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メアは悪夢の女王様  作者: 三羽高明


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1/7

悪夢の国のメア(1/1)

「また人間を誘拐できなかったですって!?」


 ここは、人間たちが眠っているときに行く眠りの世界。その眠りの世界にある悪夢の国のお城では、怒鳴り声が響いていました。


「どうしてよ! こんなに何回も失敗するなんて、あり得ないわ!」


 怒っているのは、立派な玉座に腰掛けた美女でした。透き通った銀の髪と、宝石のようにきらめく赤い目。片手には身長よりも高い杖を持ち、着ているのは豪華なドレスで、頭には冠をかぶっています。


 彼女の名前はメア。この悪夢の国の女王様です。


 女王に怒られて小さくなっているのは、ギザギザの歯が生えたちょっと不気味な妖精たち。彼らはムーマという種族で、メアの手下でした。


「だけど陛下、今回はすごくいいところまで行ったんです!」

「後ちょっとだったんですから!」

「でも失敗したじゃない!」


 言い訳をするムーマたちを、メアは睨みつけます。メアの執事のムーマが「まあまあ」となだめるように言いました。


「やはり人間を誘拐するなど無茶な話なのですよ。潔く諦めた方がよろしいのでは?」


「アモンまでそんなこと言って! 嫌よ、嫌! 絶対に嫌!」


 メアは駄々をこねます。


「わたくし、どうしても人間が欲しいの! どうしても、どうしてもよ!」


「ですが、陛下……」


「何を言っても無駄よ! わたくしは諦めないわ! この『人間を誘拐してきて、友だちになってもらおう作戦』を!」


 メアが頬を膨らませます。


「だってこの世界じゃ、わたくしは皆の嫌われ者なのよ! 皆わたくしを見たら怖がって逃げていくか、石を投げるかのどちらかなの! それってつまり、誰も友だちになってくれる人がいないってことよ! 何をしてもひとりぼっち! 毒沼での水泳大会も、ヒキガエルのコンサートも、一人きりじゃ全然楽しくないのに!」


「陛下……」


「この世界の人たちがわたくしを嫌いなのは、わたくしが悪夢の女王だからよ! でも、人間ならきっとわたくしを理解してくれるわ! だからわたくしは人間の友だちが欲しいの!」


 メアは玉座のひじ掛けをトントンと指で叩きました。


「だけど、このままじゃ後百年経ったって人間の友だちなんかできないわ」

「すみません、女王様。俺たちが役立たずなばっかりに……」


 任務に失敗したムーマたちがしゅんとなります。すっかりしょげきっている手下たちがかわいそうになって、メアは「いいのよ」と首を振ります。


「怒鳴ったりしてごめんなさい。イライラしてたのよ、わたくし。……そうね、アモンの言うとおりかもしれないわ。人間をさらってくるのはとっても難しいことなのよ」


「では、計画は中止ですか?」


「まさか! わたくしは絶対に人間の友だちを作ってみせるわ。そのために必要なのは……そう、新しい作戦よ。その名も、『人間を誘拐してきて、友だちになってもらおう作戦・その二』!」


「おお!」


 広間のあちこちから感心したような声が上がります。メアは皆の反応に満足して「ふふん」と笑いました。


「今度の作戦はひと味違うわ。今までは眠りの世界に来た人間をさらう予定だったけど、『人間を誘拐してきて、友だちになってもらおう作戦・その二』では、人間の世界から直接誘拐してくるのよ! しかも、このわたくしが直々に!」


