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その配信は【閲覧注意】~ダンジョン死亡配信録~  作者: にとはるいち
第二部

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第64話 後継者?

 刃が、身体に向かってくる。


 ゴブリンの短剣。

 血の匂い。

 間に合わない、と理解した、その瞬間――


 視界の端で、ゴブリンの歪んだ笑みが見える。

 こいつは――私を殺すつもりだ。


 体内の魔素は、もう枯渇してる。

 足も、動かない。

 頭の中で、無数の後悔が一瞬で駆け巡る。


 ああ、ここまでか……。


 そう思った、その時――


 ――澄んだ音が、空気を切り裂いた。


 フォン、と。


 指揮棒が振られる、あの音だ。


 直後、私の横を、細い光線が走った。


 それは、派手な魔法ではなかった。

 爆発も、轟音もない。


 ただ一本、線を引くような一撃。

 「当てる」ためだけに研ぎ澄まされた、冷静な魔法。


 正確で、無駄がない。


 ゴブリンの頭部が、弾けるように吹き飛び、体が前のめりに崩れ落ちた。


「……っ」


 私は、呆然とそれを見た。


 遅れて、足音。

 コツ、コツ、と。

 見覚えのある靴音が、こちらに近づいてくる。


「――間に合って、よかった」


 振り返ると、そこにゲンゾーがいた。


 ステッキを片手に立っている。

 相変わらず、余裕のある立ち姿。

 衣装にも、体にも、致命傷はない。


 ――生き残る選択を、ちゃんと選んだ人間の姿だ。


「……逃げたんじゃ、なかったんだ」


 私の声は、かすれていた。


「逃げましたよ」


 ゲンゾーは、あっさりと言った。


「合理的な判断でした」


 彼は、視線を落とす。


 転がるゴブリンの死体。

 魔素の痕跡。

 私の、膝をついた姿。


「戻るべきではない、とも思いました」


 ステッキを、軽く床につく。


「それでも――」


 彼は、私を見た。


「君が、突っ込んでいく背中が、どうしても脳裏から離れなかった」


 彼の声が、ほんの一瞬だけ揺れた。

 たぶん、本人も気づいていない程度に。


 ――後悔だ。

 あるいは、羨望かもしれない。


<コメント>

・戻ってきた!

・助けた……

・ゲンゾー良い奴?

・これは……

・空気重い


「……正直に言いましょう」


 ゲンゾーは、静かに言う。


「私は、君ほどの覚悟を持っていません」


 意外なほど、はっきりした声だった。


「私は、生き残るために判断します。映像を残すために距離を取る。危険を排除し、美しさを整える」


 少し、自嘲気味に笑う。


「それは、間違いではない。ですが――」


 彼は、一歩、私に近づいた。


「君は、踏み込みました」

「……」

「死ぬかもしれないと分かっていて、それでも前に出た」


 私は、何も言えなかった。

 事実だからだ。


「それを、美しいとは思いません」


 意外な言葉。


「無謀で、濁っていて、危うい」


 一拍の間。


 彼の言う「美しさ」は、壊れないことだ。

 計算できること。

 予想できること。

 再生数が、次も約束されていること。


 私のやり方は、その全部を裏切っている。


「……ですが」


 彼は、はっきりと告げた。


「それが、アリサ女史のいた場所なのだと、今は思います」


 胸の奥が、ひくりと痛んだ。


「私は、彼女を“再現”しようとしました」


 ゲンゾーは、ステッキを軽く回す。


「君は、彼女と同じ“崖”に立とうとしている」


 そして、静かに頭を下げた。


「負けです。アリサ女史の座は、あなたに譲るしかありません」


<コメント>

・負け認めた……

・大人だ……

・これは……

・静かな敗北

・格が違うな


 私は、息を吐いた。


「……譲るとか、譲らないとか」


 絞り出すように言う。


「正直、どうでもいいんだけど」


 ゲンゾーは、少しだけ微笑んだ。


「ええ。そうでしょう」


 そして、言った。


「それでも――」


 一瞬、言葉を選ぶような間。


「ヤヤコ君。君こそが、彼女の後継者なのかもしれません」


 その言葉は、称賛とは感じられなかった。

 祝福でもない。


 きっと――呪いに近い。


 私は、即座に否定しなかった。

 否定できなかった。


「……買いかぶりすぎ」

「かもしれません」


 ゲンゾーは、踵を返す。


「私は、私のやり方に戻ります」


 背中越しに、言葉が残される。


「美しい映像を、無理のない場所で……それが、私の限界ですから」


 コツ、コツ、と足音が遠ざかる。

 シルクハットの影が、通路の角に消えた。


<コメント>

・去った……

・いい回だった

・大人の決着

・ヤヤコ……

・次どうなるんだ

・まあ、勝ちだな笑

・アリサ継ぐの?


 私は、その場に座り込んだまま、天井を見上げた。

 右肩が、じんじんと痛む。

 体は、ボロボロだ。


「……継ぐ者、ね」


 小さく呟く。


 そんなつもりは、ない。


 ただ――


 負けたまま、終わるのは、嫌だ。

 

 それだけだ。


 私は、ゆっくりと立ち上がった。


 次は、もっと厄介なのが来る。

 直感が、そう告げていた。

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