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12話 親子

「……自販機がある……」


「ん? ああ、自動販売機械か。タクミどのの進言で、ドワーフ王国で開発した通貨を自動認識する魔道具と組み合わせて、店員不在の自動販売機械を街の各所に設置するタイプの販売形式を試験中でな。

 おかげで、店子を雇う余裕のない一般家庭でも、最初の設置資金を支払い、商品の売上は設置を請け負ったムーンディア王国と折半、我が夫たるムギリ王の治めるドワーフ王国の儲けは自動販売機械の製造・販売という形で一般平民の商業参加という国内商業の促進が進んでいる。

 ――街中で民家の軒先に併設する形が普通だが、普通の手段では破壊不能な防御術式が掛かっている故な、このように森林内に設置する例も出て来た」


 アゼリアやクーリと違ってセレスティアは小国の小都市だからな、と続けて、目深に被ったフードで目だけを出したミーアは笑うように目を細めつつ、アリサが目を止めた森林を横断する道端にぽつんと存在する、人目を引く赤で塗られた自動販売機に銅貨を投入し、ごとん、という音と共に搬出された人数分の缶ジュースを手に戻った。


「……またタクミさんかぁ……。あの人、現代日本化進め過ぎだと思う。スマホっつかタブレットに銃に電車にアイスクリームに缶ジュースに自販機とか。それで、空も飛ばすんだっけ。飛行機じゃなくてパワードスーツなのが予想外すぎたけど……、あっ、どもです。――冷えてるし」


 赤瞳のアリサが、ミーアが手慣れた風に自販機を利用し、そこから取り出されたスチール缶を手渡されて受け取りながら、ため息をつく。


 ムーンディア王国セレスティアへの到着からニア、フェル、ハインらの定宿という上級宿に部屋を取り、大きめの二人部屋にフィーナ=アリサ、ミーア、ミツハの三人が入る形で宿泊、一夜明けた今日は久しぶりの里帰り、ということで、ミーアがアリサ=フィーナに付き添う形で都の郊外にあるフィーナの師匠の家に移動中なのであった。


「アリサはいじわるなのだ、寝ている隙に我を置き去りにしようとするとは! アリサたちには常に二神が付き従う必要があるのだぞ?」


「あー、いや、忘れてたわけじゃなくてね? すっごいかわいい寝顔だったから、起こすのも可哀想だなーって」


 アリサとミーアの間を小さなコンパスでちまちまと歩いていたミツハが、頬を膨らませてアリサに向かって憤慨するその様子すら強烈な可愛さを伴い、アリサは苦笑しつつ両腕を振り回して怒りを表現するミツハを胸に抱き上げた。


「――そっか。あたしたちのためか! ううーん、ミツハくんありがとねっ、かわいいー!!」


「こっ、こらっ! 我には未来の伴侶たるクラオカミが既に居るというにっ。未婚の女子がそのように軽々しく男子に接吻するなど、恥を知れ!」


「だいじょぶだいじょぶ、バレなけりゃちょっとくらいはおっけー! 浮気じゃないから!」


「む? そ、そうか? バレなければいいのか。……うむ、そうかもしれぬが。何故であろう、このバレなければ、浮気ではない、という言葉に対する無性の恐怖感は」


 幼いミツハが懐いていたクラオカミの元を離れてまでアリサ=フィーナに付き添った理由に思い至り、顔中にキスを浴びせたアリサだったが、何故かミツハの方は顔を青褪めさせて得体の知れない恐怖に身震いする様子を見せた。


 その様子を不思議に思いながら、ミツハを抱き抱えつつよく冷えた缶ジュースを飲みながら更に歩くこと数十分。


「ほう? なるほどな、これなら一般人は気づくまいな」


「あれっ、ミリ……じゃなかったミーアさんはこの道が見えるんですか? 師匠が念入りに偽装してるんだけどな?」


「ふっ、頼むから本名は呼んでくれるなよ? 騒がれて面倒が増える故な。……アリサの言う通り、偽装を知らねば茂みに覆われていると思い込んで通過してしまうであろうな」


「薄く神力しんりょくで覆ってあるのが我らには分かるな。神たる我らですら、注意して見ねば見過ごすほどの微量であるが。なるほどフィーナの魔術の師匠は伊達ではないということか」


