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その配信は【閲覧注意】~ダンジョン死亡配信録~  作者: にとはるいち


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第21話 最終試練

 翌日、最後の戦闘訓練ということで、再び戦闘用のエリアにやってきた。

 しかし、どこにも魔物が見当たらない。


 訓練エリア特有の、魔物の気配がない。

 耳を澄ませても、あの不規則な足音も、呼吸音も聞こえなかった。


 おかしい。

 ここは、必ず何かが湧く場所のはずだ。


 背中にじっとりと汗が浮かぶ。


 ――嫌な静けさだ。


 ダンジョンは、静かなときほど危険だ。

 何も起きていないのではなく、何かが起きる準備をしている。

 それを、私はもう何度も配信で見てきた。


 今日も、きっとそうだ。


「魔物が見当たりませんが……」


 私はトレーナーに聞いた。


「今日は最終試練だが、戦う相手は魔物ではない」


 トレーナーがニヤリと笑って言った。

 その言葉の意味を理解しはじめる……。


「まさか……」

「そうだ。今日の相手は、私だ」


 なるほど、そういうことか……。

 一瞬、胸の奥がひやりと冷えた。


 魔物相手なら、まだいい。

 行動パターンがある。予測できる。倒し方も、映し方も考えられる。


 でも、人間は違う。


 人は、こちらの意図を読む。

 弱点を突くことを躊躇しない。

 そして何より――「闘いに慣れている」。


 目の前のこの男は、間違いなくその側の人間だ。


 私は警戒してトレーナーと距離を取った。


 すぐさま拳銃を具現化させ、戦闘態勢になる。


「いい反応だ……探索者を相手にするなら、そのくらいのスピードで判断と行動をしなければいけない」

「鍛えられましたから」

「準備はできてるようだな。では、始めようか」


 そう言ってトレーナーは右手に剣を具現化させた。

 マチェットナイフだ。


<コメント>

・相手トレーナーかよ!!

・アリサ頑張れ〜

・今度こそ負けろ

・ラスボスじゃんwww

・つよそう

・勝てるんか?

・トレーナー近接タイプか


「殺す気でかかってきて構わないぞ」

「……分かりました」


 そう言われたので、私は銃口をトレーナーに向けて、一発発砲した。

 当たったら死ぬんじゃないか、と思ったが――


 ――ガキィン、という金属音が響いた。


 弾丸が、マチェットで弾かれたのだ。


「ウソでしょ……」


<コメント>

・ええええええ

・マジか

・やっばwww

・ガチすぎる

・これは負けたろ

・なんで見えるんだよ

・トレーナーさん!?


 一瞬、頭が真っ白になった。


 銃が通じない?

