第37話 救命部隊の視点
ダンジョン救命部隊・第五班の詰所は、無機質だった。
金属壁。
白い照明。
消毒液の匂い。
帰還後の報告書作成は、いつも通り淡々と進んでいた。
「……で、この件だが」
班長が、タブレットを操作する。
画面に表示されたのは、例の配信の切り抜きだった。
『救助活動中の無断撮影について』
公式声明の草案。
そして、その下に並ぶ無数の動画リンク。
「もう、ここまで回ってます」
若い隊員が言った。
声に、疲労がにじんでいる。
「止めようとしても無理ですね。消しても、切り抜きが増えるだけだ」
誰かが小さく舌打ちした。
班長は、画面を閉じずに言う。
「問題は、炎上していることじゃない。……彼女が、間違ったことを言っていない点だ」
空気が、少し重くなった。
「法的には、何も問題ない。ダンジョン内での撮影禁止規定も、現時点では存在しない。……我々に、排除する権限はない」
「でも……」
現場でアリサと対峙した隊員が、口を開く。
「あの目、見ましたか? 怒ってもいない。煽ってもいない。ただ……最初から、結果を知ってるみたいな目だった」
別の隊員が言った。
「まるで、俺たちが来ることも、助かるかどうかも、全部、予定通りだって顔でした」
班長は、少し考えてから答える。
「彼女は、人を助ける側じゃない。でも、邪魔をしているわけでもない」
「……じゃあ、何なんですか」
その問いに、班長はすぐに答えなかった。
少し間を置いてから、低い声で言う。
「『見届ける側』だ。……結果を、最後まで見たいだけの人間だ」
沈黙。
「危険ですよ」
若い隊員が言う。
「彼女の配信を見て、同じことをする探索者が出てる。救助のタイミングが遅れる可能性もある」
「分かってる」
班長は、頷いた。
「だから、対策は検討する。だが――」
そこで、言葉を切る。
「彼女を止めたところで、何も終わらない。もう、『そういう見方』は、世の中に出てしまった」
詰所の壁に、遠くのダンジョン映像が流れている。
また、どこかで救助が始まっている。
「……彼女は、いずれ自分の番が来る」
誰かが、ぽつりと呟いた。
班長は否定しなかった。
誰も、反論しなかった。
ただ一人。
あの日、最後尾で振り返った隊員だけが、黙ったまま画面を見ていた。
そこには、アリサの無表情な顔が映っている。
――撮るのは、私の仕事です。
その言葉が、頭から離れなかった。
彼は、思う。
彼女とは、ただ「仕事が違う」だけじゃないか、と。
自分たちは助ける。彼女は撮る。
そういう棲み分けだ。
ダンジョンは自由なのだから。
もしかしたら、また彼女と出会う時があるのだろうか。
その時は、一体どういう展開が待ち受けるのだろう。
そんなことを考えていると、次の出動要請が鳴った。




