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森の娘と最後の騎士  作者: OWL
第二章 森の娘
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★★第35話 嘘つきは嫌い

信じられない、信じられない、しんっじられっないっ!


なんで奴隷扱いされていた子供たちを拾ってきたら戦争状態になるの?

意味が分からないよ・・・。とにかくお互い頭を冷やして兵を引き上げてくれるようにお祈りする。

お父様はお城を出てお互いの勢力の境界線上まで兵を進めてしまった。


「おい・・・」


むしむし


「おい、お前!」


アルベルドがそう言って礼拝堂を出て行こうとしていたわたしの肩に手をかけようとするのをアルミニウスが遮る。

ふたりが喧嘩になると困るので仕方なく振り返る。


「お前じゃありません、アルベルド」


お姉さまとおっしゃいといってやりたかったけど、あいつにほんとにそう呼ばれても気持ち悪かったのでそれは口に出さず呑み込んだ。


「ふんっ、お前最近お婆様の治療に参加しているそうだな?」


無視してやろうと思ったけど、この話題を無視するのはさすがに気が引けた。

アルベルドでも肉親は大事だったみたい…、完全無比に欠点だらけの嫌な奴ってわけじゃなかったみたいね。最近わたしと一緒に毎朝お祈りするくらい信心深いし。


「そうだけど、何か?」

「お前が何か治療方法に心当たりがあるというのは本当か?何で俺でさえ一度も会わせて貰えなかったのにお前の塔に移った?俺も一度お見舞いをしたい、会わせろ」


お父様はわたしの事で詳しい事は自分の息子にも喋っていないので、そんな説明をしていたらしい。


「アルベルドには悪いけど、会わせる事は出来ない。お父様から聞いていないの?」

「伝染性があるとは聞いたが、それは抑える事に成功したんだろ?じゃあ問題無い筈だ」


あらかじめ打ち合わせしておくべきだったかな・・・。

お父様から聞いた懺悔話をアルベルドに教えてやってもいいのだろうか。


「エドヴァルド様は昔スーリヤ様の闘病中に禁を破って会った時あまりにも酷いお顔のご様子に驚いて酷い事を言ってしまったと悔やんでいらっしゃった。舞姫と呼ばれた評判の美姫だったのよ、爛れたお顔を見られたいと思う?諦めてちょうだい」


そういわれるとアルベルドもそれ以上駄々をこねるのは諦めた。

一応あんなでも騎士達に囲まれて教育を受けて育っただけあって、女性への配慮はあるらしい。

わたしには無かったけどね!

貴族で、しかも王族の立場からみれば平民の小娘なんて人間扱いしなくていい対象なんだろうけど。


「そうか、じゃあ今はいいが、本当に治るのか?」

「ええ、もう大分持ち直してる。スーリヤ様の生命力はもう病魔に打ち勝って意識が戻られるのも時間の問題だと思う。もう少し持ち直せばゲリアの泉まで連れて行ってあちらの清浄な空気と水に触れればもっと良くなる」

「嘘だったら承知しないぞ・・・。もし本当に治ってお会いできる日が来たらお前への恨みを忘れてやってもいい」

「それは過ぎた話じゃなかったの?」


蒸し返すなっていったのアルベルドなのに。


「対等な条件での戦いじゃなかったんだからそれはもうナシだ!そこのお前も!!騎士の誇りがあるならもう一度対等な条件でメッセールと戦え!!」


アルベルドは傍で控えているアルミニウスにも怒りのまなざしでそう言い放った。


「私は構いません、イルンスール様」

「やりたければ勝手にやりなさい。わたしを巻き込まないで。だいたいお父様が今更決闘のやり直しなんて許すと思うの?」


戦いはうんざりだ。今も戦争になろうかという時に、くだらない。


「ふんっ、じゃあもういい。汚い手段で勝ったと誇っていればいいさ。で、本当にお婆様は治るんだろうな。今日の祈りもお婆様の事か?ゲリアにおすがりでもしてたのか」

「今日は違う・・・お父様達の事です」

「なんだ、また勝利の祈りか。お前の祈りは霊験あらたかみたいだからな、せいぜい父上の為に祈れ」


こいつはほんとにむかつく言い方するなあ。


「違います。今はただ衝突する前に戦いを止めて欲しいって・・・」


わたしには軍事とか全然分からないけど、アルミニウスに聞いてもそこら使用人たちの話でもお父様の方が兵士の数少ないから決定的な勝利は得られないだろうっていうし、でもエールエイデ伯の方もお父様ほど強い魔導騎士は抱えていないっていうから向こうが勝っても、仮にもお父様は第四王子、最終的には王様が待ったをかけるだろうって皆いってるし、じゃあ戦いで死んじゃう兵士達ってなんなの?