 ミーアのフード越しに響くくぐもった声に、アリサの腕に抱かれたままのミツハも険しい目で頷く。――本人的には鋭く険しいつもりの薄目、が正しいかもしれない。


「ん? しんりょく、って何だろ? まあいいか。ここからは10分も掛からないですー、一本道なので」


 小首を傾げつつ、先頭に立つアリサが道筋から外れて直角に、茂みにぶつかるようにして森へ分け入る。しかし視覚とは裏腹に、アリサは茂みの抵抗など全くないように、まるで茂みの映像を通過するかのようにその方向へ埋もれて全く見えなくなってしまう。それに驚くことなく、ミーアも後に続いた。


 ――そして、空間が折れ曲がって屈折したような、三人分の人間の背格好をした不思議なもの(・・)も、ミーアの後ろからやや遅れて後に続いた。



――――☆



「おかえり、フィーナ。連絡をくれれば新しい試作菓子を用意しておいたのだが」


「ただいまです、師匠! それと、試作菓子は断固拒否します。あと、今はアリサです。いい加減覚えて下さいっ」


 ほらっ、赤目赤目っ! と両手の指で自身の瞳を指差しつつ詰め寄るアリサに無表情のままその額をぐりぐりと撫で回して接近を制止しつつ、師匠、と呼ばれた魔道士の身につける黒で統一されたローブを身にまとった女性は、丸太を基本として大雑把に作られたログハウスの中で、アリサの後に続いて屋内に立ち入ったミーア――ミリアムに向けられた。


「それで、首尾は?」


「止められない。あちらの方が遥かに格上である故、仕方なかろう」


「そうだろうな。では、予定通りに?」


「うむ。なるべく民衆の被害が少なくなるように」


「準備は進めてあるが、いつから?」


「いつでも、という訳には行くまい? 参加させるなら、フィーナの了承を得ねば」


「……ええっと。もしかして、フィーナに交代した方がいい感じ、なのでしょうかっ?」


 冗談めかして努めてにこやかに告げたアリサに、もはや身を隠す必要がなくなったのか、手早くフードを開き素顔を晒したミーア……ミリアムが、苦笑しつつ済まなさそうに軽く頭を下げ、それを合図にアリサの方もVサインしつつ笑顔でフィーナに交代を行い、すぐに瞳の色が緑に変化した。


「済まないな、落ち着く間もなく、何度も呼び出すことになってしまって。話の流れは理解出来ているだろうか?」


「ええっと、多分ですが。理解不足があるかもしれませんので、説明して頂いてもよろしいでしょうか?」


 アリサが交代直前に取っていたVサインの姿勢を恥じ入るように引っ込めつつ、額に当てられたままだった師匠である女性の手を片手で軽く解き、そのまま女性に甘えるように隣に寄り添ったフィーナは、少し俯き加減でミリアムの方を直視せずに更なる説明を求めた。


「うむ、では簡単にだが状況を説明しよう。もう解っていると思うが、フィーナの師匠というそこの女性魔道士は、本名をシンディ・クレティシュバンツと言う、元アゼリア王国魔道士ギルド長だ。知っていたかな?」


「……フルネームまでは知りませんでしたが、そのような高位の魔道士なのではないか、とは推測していました。その、構築魔道式が非常に高度で洗練(・・)され(・・)すぎ(・・)ていた(・・・)のと」


「ふむ? 合理性を追求しすぎたか。もっと多くの一般魔道士の知識も得て普遍性を追求すべきだったな。その他には?」


 師匠であるシンディに促されつつ、肩に添えられた手に抱き寄せられ、安心したように頬を染め、シンディの胸に頭を預けつつフィーナは続ける。


「その、師匠が作った試作菓子の数々のうち、一部が一般販売でアイスクリームとして販売されていたので、わたしたちの試食結果が何らかの形で市場に活かされているのではないか、と思うことが多々あって」