 そんな馬鹿な。

 今まで、何体の魔物を撃ち抜いてきたと思ってる。


 でも、目の前の現実は変わらない。

 弾は、確かに弾かれた。


 落ち着け。

 私は、強く息を吸い込む。

 恐怖を感じる前に、考える。

 そうしないと、死ぬ。


 ダンジョンでは、驚いた方から死ぬ。


「どうした? 一発で終わりか?」

「さすがですね……」


 その後も、私は何度も引き金を引いた。


 しかし、すべて防がれる。

 撃てば弾かれ、距離を取れば詰められ、攻撃される。

 逃げれば逃げるほど、追い込まれていく。


 トレーナーは、決して無理に踏み込んでこない。

 かといって、こちらに反撃の隙も与えない。

 圧倒的な技量差。まるで、獲物が疲れるのを待つ肉食獣だ。


 攻撃すべてを防ぐことはできず、何度も切り傷を負う。

 血が滴る。

 距離を取り、なんとか回復弾で傷を治癒する。

 再び斬撃を喰らい、また回復弾。

 わずかな隙を見つけて発砲しても、マチェットで弾かれる。

 さらに斬撃。

 傷を負う……


 これは……ヴェインパペット戦の時と同じだ。しかし、今度の相手は弱点を見つけられない……。


 決定打がないまま、じりじりと削られていく。

 少しずつ、体内の魔素や血液が流れ出ていく。

 このままでは、動けなくなるのも時間の問題だ……。


 私は、無意識に計算していた。


 あと何発、回復弾が撃てるか。

 あと何度、斬られても立てるか。

 致命傷になる角度はどこか。

 死ぬとしたら、どの瞬間か。


 不思議と、そこに感情はなかった。

 怖くもない。悲しくもない。


 ただ、数字と距離と時間だけが頭の中に並んでいる。


 ――ああ。

 私、こんなふうに死ぬ可能性を数えながら戦えるようになったんだ。


<コメント>

・当たらねえ……

・トレーナー硬すぎ

・これは無理じゃね?

・膠着してんな

・アリサ押されてるぞ

・アリサもいい動きしてる

・このまま負けそう


 息が荒くなる。

 体力も、魔素も、確実に削られている。


 このままじゃ……負ける。


 そう思った瞬間、不思議と恐怖はなかった。

 代わりに頭が、やけに冷えている。


 どうする?

 どうやって、この人を止める?


 ――正面からじゃ、勝てない。


 私は一瞬だけ、トレーナーのマチェットを見た。

 あの刃は、弾丸すら弾く。


 ……だったら。


 私は弾を生成する。

 魔素の流れを変える。

 これは攻撃弾じゃない。


「……?」


 トレーナーがわずかに眉を動かした。


 私は、そのまま引き金を引いた。


 放たれた弾丸は、トレーナー本人ではなく、マチェットに向かって飛んだ。


 ――キィン。


 刃に弾が触れた瞬間、緑色の光が弾ける。

 回復弾のエフェクトだ。


「……っ!」


 強烈な光が一瞬、視界を覆う。

 完全な目くらまし。


<コメント>

・え?

・回復弾!!?

・なにそれ!

・目くらましか!

・頭いいじゃん

・今だ!!

・やりおる


 私は、一気に距離を詰めた。


 トレーナーが反応するよりも早く、懐に飛び込む。

 教わった通りの動き。

 足をかけ、体重を預け、軸を崩す。


「――!」


 そのまま、組み倒した。


 重たい音を立てて、二人で床に倒れ込む。


 私は即座に体勢を立て直し、銃口をトレーナーの頭部に突きつけた。


 しかし同時に……冷たい感触が、首元に触れる。

 トレーナーのマチェットが、私の喉元に沿っていた。



 一瞬の静寂。



 心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。


 私の指は、引き金にかかっている。

 トレーナーの刃は、確実に私の喉を捉えている。


 撃てば、相手は死ぬ。でも、私も死ぬかもしれない。


 この距離、この角度。

 どちらが先に死ぬかは、運の問題だ。


 でも、なぜか私は、それでもいいと思っていた。


<コメント>

・相打ち!?

・やば!!

・止まった!!

・これどう判定?

・撃っちゃえ笑

・アリサやった!?

・いや首に刃あるぞwww


 互いに、一歩も動かない。


「……相打ち、ですかね」


 私がそう言うと、トレーナーは小さく笑った。


「いや」


 彼は、マチェットを下ろした。


「合格だ」


 私は目を瞬いた。


「ここまで私を追い詰めた相手は、初めてだ」

「……本当ですか?」

「ああ。力でも、速度でもない。発想と判断力だ。探索者として、十分すぎる」


 トレーナーはそう言って、立ち上がる。


「それに――」


 少しだけ、真剣な目で私を見る。


「君は、死を恐れない。いや……死を利用できる」

「……」

「それが危険だという自覚さえあれば、君は生き残れる」


 私は、黙ってうなずいた。


<コメント>

・合格きた!!

・やるじゃんアリサ

・普通に強くなってる

・トレーナー評価高くね?

・最終試練クリアおめ


 こうして、私の特訓は終わった。


 でも――

 本当の意味での戦いは、これからだ。


 ダンジョンには、もっと残酷で、もっと美味しい「撮れ高」が待っているのだから。

 

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