★第15話 本日の転機は曇り、時々雷
せっかく朝の清涼な空気を吸っていたのに、また不快な気分に戻ってしまった。
あいつが邪魔したのがハンネやグリセルダだったらどうしてくれよう。
むかむか。
誰にも邪魔されない所へ行きたい。
いつもなら礼拝堂へいく時間だけど、どうもそんな気分じゃない。
視界に入る中央塔が邪魔だ。
南の黒っぽい塔も邪魔だけど、あっちは嫌な感じがするので行きたくない。
中央塔の中でもひと際高い小塔上なら邪魔するものは何もない筈。
ぺったんぺったん。
足の裏がひんやりして気持ちがいい。
しかし・・・思ったより疲れる。
脚が、ふとももが・・・。
イーザン老師みたいに、空を飛べればいいのに。
ん?やってみようか?
火の魔術は使うなと言われたけど、風はどうだったかな。
もうこれだけ疲れたら背に腹は代えられない、やろう。
こんなことならさっさと発動体の魔術装具も作って置けば良かった。
近くに漂うマナにちょっと手伝って体を浮かせて欲しいとお願いする。
よっと。
久しぶりだけど、すんなりマナが集まってわたしの体を浮かべ螺旋階段を支える柱の間から塔の外へ飛び出した。
上へ。
思ったより高くて勢いつけ過ぎ、ひょいっと屋上の上空まで飛び出してしまった。
くるんと一回転して勢いを殺してから着地する。これだけでマナが枯渇してしまった。
人がいた。
こんな所にまで・・・!
ていうか君たちいまわたしの広がった寝間着の中身見てたでしょ。
むむむ・・・!
身振りで出ていけと示し、腕を振る。
おや、上空で雷が鳴った。
えい
今度は轟音と共に雲の間にはっきり電光の柱が見えた。
ははは、面白い。凄く綺麗。
別に腕振らなくてもガンガン雷鳴り始めたけど。
この地方はこの時期嵐になることが多いんだってさ。
なんていうの・・・この年代にありがちな、はしかのようなものだってエイファーナお姉様が言っていたやつ。エーゲリーエ姉を見てそんなこと言ってたと思う。
わたしにはああならないでね、と忠告してくださったけど、御免なさいしておこう。
だって、面白いもの。これ。
今度は溜まりに溜まった不快感を込め、祓い捨てる様に腕を振る。
えいや
おお、大分低い位置まで柱が降りて行った。
もう少し。
どうせなら下の農地に落ちればいいのに。
そういえばあのお爺さんが魔術を実際に行使しなくてもいいからマナの流れを掴む鍛錬は続けておいた方がいいっていってたっけ。じゃあちょっと思い出して誘導するみたいな感じでやってみよう。
そーれ、そおーーーれ!!
おお、ガンガン雷が落ち始めた。
続いて大きな岩を目掛けて腕を振ると、落ちた雷が巨岩が砕き、破片が辺りに飛び散った。
うーん、爽快。
「あははっ、いいぞ、いいぞっ。落ちろ、落ちろっ。あはっ、あはははっ。そーれ、そーーーーーれっ!」
ついつい夢中になって楽しんでいると、いつの間にか後ろが騒がしくなっていた。
あ、いけない。
見、見られてた。
恥ずかしさを堪え、後ろで見ていた人物に思いのたけをぶちまけた。
<<お父様!約束は一体いつ叶えてくれるんです!!あのお爺さんはいったい何処で何してるんですか!?いつ帰ってくるんです!!!>>
<<約束?>>
ぎりっ、と口を噛む。
すっとぼけるのか。
父さんが信頼して任せたのに、裏切るのか!
血が沸騰しそうな怒りを覚える。
「待て!待つんだ!!老師は君の為に転移陣の研究をしている。それよりこの言葉は使わない約束をした筈だ」
う、それをいわれると弱い。
簡単な挨拶や騎士叙勲の儀礼くらいでしか使わない言葉だったっけ。
お父様もあまり流暢ではない。
「侍女は下で待て。他は全員出ていけ、メッセール達を呼んで塔を封鎖しろ。誰もここから東の塔までの間に近づくな」
お父様がいつの間にか来ていたハンネ達や、職務熱心な兵士たちを下がらせて二人だけになった。
「転移陣とは何の話ですか、約束は一体どうなっているんですか?」
「私は君を守ると誓った、それを違えるつもりはない。私が気が付いていない危険があるのなら教えてくれ」
うむむ・・・、確かに。お父様とはそれしか約束していない。
でもお爺さんの弟子でわたしの事を任せるとシャールミン様に言われてたんだから、お爺さんが返ってこないならその代わりをして欲しい。
「老師は君の故郷を訪ね歩くのは現実的でないとお考えなのだ。転移陣を応用する事で直接現地に飛ぶことができないか研究している。だが転移陣の新規設置は長年行われていないし、老師が得意としている系統ではない。目的地に準備がなくても可能かどうかすらわからない。帝都の魔術評議会の協力を得る事ができないかかけあっておられるのだ」
自分の派閥でないものに研究成果の秘奥を明かす事は無いのでかなり望みは薄いらしいが、持てるものを全て提供し交渉努力している最中だという。
「そうでしたか・・・済みません。あのお爺さんのいい加減な所しか見ていなかったので。たくさん立派なお弟子さんがいらっしゃるのですから、そんなわけありませんよね。わたしの前でそんなフリをしてみせているだけだったのですね」
「いや、いい加減な老人という認識で間違いはない」
あれれ?
「何にせよ、研究には時間がかかる。君に実現できるかどうか分からない事を教えて変に期待を持たせても可哀想だと思っていたのだ。不安にさせてしまったか?」
うん、凄く。
だって、約束してくれたのに2年近くも放置されてたのだ。
・・・あんまりだ、酷い。
期待させておいてほったらかしにするなんて。
でも約束は破ってなかったみたい、むしろ約束破ったのはわたし?
わたしまた悪い子になっちゃった・・・?
「泣かないでおくれ、済まなかった。そこまで思い詰めているとは気づかなかった。君を守ると誓ったのに、師匠の研究がうまくいかなければ私が代わりに故郷まで送り届けよう」
お父様はお詫びしてくれたけど、わたしがまた感情的に行動してしまっただけだ。
色んな人がいつも注意してくれてたのに、またやってしまった。
がっくりとして崩れ落ちる。
膝をつく前に様子の異常に気付いてさっと抱き留めてくれた。
さすがに騎士様だ。
「・・・あれ、お父様。鎧はどうされたのですか?」
常在戦場とかいって簡素な胸甲や一部の装備くらいは身に着けていた筈だ。
「もういい。騎士達がいるし、君が作ってくれたマントもあるからな。礼が遅くなって済まない、素晴らしい贈り物を有難う」
そういって抱き寄せて背中を撫でてくれる。
手つきは優しいけど、なんだかひりひりする。
くんくん匂いを嗅いでみると金気臭い。
とんとお父様の胸を押して、離れる。
「もう大丈夫ですから、ハンネ達を呼んでいただけますか」




