない表情を浮かべていた。だが――


「遅い」


 その一言に、僅かな柔らかさが滲んでいることに、俺は気づいていた。


「悪い、悠斗が忘れ物取りに戻ったせいだ」


「おい、人のせいにするなよ」


 悠斗が抗議の声を上げるのを聞き流しながら、俺たちは四人で歩き出した。


---


 装備店を回りながら、莉世は意外にも真剣な様子で商品を選んでいた。


「これ、悠斗くんの見習い戦士だと、攻撃力補正がつくタイプの方が合うと思う」


「へえ、詳しいな莉世」


「ゲーム時代に、色々研究してたから」


 莉世はそう言いながら、手に取った籠手を悠斗に手渡す。俺はその横顔を、少し離れた位置から眺めていた。


 誰かのために、こんな風に真剣になれる莉世の姿は、悪くないと思った。


「蒼くんは、何か欲しいものないの?」


 不意に話を振られ、俺は一瞬言葉に詰まった。


「……特にない。今の装備で十分だ」


「そう」


 莉世は短くそう返すと、それ以上は聞いてこなかった。だが、店を出る間際、彼女は棚の片隅にあった小さな砥石を手に取り、こちらに差し出してきた。


「双剣、たまには手入れした方がいいよ。これ、あげる」


「……いいのか?」


「お礼、まだちゃんとできてなかったから」


 莉世はそう言うと、少し照れくさそうに視線を逸らした。俺は差し出された砥石を、黙って受け取った。


「ありがとう」


「別に、大したものじゃないから」


 そっけない言葉とは裏腹に、莉世の表情には、確かな柔らかさが浮かんでいた。


---


 夕暮れの中、四人で歩く帰り道。悠斗と亜衣が先を歩き、俺と莉世は少し後ろをついていく形になっていた。


「今日、楽しかった」


 莉世が、ぽつりと呟く。


「そうか」


「蒼くんは?」


 俺は少し考えてから、素直に答えた。


「悪くなかった」


 その言葉に、莉世は小さく笑った。あの夜、初めて見たときの張り詰めた表情とは違う、自然な笑顔だった。


「その顔、あんまり見たことないな」


「え?」


「莉世の、笑った顔」


 俺がそう言うと、莉世は一瞬固まった後、僅かに頬を赤らめた。


「な、なに言って……」


 珍しく動揺した様子の莉世に、俺は内心で小さな満足感を覚えていた。フードの下で、思わず口元が緩む。


「――そうだ」


 莉世は誤魔化すように、不意に話題を変えた。


「今度、私の装備も見てほしい。悠斗くんたちのことばかりで、自分の見直し、ちゃんとできてなかったから」


「四人でか?」


「ううん」


 莉世は一瞬、視線を彷徨わせてから、小さく続けた。


「……二人で、いい?蒼くんに、ちゃんと見てもらいたいから」


 その言葉に、俺は一瞬言葉に詰まった。深い意味はないのかもしれない。だが、妙に鼓動が速くなるのを感じた。


「……分かった。都合のいい日、教えてくれ」


「うん。連絡する」


 莉世はそう言うと、前を歩く悠斗たちに追いつくよう、小走りに駆けていった。俺はその背中を見送りながら、フードの下で密かに息を整えていた。


 この距離感が、これからどう変わっていくのか――俺にはまだ分からない。だが、悪くない方向に進んでいる。そんな予感だけは、確かにあった。


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