崩壊の音。転がるみかん
ある日、突然魔女の家に、五、六歳にも満たないだろう小さなやせっぽっちの女の子が現れた。
やせぎすの体に小さな荷を背負い、畑に水をやっていたソルシエールを見上げる。
「おや。君はどうやってここまで来たのかな」
微笑むソルシエールに幼い少女は無邪気に笑って見せた。
「あたし、ケノンって言うの! どうしてもここに来たかったから、たどり着きますように願いながら歩いたの!」
「……ふうん」
「魔法の勉強をたくさんしたの、ねえ弟子にして!」
ソルシエールは冷淡に返事をする。
「ごめんね、私はむやみやたらに弟子を取らないんだ。めんどくさいし。毎日のご飯を用意しなくちゃいけないじゃないか」
「ひどい!」
抗議の声に肩をすくめると、手を差し伸べる。
「ほら。街まで送って行ってあげよう、おいで」
「どうして、選り好みじゃない」
粘る少女に首肯する。
「そうだよ」
「あたし、子供なのに?」
「よかったね、一つ学べた。大人に期待しすぎないことだ。君だって自分の友達は選ぶだろう? 魔法使いはね、自分の気に入った相手しか愛さないし、誰これ構わず弟子にするわけじゃない」
「うそよ! だってあなたは子供たちの味方だって聞いたわ!」
「だれに聞いたのかな?」
「だれだっていいじゃない!」
「君に本当に師匠が必要なのか?」
「いる! いるいるいるいるいる!」
少女はヒステリックな叫び声をあげると、じんわりとその目のふちに涙を浮かべた。
「あたし、友達なんていないわ」
「まあそういう事もある」
「家族もいないの」
「泣き落とそうとしないでくれるかな」
「あたし、だれにも愛されていないの」
「なにをやらかしたの」
「なにも」
その涙の山は決壊し、とうとうついに、その目から涙がすうっとこぼれ落ちた。
「ひとりぼっちなのぉ」
それから少女は実に一時間もの間泣き喚いた。
泣き喚いて、地面の上に寝転がりその両手を陸に引き上げられた魚のようにじたばた動かした。
その間、ソルシエールは無感情にその様子を眺めていたが、いつまでも泣き止まないのを見てとると、はあと大きなため息をついた。
「しようがない子だなあ。その手がいつでも通じると思うなよ」
「うわああん。ああああああ」
「うるさい。ほら、立ち上がるんだ」
「弟子にしてくれる?」
「弟子にしてあげる」
その言葉に、たちまちぱあ、と少女が顔を輝かせた。
ソルシエールは手を差し出す。
「ほんと?!」
ソルシエールの手を取ることなく、ぱっと立ち上がる。
そのいかにも現金な様子にソルシエールは思わず慌てて釘をさした。
「弟子にしてあげる。その代わり、『魔女の契約』をしよう。師匠は弟子を大切に扱う、弟子は師匠の言うことに逆らわないこと。分かった?」
「分かったわ!」
どさ、と音がする。
少女とソルシエールが振り返ると、赤ずきんが真っ青な顔をして立っていたのだった。
地面にはたくさんのみかんがころころと転がっていた。
ソルシエールの額に冷や汗が伝ったのは、言うまでもない。