「……こんな子供を試作菓子の餌食にしていたのか? なるほど、道理でフィーナが市販のアイスクリームを一度も食べたことがないわけだ」


 失笑しつつ、目だけは真剣にぎろり、と音がしそうな鋭い目つきでフィーナを抱くシンディを睨みつけたミリアムに、シンディは肩を竦めて応じた。


「公国に居た頃にも君たちに供したことがあったが、解析力が人並みの君たちの食感と味の感想は新作菓子の販路拡大には大きな役には立たなかった。

 合理性で言うなら、慧眼とも呼んで差し支えない解析眼を持ったフィーナのような特殊能力を持つ子の方が百倍以上は役立った。

 クレティシュバンツ商会の長として、売上の一部はアリサ=フィーナに与えた魔道二輪や、日々の食費その他の生活費に還元している」


「……あの魔道二輪って正当な報酬だったんですね……。道が石畳で揺れすぎるから、って長距離移動で大陸公路を走る以外では殆ど乗らなくなって久しいですが」


 フィーナが13歳の誕生日に与えられた魔道二輪の購入経緯に思い至り、やや難しい顔をする。自分が買い与えられた二輪ではあるのだが、運動音痴の気が強いフィーナでは乗りこなすことが不能で、もっぱらアリサが表に出ているときのみ走らせる魔道具となっている。


 それも、現代日本で普遍的に見られるアスファルト舗装などではない、石畳の道が多いこの世界では魔道二輪のタイヤがもろに凸凹を吸収してしまい激しい揺れに悩まされるため、タクミ率いる聖神軍団が敷き直した魔道二輪の高速走行に耐える、高水準の水平レベルを持つ、アゼリア王国の影響下にある国のみ舗装された『新大陸公路』以外は走行しなくなって久しいのだった。


「子供の方がああいう新しい魔道具を使いこなすのは早い、というタクミの進言で無償配布してみた初期生産ロット数台のうちの一台だから、気にしなくていい。――確かに、高速走行可能な性能よりも、それが走行する路面を整備し各国で平均化し広める方が先だった。おかげで新しいもの好きのごく一部の好事家以外で売れ行きは芳しくない」


「話が横道に逸れているようだ、シンディの趣味の商売の話はそれくらいでな? フィーナに説明を続けて良いだろうか?」


「あっ、はい、ごめんなさい! お話の続き、どうぞ!」


 慌てて頷きながらも、フィーナの片手は無意識のうちか、シンディのローブの一部を掴むように縋り付く様子を見せており。


「……なるほど、母親代わりという話は嘘ではなかったのだな。羨ましいものだ、不老不死の神の身で、人の子の親となるとは」


「合理性とは程遠いが、この子は状況的に言えば私が引き取った私の子供、と言ってもいいだろう。であれば、母親となる私の庇護下に置き、私が力及ぶ限り少ない神力ながら私の眷属として守護するのが最も合理的と思われるが」


「親元を離し送り出した先も、シンディ自身の影響力が最大となる古巣のアゼリア王国だったものな。引退したというのも嘘だろう、アゼリア王国魔道諜報部長シンディどの?」


「他国の国主の后にそのように推測されるのも目論見のうち、諜報機関の中継点として使用しているこの家の存在意義も含み、積極的に完全隠蔽させる意図がないとはいえ、何も知らぬ我が子に他人の口からそのような事実を突きつけるのは人間の礼儀には反するのではないだろうか? それに、あまり合理的ではないと思われるが」