最初から戦わなければいいじゃない。

だっていうのにアルベルドには馬鹿にされた。


「は、お前の脳みそはお花畑でいっぱいだな。それこそ今更だ。お前が農奴共を買う金を出した時点でもう戦いは避けられない」

「何でそうなるのよ。向こうの言い値でお金払うっていってるのに、何で戦いになっちゃうのよ」

「分からないのか。おい、アルミニウスといったか。お前もこいつの騎士なら説明くらいしてやれ」

「アルミニウス?」

理屈が分からないのでアルミニウスに水を向けてみるけれど、彼もこの国の事情はよくわからないと首を横に振った。


「主従そろって考え無しか。この貧しい地方で伯爵が突然7000人もの労働力を奪われたらどうなるか考えなかったのか?毎年契約して買い取りに来る商人に商品や農作物を引き渡せず、違約金を支払わされる。大損害だ」

「だから、ちゃんと十分な対価を支払ってるじゃない」

「はっ、支払いは長官が契約書を確認してからだろ。あんな法外な契約金認めるわけがない。行政長官は奴隷売買を禁止している帝国から来た官僚だし、奴隷売買を続けるか禁止するかは東方諸国の自由に任せてはいるがあんな契約書を見たら、査定額をもっと下げるに決まってる。いや、それどころか罰金の支払いを要求するかもしれない。伯爵が破産するのは避けられない。あいつはもう反逆するしかないんだよ」


今は弱みを誤魔化す為の適当な大義を捏造する準備をしているだけだっていう・・・。


「でも・・・だったらエドヴァルド様だって勝てるかどうかわからないんだから譲歩すれば衝突は避けられるんじゃ・・・」

「なんで父上が勝負を避けないとならないんだ?東方最強、いや帝国も含めて当代随一の父上だぞ。ずっと父上の権威に反抗的な勢力が公然と楯突くのを待ってたんだ。ようやく不遜な連中を処分してエッセネ地方を統一できる。お前が持ってきた話は渡りに船だった」

「じゃあ、何。お父様は戦争を起こすために、権力を握るために利用したっていうの?」

「そうだ。森林整備、河川工事をするには他領にも踏み込んで大勢の人手を投入し、工事計画を立てて主導しなければならない、あっちの民衆も父上に感謝して自分の領主より父上を重んじるようになるだろうさ。いい大義名分が出来た。時間が経てばたつほどあっちはじり貧だ」


うう・・・単に善意じゃなかったの・・・?

アルベルドもさすがに領主の子として育てられただけあってわたしとは視点が違う。

ショックを受けているわたしを尻目にアルベルドはアルミニウスにちゃんと教育しておけといって礼拝堂を出て行った。


気落ちしているわたしをアルミニウスとハンネが慰めてくれる。


「気にすることは御座いませんよ、お嬢様。間違った事なんかしていませんし、あいつらがおかしいだけです。けだもの達がお嬢様のお優しい心を利用しているだけです、あんな連中勝手に争わせておけばいいんです」

「・・・ハンネ。戦争が避けられないならハンネも一度故郷に戻った方がいいんじゃ・・・?」


この前ナジェスタから来た手紙で知らせてくれた話によると蛮族たちが南下してきたそうで、故郷の事が不安だろうから、ヨハンナ母さんがつけてくれた使用人達は一度帰郷して貰った。


「うちの農園なら大丈夫ですよ。シエイン高原からは大分遠いですし間にはギィエッヒンゲンがあるのですよ。アルミニウスさんも大丈夫だって言ってますしね」

「はい、イルンスール様。ディシア王国の事なら心配ありません。昔から何度か争ってきておりますが、連中と平原地帯での会戦では負けた事は一度もございません。特にこちら側の蛮族はあまり攻撃的ではありませんので、毎度毎度しばらくうろついたら満足して去っていきます。もしもの場合でも自由都市連盟がすぐに増援体制を整えて艦隊を派遣してきますし、近くのドゥーカス家にいる帝国の駐屯軍も睨みを利かせております」

「そう・・・?本当ならいいんだけど、アルベルドがいったようにわたしにはそういうことよくわからないから嘘をつかずに正直に言ってね?家族が心配なら一度戻って連れ出したっていいんだから」


またアルベルドに馬鹿にされるような事になるのは避けたい。


「私には扶養すべき家族はおりませんので心配ご無用です」


アルミニウスはそういって少し寂しそうに笑った。

彼がそんな顔をするのは珍しい。

いろいろあったけど、彼は誠実で頼りになる騎士だ。

レベッカ先生との闘いでも一対一で正々堂々とやった結果で、先生もまったく恨んでない。

主が酷い人だっただけで、地元の領主だったんだから彼のせいじゃない。


「そうなの?でも扶養家族じゃなくても従士さんって親戚の次男坊さんとかから選んで将来は騎士の見習いにして面倒見て有望なら騎士にしたりするんじゃないのかしら?お父様に先日聞いてみたのだけれど、前の従士さん呼び戻した方がいいんじゃない?お父様にはもうたくさんお金貸しちゃってるし、お給料なら払えるから是非そうして?前から思ってたのだけれど、アルミニウスには全然休暇上げられていないし、毎日毎日朝から晩までわたしの護衛だけだなんて、魔導騎士にして頂くには申し訳なくて」


お父様はラリサの周辺で募集してみては?とかいってたけど、気心知れてる人がいいだろうし、同郷の人が増えた方がいい筈だ。


そう思った。


「・・・そういった従士たちはもうおりません。あの時の従士たちは全員処刑しました」

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2022/2/1
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