第31話 模倣
その配信を知ったのは、偶然だった。
大学の帰り、スマホを開いたときに、関連配信として一覧に流れてきたのだ。
【閲覧注意】第五層・探索者事故映像
——定点配信
サムネイルの時点で、嫌な既視感があった。
魔石の光。
固定されたカメラ。
余白を意識した構図。
開く前から、内容が分かってしまった。
再生すると、予想は裏切られなかった。
画面の中央には、倒れた探索者。
角度は低すぎず、高すぎず。
背景には、淡く脈動する魔石の岩壁。
――上手い。
正直な感想が、それだった。
無駄な寄りも、過剰な演出もない。
視聴者が、どこを見ればいいのか、
迷わない画面だった。
撮っている側が、「見せたいもの」を分かっている。
不快感はない。怒りも、嫉妬も、ほとんど湧いてこない。
ただ、自分がやってきたことが、そのまま「形式」として切り取られているのを感じただけだ。
嫌な既視感、というより、「ああ、こうなるよね」という納得に近かった。
私がやってきたことは、難しい技術じゃない。
ただ、踏み込むかどうかの問題だった。
<コメント>
・最近こういう配信増えたな
・深層は、こう撮ると映える
・どっかで見た構図
・元ネタ分かると冷める
・まあ映えるよね
元ネタ。
その言葉を見て、私は画面を閉じた。
数日後、別の配信でも、似たような画面を見た。
また別の日にも。
事故現場。
定点カメラ。
余計な言葉はなく、ただ映すだけ。
模倣というより、流行だった。
流行は、誰かが作るものじゃない。ただ、広がるだけだ。
そう考えることで、私は自分の立ち位置から、少しだけ距離を取っていた。
深層に潜る探索者が増え、死亡事故も増え、それをどう「見せるか」という型が、いつの間にか共有されている。
その中心に、自分がいることを、考えないようにしていただけだ。
その日の配信で、案の定コメントが流れた。
<コメント>
・最近アリサ系の配信増えたよな
・影響力すげえ
・やっぱアリサよ
・真似されるのどう思う?
・責任感じない?
「……どうも思いません」
少しだけ間を置いてから、そう答えた。
「私は、私の配信をしてるだけなので」
<コメント>
・ドライで助かる
・まあそうだよな
・真似した奴の自己責任
・アリサが悪いわけじゃない
・さすがアリサ
話題は、それ以上広がらなかった。
広げようとするコメントも、自然と流れていった。
配信を切ったあと、しばらくスマホの画面を見つめていた。
黒くなった画面に、うっすらと自分の顔が映る。
責任はない。
そう言い切ることに、嘘はない。
私が撮っているのは、現実だ。
誰かにやれと命じたわけでも、深層へ行けと背中を押したわけでもない。
ただ――
「どう撮れば、よく見えるか」を、私は知っている。
それを知ったまま、何も考えていないと言えるほど、鈍感でもなかった。
でも、だからといって、やめる理由にもならない。
誰かが真似をするなら、すればいい。
その結果がどうなろうと、それはその人の物語だ。
私は、私のカメラを構える。
誰かを導きたいからじゃない。
正しさを示したいわけでも、警告したいわけでもない。
ただ、そこにあるものを、ちゃんと見える形にする。
それだけだ。




