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その配信は【閲覧注意】~ダンジョン死亡配信録~  作者: にとはるいち
第二部

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第74話 ポリシー

 放っておけば、リザは死ぬ。

 助ける理由なんて、ない。


 ――ないはずなのに、気づいたら体が動いていた。


 大量の魔素を込めた渾身の一撃。

 ハンマーを、ドラゴンの頭部にぶち込んでやった。


 ――ドンッ!!


 それだけじゃない。同時に電撃も思いきり放つ。


 頭部への衝撃と電撃で、ドラゴンはかなりショックを受けたらしい。

 悲鳴をあげながらフラフラとしはじめた。


<コメント>

・おお!??

・助けた?

・なんで

・ヤヤコ頑張れ

・逃げればよかったのに


「私の配信は、『死ぬ瞬間はNG』なんだよ!!」


 そう叫んで、リザのところへ駆け寄る。


「な……なんで?」

「いいから掴まれ!」


 状況が分かってなさそうなリザの腕を肩に回し、移動するのを助ける。


 すぐさま二人でその場を離れる。

 ドラゴンが通れなさそうな狭い通路を通り抜けて、広いエリアに出た。


「はあ……はあ……ここまで来れば大丈夫だろ」

「なんで……、なんでボクを助けたの……?」

「なんでって……」


 はあ、と一呼吸置く。


「さっきも言ったろ。死ぬところまでは撮らないって決めてる。配信者としての、私なりのポリシー」

「そんなの……」


 そこまで言って、リザは押し黙った。

 あえて、顔を見ないようにしてやる。


「……もしも、ボクが途中でキミを攻撃してたらどうするの?」

「してないじゃん。……それで、十分でしょ?」

「……キミは、甘いよ。でも……」

「でも、なに?」


 リザは、今にも掻き消えそうな小さな声で、「ありがとう」と言った。


 その言葉は、ダンジョンの空気に溶けるみたいに小さかった。


 私は何も返さなかった。

 代わりに、リザの体をもう一度しっかり支え直す。


「歩ける?」

「……少しだけ」


 足を庇うように、リザは体重を預けてくる。

 チェーンソーは、いつの間にか電源が落ちていた。

 あれほど騒がしかった刃の音が消えて、やけに静かだ。


 ドラゴンの気配は、もう遠い。

 さっきの一撃で完全に倒したわけじゃない。

 でも、追ってくる様子もない。


 ――十分だ。


 私たちは、出口に向かって歩き出した。


 通路は、来た時よりも長く感じた。

 一歩進むたび、リザが小さく息を漏らす。

 足を引きずる音が、妙に耳に残る。


<コメント>

・二人で帰るのエモい

・こういう結末になるとは……

・仲良しかよ

・まさかの介助

・リザ素直じゃん

・生きて帰れるのか

・ドラゴンどうなった?


 コメントに答える余裕はない。

 ただ黙って、歩いて、登る。


 やがて、外光が見えた。


 人工の明かりじゃない、ちゃんとした「外」の光。

 それを見た瞬間、肩から力が抜けた。


「……外だ」


 ダンジョンを出たところで、救急車を呼ぶ。

 ダンジョン内でなければ、救急組織もちゃんと来てくれる。


 しばらくして、サイレンを鳴らして救急車が来た。


 ざわつく声。無線。慌ただしい足音。


「担架! 早く!」

「怪我人一名、意識あり!」


 リザはそのまま担架に乗せられた。

 足元は応急処置で固定され、シートをかけられる。


 救急車のドアが開く。

 あの狭い箱の中に運ばれる直前、リザが私を見た。


「……ねえ」


 声は、いつもの挑発的な調子じゃなかった。


「次に会った時さ」

「……ん?」


 リザは、口の端を少しだけ上げる。


「また、殺し合おうよ」


 相変わらずだ。

 本当に、どうしようもない。


 でも――


 私は、つられて笑っていた。


「ああ……そうだな」


 それで満足したのか、リザは目を閉じた。

 救急車のドアが閉まり、サイレンが鳴り出す。


 遠ざかっていく音を、私は黙って見送る。


 助けた理由は、今でもうまく言葉にできない。

 正解かどうかも、分からない。


 それでも。


 ――私は、私のポリシーで戦った。


 それだけは、胸を張って言える。


 ダンジョンの入口を背に、私は配信を切った。

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