わたくしたちは似たもの同士(1/2)
異変が起きたのは、出発から少し経った後のことでした。まだ目的地に着いていないのに、ドリーム・エクスプレスが止まったのです。
窓の外には、どこかの駅のホームが見えました。メアは顔をしかめます。
「このわたくしを乗せているというのに、寄り道なんていい度胸ね」
文句を言ってやろうと、メアは機関室に乗り込もうとしました。けれど、その前にヒュウの見張りにつけておいたムーマがやって来ます。
「女王様! ちょっと困ったことになりました!」
「困ったこと?」
トラブルでもあったのかと思っていると、外から声が聞こえてきました。
「おやおや、誰かと思えば、落ちこぼれのヒュウくんじゃありませんかぁ~」
ホームにいたのは駅長の格好をした職員さんでした。汽車から降りてきたヒュウに、嫌味っぽい態度で話しかけています。
「こんなところで何してるんです? 今は列車が運行する時刻ではないはずなのに。落ちこぼれくんは、ダイヤも頭に入ってないんですかねぇ」
「何よ、あの駅長。嫌な感じだわ」
身を屈めて見つからないようにしながら外の様子をうかがっていたメアは、眉をひそめました。アモンも「まったくですな」と同意します。
「ネチネチ悪口を言うなど、卑怯者のすることです。悪事は大胆にしてこそ価値があるというのに。我らが女王、メア陛下のように!」
「そうだそうだ!」
ムーマたちも賛成します。駅長は相変わらずヒュウをいじめていました。
「決められた時間に汽車を動かすこともできず、こんなところでフラフラと遊び歩いているとは、のんきなものです。これでどうやって車掌になれたのやら……」
メアの不愉快な気持ちは、時間が経つごとにどんどん膨らんでいきました。
それと同時に、ちょっぴり申し訳なさも感じてしまいます。だって、ヒュウが予定外の時間に汽車を出すことになったのは、メアのせいだったのですから。
せめてヒュウが何か言い返してくれたらいいのですが、彼はただオドオドとするばかり。今にも泣き出しそうな顔です。
ついに、メアは見ていられなくなりました。
「緊急で列車を出すなど、臨時列車の車掌にでもなったつもりですかな? ふふふ、笑わせる。あれは優秀な方にしか許されないお仕事ですよ。君のような落ちこぼれでは、逆立ちしたって……」
「お黙り!」
低い声で言って、メアは杖から魔法を放ちました。それが駅長に直撃した途端に、彼はカエルに変身してしまいます。
「ゲコッ!?」
何が起きたのかすぐには分からなかったらしく、駅長はのけぞりました。自分の両手を見てそこに水かきが生えているのを発見し、やっと異変を察知したようです。
もう一度「ゲコッ!?」と鳴いて、慌ててどこかへと跳んでいきました。
メアは高笑いを飛ばします。
「ざまあ見なさい! 名付けて『カエルに変える作戦』よ!」
「最高です、陛下! キヒヒヒ!」
ムーマたちが拍手喝采して喜びます。ヒュウはポカンとしていました。
「今のはメア様が……?」
「他に誰がいるのよ。さあ、早く機関室にお戻りなさい。お前には、わたくしを夢の門まで送り届けるという大事な使命があるでしょう」
せき立てられ、ヒュウは汽車に乗り込みました。列車が動き出し、メアは旅を再開します。
ヒュウが客車へとやって来たのは、その直後のことでした。
「何でここにいるのよ!」
メアは飛び上がりました。
「運転はどうなるの! 事故を起こすわよ!」
「へ、平気です。この列車、自動操縦なので……」
取り乱すメアをヒュウは落ち着かせます。「あら、そうなの」とメアは意外に思いました。
「ドリーム・エクスプレスって、運転手がいないと動かないんだと思っていたわ」
「他の列車はそうですよ。でも、この汽車は特別なんです」
「お前、特別な汽車に乗っているの? 落ちこぼれなんて言われてたのに」
駅での会話を持ち出され、ヒュウの顔がさっと赤くなります。メアは鼻を鳴らしました。
「お前はウジウジしすぎよ、ヒュウ。わたくしだったら、あんな礼儀知らずな態度は絶対に許さないわ」
「仮に陛下が許したとしても、我々が黙っていませんぞ!」
「お仕置きしてやる! キヒヒ!」
アモンたちが声を上げます。ヒュウはその光景に圧倒されていました。
「メア様は僕なんかと違って、大勢の仲間に好かれているんですね」
「そんなことないわ」
メアは窓枠に頬杖をつきました。
「わたくしは悪夢の国を支配する女王なのよ。眠りの世界の嫌われ者だわ。お前だって、わたくしが列車を乗っ取ったときにびっくりしてたじゃない」
「あれは……その……。ハイジャックされれば、誰だってあんな反応をすると思います」
ヒュウは控えめに言いました。
「確かに、メア様は夢の国では怖がられていますけど……でも、噂ほど悪い方じゃないんですね。僕のために仕返ししてくれるなんて……。え、えっと、ありがとうございました。僕、どうしてもお礼が言いたくて……」
「そんなことのためにここまで来たの? お前は中々礼儀をわきまえているようね」
メアは気分がよくなりました。
「分かったわ。褒美として、夢の門までの旅の間、期間限定でわたくしの手下にしてあげましょう」
「て、手下!?」
「どうしたの、喜びなさいよ。名誉なことよ」
メアには、ヒュウが断りたそうな顔をしている理由が分かりません。ムーマたちも「キヒヒ! 同僚!」と手を叩いています。とても嫌とは言えない雰囲気でした。
「あ、ありがとうございます……」
ヒュウは小声で返事しました。メアはそうなるのが当然と思っていたので、女王らしい寛大な微笑みを向けてあげます。




