軍法会議の扉「ギィィィィィー(笑)」
トライダー編。三人称視点で御送りします。
トライダーは苦悩していた。
自分のした事には一抹の後悔も無い。
あの後は私刑団を蹴散らしてトリスタンの事を詰問してみたが、彼らが口を割るより町の衛兵隊が駆けつけて来る方が先になった。
私刑団の多くは逃亡したが数人が逮捕された。今後、逃げた者の何割かは捕縛されるだろう。
トリスタンは結局、行方知れずだった。
あの夜、フレデリクが投げてよこした煙管がここにある。彼には喫煙の習慣があったのだろうか。
日用品を友人に預けるのはアイビスの王都辺りに古くからある習慣だ。本来は忘れたふりをして置いて行くものらしい。君とはまた会いたいという意味である。
彼には何でも見透かされてしまうなと、トライダーは思った。
預かった以上は返し方を考えねばならない。フレデリクは自分に、安易に死を選んだりするなと言っているのだ。
トライダーは今は拘束されていなかったが、衛兵には所在の解る場所に居るようにと言われていた。
宿も勧められたが、トライダーは夜で無人となった司法局のロビーのベンチで過ごしている。朝になったらヴァレリアンにアイリに会うよう強要した事、手配犯であるアイリを逃がした事を自分から供述するつもりだった。
だが今トライダーの心中を捉えているのはその事ではなかった。
トライダーは煙管を手に、目を閉じる。
―― 出会ったばかりの男が二人、そう簡単に馴れ合う物ではないよ
そう言って唇に指を添えたフレデリク。
あの光景が、どうしても忘れられない。
トライダーは頭を抱えた。
自分には……男色の気があったとでもいうのか?
そんな筈はない。
自分は良き親友と巡りあったのだ。
水路沿いの道で大勢の敵に囲まれ、背中を任せ合い戦った。
トリスタン……いや恐らくもっと強大な、邪悪な陰謀の手を二人で打ち破った。
同じ船を見つめた海辺。杯を手に語り合ったサロン。
何と充実した日だったのだろうか。それは百日も続いたかのように思えたが、実際にはほんの半日だった。
トライダーは首を振って邪念を払う。
自分はいつも短慮だった。これからはもっと、フレデリクのように、長く広い視野を持って物事を見なければならない。彼のように本質を見抜く事が出来ないなら、せめて物事の上辺だけでも、長く広く。見渡さねばならない。
戦いはまだ終わっていない。
フレデリクがブルマリンに現れたのは、単にアイリ嬢を救う為ではなかった。
強大で邪悪な敵とその陰謀。フレデリクには味方は居るのだろうか? 解らない。居ないという事は無いだろう。
自分の望みはいつの日かまた彼と轡を並べる事だ。その為ならどんな困難も乗り越えなければならない。





