実在するのかが疑わしい
それはなにかの作戦の合間の休憩時間だった気がする。
「なんか疲れた」
渋い顔で煙草の煙を手で散らしながらユウリは言った。
迷惑そうな顔に気がついてながら、立ち去ろうとはしない。微妙に距離をあけるのは煙草の臭いが苦手だかららしい。
好むものはあまりいないので、エリックだって気を使って離れた所でしか吸わない。緊急時以外は。
抑えがたい衝動を宥めるように煙草に火をつけてしまう時はある。
今は完全に休息として吸っているので、仕方なしに消した。ユウリに煙草の臭いでもついていれば、同門の後輩がうるさい。
「なにが?」
「俺さー、普通の子がいいと思ってたんだよね」
大変くだらない話をされそうな予感がする。エリックは煙草を消したことを後悔した。煙で追い払えば良かったのだ。
「よく言うな。モテない奴らに刺されるぞ」
「……ほんっとに、普通の子がいいんだよ」
「たとえば?」
げんなりしながらも聞いてやろうと思ったのは、ユウリ本人も困ってはいるのは知っていたからだ。
その先がどんなくだらない台詞だろうが、まあ、息抜きぐらいはさせてやる。その程度の寛大さがなければつきあえない。
「なんつーの? ちょっとしたことが幸せって感じ? 平和に一緒に暮らしたい」
ユウリの現状を思えば贅沢が過ぎるような気がした。エリックは指摘はしなかったが、呆れはした。
恋人という位置ですら、争奪戦が起こるくらいの男がなに言っているんだと血涙を流すものもいるだろう。
幸い、エリックはなにやってんだと冷ややかに見るくらいには冷静でいる。
「それで、朝起きたら女の子が、朝ご飯作ってくれておはようとか言ってくれんのよくない?
しかも、俺のことすごい好きってっ感じのっ!」
「馬鹿だろう。誰かに言ってみればやってくれるんじゃないのか?」
想定を越えてくだらなかった。妄言のたぐいだ。実在を疑う。
そんな妄言を言うのが英雄などと呼ばれるとは、とても思えない。まあ、時々、そんな愚痴にもならないことをエリックに言ってはばっさりとやられていくのだが。
「俺はいくらなんだって、ローゼの謎物体を朝から食べたくはない」
ユウリはきっぱり言い切った。
彼の幼なじみの少女が作るのは謎物体という。料理ですらない。
噂で聞いたものですら、人間の食いものなのかと思うくらいだったのだ。実際、食べるよう迫られる立場ならば、断りたい気持ちはわかる。
……そんなことを思い出した。
ユウリの妄言は現実に存在したらしい。