「これは失言だったな。それに、逸れた話がそのままだ。――しかし、親子の話を絡めるのであれば、私は一旦退席しようと思うが?」


「――そうだな、フィーナが傷つき怖がっている様子が強い。申し訳ないが、ここからは家族の団欒とさせて貰おう。二階に上がって待っていて貰おうかな」


 それが合理的だろう、といつもの口癖で締めたシンディに鷹揚に片手を振って応え、脱いだ粗末なローブを小脇に抱えつつ、旅路の疲れか眠り込んでしまっているミツハを肩に担いだミリアムはそのまま、勝手知ったる家のように迷うことなくログハウスの階段を上がって去る。


 それをシンディに両腕で背後から抱かれる姿勢のまま目で見送ったフィーナだったが、フィーナを抱くシンディの視線は、換気のためと称して開け放たれたままだった入り口から、何かを追うように階段までをなぞるように視線を動かしていた。



――――☆



「そういえば、一緒に風呂に入るのも久しぶりだったな。あまり成長した様子はないが」


「……たった三ヶ月ですぐに成長したりしませんよっ。師匠も相変わらずじゃないですかっ」


 湯気に包まれた木枠の風呂場で、湯船に口元まで浸かっていた緑目のフィーナが、木桶で身体を流していたシンディに掛けられた言葉に反抗的に応じた。


「どれ、私も浸かるとしよう。それと、その呼び方はあまりにも他人行儀ではないかな? いつもの呼び方を忘れてしまったのだろうか?」


「えっ、あっ、えっと。忘れてないです。……ママ」


「うむ、やはり呼ばれ慣れた呼称の方がしっくり来るものだ。そのように呼ばれた時間が短かったので、人間の慣習ではもう二度と呼んで貰えないのかと思ってしまった」


 やや狭い湯船に足から浸かり、両腕を風呂桶から出したまま、シンディが軽く立てて広げた足の間に先に浸かっていたフィーナを置く形となり、片手で身を縮めていたフィーナを抱き寄せる。


「ふむ? 少しだけ重くなったようだ。胸の脂肪も多少増えたか。成長期はまだ続いているようだな、身長は変わらないがそちらが先になったか」


「変わってないですってば、ママ!」


「フィーナの解析眼ほどの精度はないが、それでも私の観察眼は誤魔化せない、身長は0.3ミリ増、胸のサイズはアンダーは変わらないがトップは1.3センチほど増加している。ウェストも同時に2センチほど増えたようだな、いや、脂肪ではなくこれは背筋の成長に伴うものだな。肉体労働が多かったものと推測する、アリサが表に居る時間が長かったのだな。体重も……」


「わーっ!!」


 相変わらずの情け容赦のない神眼と呼べる精度の母親であるシンディの魔力の籠もった観察眼から発せられる解析結果が発言されることを阻害しようとばしゃばしゃと湯船で水音を立てて抵抗したフィーナだったが、抵抗虚しく増加分の体重を正確無比に言い当てられてしまい、むぅっ、と子供のように顔をしかめてしまった。


「さて、話の続きといこうか。先に言っておくと、アゼリア王国が就職先として失敗した、と思っているのなら、他にも私はフィーナの就職先を用意出来る。

 と言っても、ここから交通の便が良いところで、魔道士として経験を得つつ、アリサと交代する生活が許容出来る場、そして『これから発生する世界の半分を焼く戦争』で勝利する方、となると選択肢はそう多くないが」


 戦争、という言葉に反応し、フィーナはびくん、と身体を固めてしまった。


「やはり、戦争が近いのですね? アゼリア王国の王都に送り出したのは、わたしが巻き込まれるのを避けるため、でしょうか?」


「非合理的ながら、本来なら私を遥かに超える莫大な魔力を有するフィーナとアリサ双方を利用した方が今後の展開が簡単に進むのだが。なぜか、私はこの国からフィーナを遠ざける選択肢をしてしまった。これが母性というものの影響なのかは分からないが、非合理的結論を下した結果、という理解が可能だ」


 ――母性愛以外の何物でもないでしょうっ、師匠っ!