「なんと! 陛下御自ら!」


 アモンが目を丸くしました。


「それは成功間違いなしですな!」

「キヒヒ! さすが陛下!」

「俺もお供します!」

「ボクも!」

「私も!」

「陛下のためなら、火の中水の中、ドラゴンがうろつく荒れ野の中です!」


 ムーマたちが興奮し始めました。メアは「皆、よくぞ言ってくれたわ」と頷きます。


「早速出発よ!」


 メアは手下たちを率いて、玉座の間を飛び出しました。主人の後ろに付き従いながら、アモンが質問をします。


「ところで陛下、どうやって人間の世界へ行くおつもりですか?」

「決まっているでしょう。夢の門を通るのよ」


 夢の門とは、眠りの世界と人間の世界を繋ぐ役割をしているゲートのことです。人間は眠っている間にこの門を潜ることによって、眠りの世界へとやって来るのでした。


「ですが陛下、夢の門は夢の国にしかありません。そこまでどのように行くのです?」


 眠りの世界には二つの国があります。それがメアの治めている悪夢の国と、その隣にある夢の国です。


 門は夢の国にしかないので、人間は普通、眠っている間は夢の国で過ごします。


 うっかりと悪夢の国に足を踏み入れてしまう人間もたまにいるのですが、国内の不気味な風景にすっかり怯えて、すぐに逃げ出してしまうのでした。


「陛下のような美しい方がその辺をうろつけば、きっと夢の国の住人は大騒ぎすると思うのですが……。そうなれば、夢の門へ行くのは一苦労です」


「大丈夫、ちゃんと人目につかない方法を考えてあるわ。ドリーム・エクスプレスを使うのよ」


「ドリーム・エクスプレス! 夢の国を走る汽車ですな! 確かにあの列車は、夢の門の近くにある駅にとまります。ですが、乗客になれるのは人間だけだったはず。悪夢の女王である陛下を乗せてくれるでしょうか?」


「誰がまっとうな手段で乗るなんて言ったのよ。わたくしは汽車を乗っ取るつもりよ」


「ハイジャックですか!」


 メアの言葉に、ムーマたちが沸き立ちます。


「なんと素敵なお考えでしょう!」


「やっぱり陛下は違いますな。我々では考えもつかないような悪いことを、平然と実行に移そうとなさる!」


「作戦名はどうします?」


「そうね……『ドリーム・エクスプレスを乗っ取って、夢の門まで行こう作戦』でどうかしら?」


「素晴らしい! いつもながらに痺れるネーミングセンスです!」


 メアたちは悪夢の国を出て、夢の国に入ります。そして、最初に目に留まったドリーム・エクスプレスの駅へ向かいました。


 ピンクや黄色のレンガで作られ、鮮やかな花で飾られたホームには人気がありません。けれど、向こうの線路に一台の列車が止まっているのが見えました。


「あれにするわ!」


 メアはハイジャックする汽車を決めると、手下たちに合図を送りました。そして、魔法の杖を片手に機関室に乗り込んで行きます。


「手を上げなさい! この列車はわたくしが乗っ取らせてもらうわ!」

「ひぃい!」


 杖先を向けられ、車掌さんが情けない声を上げて尻もちをつきました。それからメアの顔を見て、頬を引きつらせます。


 アモンが「頭が高いぞ!」と威張り散らしました。


「このお方をどなたと心得るのだ! 眠りの世界で一番の美姫にして、偉大なる悪夢の国を治める……」


「メ、メアだー!」


 車掌さんは壁際の通信装置で助けを呼ぼうとしました。メアはすかさず魔法を放ち、装置を壊します。


「メア様とお呼びなさい。無礼は許さなくってよ」

「あわわわわ……」


 車掌さんは粉々になった通信装置を見て、ぶるぶると震えています。メアは車掌さんに「お前、名前は?」と聞きます。


「ヒ、ヒヒヒヒ、ヒュ、ウ……。ヒュウ、です、メア様……」


「ではヒュウ、質問に答えなさい。この汽車にはお前以外に誰か乗っているの?」


「ぼ、僕だけ……です」


「よろしい。それならお前に命令よ。わたくしは夢の門まで行きたいの。早く列車を出しなさい」


「ゆ、夢の門まで? でも……」


「でも? 『承知しました、女王陛下』、でしょう? それ以外の返事は聞きたくないわ」


 メアがヒュウの鼻先に杖を向けると、ヒュウはまっ青になって「承知しました、女王陛下」と早口で言いました。


「わたくしは後ろの車両にいるわ。ここには手下を残しておくから、妙な真似をしたら後悔することになるわよ」


 メアはヒュウの見張り役を近くにいたムーマに命じて、機関室から下がります。優雅に座席に腰掛けると、ヒュウによる車内放送が流れてきました。


「す、すべ……全ての、線路は……門へと、続く。せ、せんろ……線路がある限り、ど……どこまでも走る。しゅ、出発、進行!」


「随分下手なアナウンスね。彼、もっと練習した方がいいんじゃないの?」


「おっしゃるとおりですな」


 向かいの座席に座ったアモンが同意します。


 ガタンゴトンと音がして、列車が動き出しました。


「夢の門までどのくらいかかるかしら?」


「そこまで待たずともよろしいかと。いざとなれば、あの頼りない車掌を突っついて急がせればいいでしょうし」


「それもそうね」


 気の弱いヒュウなら、少し脅しただけで簡単に言うことを聞くだろうとメアは思いました。

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