 くすくす笑いしている気配のアリサの言葉が風呂場に響き、相変わらずの無表情でフィーナを見ていたシンディに、赤面しつつ更にフィーナは甘えるように寄り添った。


「……ふむ。なかなか興味深い経験だ。さて、既に私が『神』である可能性には思い至っていると思うが」


「……はい。ママから教わった魔術構築式が、エイネールのクラオカミさまから教わった水の高等上級構築式と殆ど同じでした。神が編んだ魔術構築式の中でも、クラオカミさまを超えるほどに濃縮されて高効率化された魔術構築式を編める魔道士、という存在が人であるとは思えません。ですから、ママは神だと思います。――なぜ極端に魔力や神力を制限しているのかは分かりませんけど」


「良い推察だ。ひとつ考察にデータを加えるなら、私の魔力や神力は制限しているのではなく、実際にそれだけしか自由に使用出来るリソースがないのだ」


 やや姿勢を変えて、空いた両腕で裸身のフィーナをしっかりと抱き寄せ、細身ながら豊満な柔らかさを持つ程良い大きさの双丘に顔を埋める形となったフィーナの頭に軽くあごを乗せる姿勢となって、シンディは言葉を続ける。


「私の神力の大半は、この宇宙を構築する構造計算式へ、そして魔力の大半は、大陸を繋ぐ人柱であり、我が神器であり、敬愛する義理の兄とも呼べる、この実体を形作る遺伝子情報を貰った存在に1,000年前からずっと注がれ続けている。

 故に、私自身が自由に使えるリソースが殆どないため、私はこの世界に存在するどの神よりも弱く、力が少ない。故に、魔術構築式を極めて使用魔力を極限まで節約する必要性があった」


「神たる御身が、わたしを孤児院から引き取ったのは何故でしょう?」


「親子の間でそのような呼称はやめて欲しい、我が子にそのように他人行儀にされるのは地味に傷つく。――傷つくという感情を自身が有していることに驚くばかりなのが素直なところだが、これは私のわがままだな」


「……ええっと、じゃあ、ママ。わたしを引き取った理由は?」


「暗黒神タクミの指示による。あれは既に人間や通常の神々の枠を超え、この宇宙の過去から最後までを見通す未来眼を得た万能神であり、神々の王たる存在。

 元が人間の意識が非常に強いためになるべく人間の被害が少なくなるように分かりやすく人間の姿で動いてはいるが、本来はこの世界など指先ひとつで消し去れるほどの絶大な神力を有する全能神であるため、合理的に見るなら未来を予測している暗黒神の指示に従うのは当然の真理。……だったが」


 安心しきっているように両目を閉じてシンディの胸の上に預けているフィーナの濡れた髪を、片手で湯を掛け流しながら。


「我が神器に命じられた役割がまだ終わっておらぬ故、この世の全てを観察し記録する使命を持つ好奇心と知識の神である私が、その機会が大量に失われる戦争を甘受するわけには行かないのが『世界最初の冒険者』からシンディ・クレティシュバンツに与えられた使命でな。

 それに、我が子フィーナも応じられるのであれば協力して貰おう、と思っている。そこで、最初のミリアムとの話に繋がる」


 ぱちり、と目を開き、母たるシンディの目を真っ直ぐに見据えたフィーナに、自覚していないのであろう、唇の端をやや持ち上げるだけの不器用な笑みを浮かべて、シンディは告げる。


「その莫大な魔力と身体能力を、母シンディと、友ミリアムのために使って欲しい。

 ――ムーンディア王国はアゼリア王国に敵対行動を繰り返す西方諸王国連合の宗主国ディルオーネ王国に反乱し、西方諸王国連合から独立、クーリ公国、ドワーフ王国、アルトリウス王国と同盟し、隣接するエイネールの都と共に、諸王国連合との戦端の最前線となる。無論、私たちも出陣しなくてはならない。

 ……それが出来ないならば、戦争が終わるまでの数年、最も影響の少ないどこかの遠隔地で身を隠していて欲しい」


 唐突に大きくなったスケールに、適温の湯に長時間浸かっているにも関わらず、フィーナの全身は数度冷えたかのように身震いを繰り返した。



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